戦国武将の子 村を作る

琴音

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私は弟に弱い

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社から私と弦之助、板垣で屋敷に向かった。酔っているせいもあり弦之助はよく喋る。

「兄上!子供は良いですね!ほんにかわいい」
「ふふっ父親になって嬉しいか?」

提灯の明かりのみで表情は見えぬが幸せそうに微笑んでいるのがわかるような声色だ。

「はい!自分の子と言うのはこんなにも愛しいのかと……毎日泣くし大変ではありますが泣き声さえ愛しい……時には感謝しかありません」
「喋るようになるともっとかわいいぞ?」
「ふふっ……父上と呼ばれるのが楽しみで仕方ありません」

屋敷の明かりが見えた頃、

「幸三郎様私は先に。失礼」

提灯を渡されて先に戻るのを見送った。

「兄上。今年も祭が楽しく終わりよかったですね……」
「ああ……楽しみなど少ないこの村だ。こんな時くらい羽目を外して遊ぶのも息抜きになろう」
「そうですね。毎日田畑の事ばかりですから。生きるのには楽しみも必要ですね」
「ああ……」

屋敷の灯りが増えているのが見えた。

「おかえりなさいませ弦之助様。幸三郎様も!お疲れでしょう?こちらへ」

先に戻っていた盛山の妻のおしのが座敷に案内してくれた。

「こちらへ」

襖を開けてくれ私は上座に弦之助は向かいに座った。

「兄上改めてご苦労様でした」

胡座の膝に手を置き頭を下げた。

「お前も御苦労であった。佐治に盛山取られて大変であったろう?」
「ふふっ兄上もではありませんか。毎年ですがこれも夏が来たと思えて悪くはありません」
「そうか」

前向きな捉え方は悪くないな。
いつもの年は私の屋敷で翌日に話すのだが折角だから今の内にと今年の祭の収支などを話してしまった。酔っていて何処まで覚えているか不明だかまあ……後で書付を見せればよかろう。

「兄上……お呼びしたのはちょっとした思いつきなのですが……」

そう前置きして弦之助は話し出した。
今大平では養蚕を村の半分くらいの村人がやっているそうだ。越後は反物の産地がありそこに売ったり他の藩の行商人に売ったりしているそうだ。絹糸の元だからなどこでも需要はある。

「そこでです。我が村でもやりませんか?金子はいくらあっても邪魔にはなりません。勿論すぐにどうとかではありませんが万が一の蓄えはしたい」
「ふむ……」

少し考えてから、

「うちの村はその様な仕様の家を作ってないぞ?」
「ですから村の産業として工場こうばを建ててそこでと言うのは如何でしょう?当番か何かを作り世話をして桑を植えて。植える所は選びません。斜面でもどこでも育ちますから」
「まあ……材木よりも早く金子に変わるか……蚕はどうするのだ?」

卵を大平やちょっと遠出してもっと盛んな村に行き集めて参りましょうと提案して来てそれを増やして行けばいいのでは?と。大平だけではいつ商売になるくらい増えるか分からぬからと。

「数年でなんとか出来るのか?」
「無理です!桑をまず植えてからですね。それと遣り方を習わなければなりませぬ」
「桑は……まあ数年あれば集めて植えれば……その後か……」

悪くないな。長い目で見れば切り出したら何十年も掛かる材木よりも軌道に乗るのは早いはずだ。

「山を切り崩して田畑のを作るよりも早そうだな」
「ご納得頂けますか?私が指揮を取りますゆえお任せ下さい」
「良いのか?」

話してる間におしのが配膳して下がった。

「おしのはなんだ……ウメとは物腰が違うな」
「おしのはそうですね。豪胆なウメとは反対ですかね。控えめです」
「ウメはうるさ……いや賑やかでな」

あははと杯を手に弦之助は笑う。

「兄上ウメはあれが持ち味でしょう?我らが幼き日より何も変わりません」
「そうであったな……若い頃から何も変わらず……世話になった」
「そうです。父上が去り我らだけになり気落ちしているのを察して明るく振る舞って……あれのお陰で大分気持ちが救われました」

そう………
あの大きな喪失感で何もしたくない気分で二人で家から出ずに……田畑の手伝いもしないしやる事はたくさんあったにも関わらず何も手を付けなくて……

「毎日我らの所に来ては怒鳴り散らかして働け!!と。タダ飯食うなと叫んでたな」
「凄い剣幕でしたね。それでも動けなかったのにその内に動かなくてはと思わせてくれた。板垣らはほっとけと言ってたらしいですが」
「それも優しさであったのだろう。辛さを理解してくれていたからの対応だ。元服したばかりとする直前のクソガキ二人だからな」

酒の肴を摘みながらあの当時に思いを馳せる。哀しく辛いしか思い出せぬ。その中の唯一の明るい光だったな……

「懐かしくも自分の不甲斐なさの記憶だな」
「ですが……それが有るからこそ頑張れたんですよ兄上」
「ふふっそうだな。どん底だったからこそここより落ちる心配も無い程だったな」
「そうです!今は年貢も少しですが納める立派な……?村になりました!」
「何で疑問そうな言い方なのだ?まあ……辛うじて村なのは認めるがな」

弦之助はクイッと酒を煽ると、

「ここはまだまだやれる土地がごさいます!皆で頑張れば田は増やせるし、西山の日当たりのいい辺りを開墾すればいい。また東の谷も日当たりはいい。あの辺を少しずつ……きっと安定した収穫が望めます」
「ふむ……今は西山の手前までだな」

そうだと言い村の男衆が田の手が空き始めた梅雨頃から蓑と山笠着て雨の中木を切り株を抜き小石を拾う……私も手が空いてる時は一緒にしてますと言う。水が無ければ田は出来ぬから場所は限られるが……

「済まぬな……」
「何を仰る!村の事は私が責任を持ちやりますよ!兄上は外との繋がりをどうかお願い致します」

頭を掻きながら照れたような上目遣いで私を見て、

「申し訳ございません。私はそういった事が苦手で……人前に出るのはどうも性に合いません。押し付けてしまう形で不甲斐ないのですがどうにも……」

ふふっと声が漏れてしまった。なら慣れろとは言えなんだ。私は弦之助を弟として本当に愛しく思い強く言えない所があってな。

「よい。適材適所で良かろう。其方が活躍出来る所を頼む」
「兄上の……そんな所が……いえ!畏まりました。お任せ下さい!!」

照れてるような何とも形容し難い表情を浮かべ微笑む弦之助は私の唯一の弟だ。大切な……妻と子とは違う道を共に歩む……ふふっ酔ったな。感謝の気持ちしかない。

「兄上……?どうかなさいました?」
「何でもない……其方と酒が酌み交わせて幸せだと思っただけだ」
「ふふっ私もです……」

こんな幸せを村の者とも共有出来るようにしなくてはな。道のりは険しく懐は極寒だがここまでやれたのだ。これからも出来るさと自分を鼓舞した。

この後も昔話に華を咲かせたが、

「済まぬ。そろそろ暇する」
「はい。楽しゅうございました。また明日にも屋敷に伺いますので」

パンパンと手を叩き兄上の帰宅だと板垣らに声を掛けてくれた。馳走になったと戻っていた時殿らに挨拶して板垣の先導で屋敷に戻った。
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