戦国武将の子 村を作る

琴音

文字の大きさ
7 / 20

皆の祭りはここから

しおりを挟む
神主の祈祷が終わり外で手を合わせていた者たちが一斉に動き出し盆踊りが始まった。

「神主様、幸三郎さまこちらへ」

佐治が案内して宴会の中央に私が隣に神主様が座った。

「名主様今年も滞りなく祭が迎えられて良う御座いました」
「ご足労ありがとう存じます。去年までの方は?」
「あはは。父ですがもう年でしてね。ここまで歩くことが難しくなりまして私が来させて頂きました。峠が多く日の出と共に歩いても父はもう辿り着けません……」

矍鑠とした御仁であったが寄る年波には勝てぬか。よく通る声で祝詞を奏上してくれたのだが……

「そのようなお顔をされますな。足腰は弱りましたが元気ではおります。朝晩のお勤めもこなしておりますから」
「そうですか。ではこれからは貴方が?」
「ええ。ここより一番近い神社は私共の社でございますから」

この者は二十を少し超えたくらいに見えるから私がお釈迦様の所に行くまでは来てくれるだろう。

「粗末なものですがごゆるりと楽しんで行って下さい」
「ありがとう存じます」

毎年少しずつ買い溜めている面を付け踊る者たちを見るのはいい。小唄もこの辺りのを採用しものだから大平からも少し様子を来ているようだ。最初に習い出した時大平の者たちに笛太鼓の譜面を見せてもらったが馴染みがなく四苦八苦したそうだが器用な者たちが直ぐに覚えた。その者たちの子らが今は混ざり中々の見栄えだ。

「名主様。私は町の者ですがここはこじんまりしておりますが中々の物ですな」
「町の祭りは盛大で屋台が出て城からも見に来るとか」

ふふっと微笑み、

「確かに盛大でいかにも祭りだと言う感じですが……この手作りで皆の嬉しそうな顔は変わりませんよ」
「世辞だとしても褒め言葉と受け取ろう」

小唄が一通り終わると太鼓と笛のみになる。踊っていた者たちがこちらに来て挨拶や飲め飲めと酌をして来る。

「幸三郎様も二人の子持ちになりいい父御ててごになられて……茂助は嬉しい……ううっ…」

はは……目を赤くして涙を溜めて私を見つめる茂助はもう出来上がっているのか?

「お前は泣き上戸か!」
「嫌ですよ!酒は関係ございません!本当に嬉しいんですよ!」
「お前の所は三人か。息子が二人の娘一人。よく兄弟で遊んでるのを見かける」

アハハと盛大に笑い、

「毎日うるさくてお菊が怒鳴り散らかして更にうるさい。困ったもんです」

大きな声で話すもんだからお菊が走ってこちらにに来て茂助の背中をスパンっと叩いた。

「お前さんが役立たずだからだよ!な~にが怒鳴り散らかしてるだ!この村は爺さん婆さんの手がないんだからあんたもしっかりしておくれ!」
「わかってるよぉおきくぅ……」

茂助は玉吉の三男でお菊は大平の養蚕をやっている所の二女だ。手先が器用でちょこちょことよく働く良い嫁だ。

「あはは。情けないな茂助は」
「幸三郎さまぁお菊はこえぇんですよ?こんな見た目でこえぇとか……なあ?」

ああ?と怒り顔で、

「お前さんが子供の面倒を見やがれ!あたしもたまには羽目を外して楽しみたいんだからほらあそこ!!」
「ああ……はあ……」

とぼとぼと子の方へ。尻に敷かれてるくらいが茂助には丁度いいんだろう。見送るとお菊はくるりと振り返った。

「あまり顔を出しませんで申し訳ないです。まだ子が小さく手がかかるもので」
「そのような事は気にするな。子は宝だからな」

ん?なんだ?

「どうした?」
「んふふっ相変わらずいい男だと思いましてね。咲様が羨ましい」
「……お前も酔っているのか?」
「そこまで酔っておりませんですよ!真っ黒にはなってますが綺麗なのは変わりませんね」

褒められれば悪い気はしないな。

「ああ……ありがとう」

誰かを見つけたのか手を振り、

「咲様!!」
「お菊!まあ久しぶりかしら?」
「顔は見てるかしらね?ふふっ」

この二人は大平で仲が良かったのだそうだ。お菊は先に嫁いで来ていた咲がいるからとこの村に来てくれた。見た目は月とスッポン……ハッ!なんて失礼な事を……私も酔いが回ったか。

楽しそうに二人で話していると村の奥方が集まりだして飲み食いを隅の方で始めた。女が元気なのは良いことだ。

小唄が聞こえ始めるとまた皆の櫓の周りで踊り出した。この辺りの踊りの足運びは複雑だ。ちょこちょこと前後させる所が多く習った通りに踊ってるのは大平から直接習った者だけだ。皆まあ大体でふらふらと……

だが……幸せそうにしているのを見るのは良いな。そろそろお開きの刻だ。私はどうせ聞いては居らぬだろうからと簡単に挨拶をして神主様とお付きの者を我が屋敷に宿泊して貰うたためウメに案内を頼んだ。毎年のことだ。

「兄上!」
「弦之助ご苦労だったな。お前に負担を掛けてしまって」
「何をおっしゃるやら。兄上のお役に立てる事は恐悦至極にごさいます!」

疲れれているであろうに嬉しそうだ。

「すまぬ。私はどうしても客人の相手になってしまうから」
「それが兄上の役目でごさいます!あの兄上我が家で飲み直しませぬか?」
「いや……私は……」

咲が会話を聞いていて、

「たまには兄弟水入らずも楽しいと思いますよ?行ってらして下さいませ」
「そうか?ならば」
「よし!盛山!兄上を我が家にお連れするから支度を頼む」
「はい畏まりました」

祭の片付けを手伝っていた盛山は急いで屋敷に帰っていった。

「兄上!参りましょう!」
「ああ」

皆に声を掛けることにした。

「皆!獣が襲わない所は明日でキリの良い所で帰れよ!ご苦労だったな!」
「幸三郎様もご苦労様でした!旨い酒をありがとう!」
「おお!」

と、手を振り弦之助の屋敷に向かった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

無用庵隠居清左衛門

蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。 第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。 松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。 幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。 この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。 そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。 清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。 俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。 清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。 ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。 清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、 無視したのであった。 そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。 「おぬし、本当にそれで良いのだな」 「拙者、一向に構いません」 「分かった。好きにするがよい」 こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...