戦国武将の子 村を作る

琴音

文字の大きさ
9 / 20

晩秋に嵐の洗礼

しおりを挟む
秋になり米の収穫で村は忙しい。今年は晴天に恵まれてはざに掛かる稲はいつも通り乾き……と思っていたが嵐が立て続けに起きた。

「兄上……」
「ああマズいな。このまま長雨が続けば山が崩れる所が出る」
「既に西山の峠道の一部が崩れていると弥七が私の所に報告してきています」
「そうか……」

私の屋敷の仕事部屋で弦之助と現状を話し合うため来て貰った。

「米も品質が落ちます……囲いはしてるのですが……どうか」
「稲刈り辺りまで天候に恵まれていたから油断したな」
「はい。私もこのまま行けるかと思ってました……甘かったです」

とにかくだ。被害がどのくらい出るかは未知数だ。起きた時とれだけ動けるかだな。

「今は西山の峠だけだが東山は数年前にかなりの被害を出した。田んぼも半分埋まり復帰に一年掛かったがあの頃は年貢がなかったからどうにかなったのだ」

深いため息をして弦之助も、

「あれが今回起きて年貢に取られると再来年は……」
「ああ……今からでは間に合わぬ。助け合うしかなかろう……」

こうなっては平地も変わらぬ。百姓は再来年の今頃は苦しい生活が待っている。二人でどうにもならぬ天気の不機嫌に言葉が出ない。バンッと襖が開き、

「幸三郎様!東山の伝次郎の田んぼが!!」
「分かった。今行く」
「兄上私も!」
「いや。其方はここにいろ。まもなく他の報告も来るはずだ。そちらを頼む」
「はい。では待機しております。お気を付けて」
「うむ」

板垣のと箕と山笠を被り急ぎ東山に向かった。一人の男があぜに座り込んでいた。

「伝次郎!!怪我はないか?」
「幸三郎さま……ううっ……俺が何年も掛けてまともな稲が育つまでにしたのに……こんな……うわぁ!!」

かなりの量が崩れ伝次郎の一番大きい田んぼが半分は埋まっている。クソッここは前回の時も崩れず保った場所なのに!

「伝次郎、米を収穫した後だと良い方に考えよ。雨が止んだら皆で頑張ろうぞ」

膝を付き肩に手を置いた。

「幸三郎さまぁ……ああ……俺が甘かったんです。前回大丈夫だからとここの補強を後回しに……だから!!」
「泣くな。起きた事は戻らぬ」

私は立ち上がり、

「板垣、出来るだけ見回りに行く。ついて参れ」
「はい。ですが私一人で……」
「いや危険だ。私も共に行く」
「でも……」
「うるさいぞ!来い!」

もう頑固なんだからと言う顔をしたが、あぜ道を歩き出した。伝次郎には家に帰れと言い渡した。ここで泥をなんとかしそうな顔をしていたからな。

板垣と村近くの田んぼを見回っているとミシッブチッと山から木の根が引きちぎれる音がする。マズいな。

「板垣聞こえるか?」
「はい。明日にはここは通れなくなりそうですね」
「急ぐぞ!」
「はい」

ある程度崩れそうな場所を把握して更に奥の西山に向かっていると、

「兄上!!」
「弦之助か!どうだ他は」
「ここまでの間も根が引きちぎれる音を耳にしました。かなりの被害が予想出来ます。この先は……戻れなくなります!」
「そうか……至る所がか。誰か山に居るものはいないか?」

下を向いて、

「佐治の倅が西山に……他は皆下山しております」
「万造か……弟の源造も一緒ではあるまいな?」
「はい。源造は家におりました」

仕方あるまい。

「連れ戻す」
「は?兄上何を!」
「其方は戻れ。そして皆を家に留め置け。行け!盛山連れて行ってくれ」
「はい。弦之助様……」

情けない顔をして私を見つめていたが意を決して道を下って行った。

「済まぬ板垣。付き合わせてしまって」
「ふふっ私はいつでも貴方様に付き合いますよ。行きましょう」
「ああ。感謝する」

二人で大雨の中山道を上がる。時々根の引きちぎれる音を恐怖を感じながら歩くとはざの雨よけのゴザを直している万造を見つけた。

「いつまでやっている!!帰るぞ!!」

声に振り返った万造は、

「なぜ幸三郎様がここに?」
「寝ぼけたことを!!伝次郎の田んぼがやられ他も木の根が引きちぎれる音で山はかなり危ない。なのにお前だけ下山しておらぬと弦之助から報告を貰った」
「はあ……申し訳ねぇです。コレ終わっ……」

作業を止めぬ万造に苛ついてきた。

「馬鹿者!!命が有ってだろう!米はいいから私と帰るのだ!来い!!」

私の剣幕に怯えてこちらに急いで向かって来た。

「帰るぞ!!」
「はい……あの」
「私は人の命より優先する物はないと考えている。生きていればどんな困難にも立ち向かえる。辛くともな」
「申し訳ねぇです……」
「気持ちが分からぬ訳では無い……」

板垣が早くと先導して山道を下った。途中の道が崩れている所もあったがどうにか村まで戻ることが出来た。屋敷に着くと万造の妻おまつが、

「あんた!!」

大きく振りかぶり万造の頬を引っ叩いた。

「心配したんだよ!!幸三郎様にも迷惑を掛けて!間違って泥に埋まるような事があったらと思うと……うわああ!!」

万造にしがみついて泣き出した。万造も済まなかったと繰り返していた。はあ、怪我人が出なくてよかったと振り向いたら私もバチンと叩かれた。

「どれだけ私が……」

無表情で涙を零している咲が。

「済まぬ。だが……」
「分かっておりますお役目だと。ですが……怖かった帰って来ないのではと……」
「悪かったな」

人目を気にせず抱き寄せると咲は声を殺して泣いた。私が咲の泣き止むのを待つ間に万造たちは帰りウメが、

「幸三郎様、足洗って中へ。身体が冷えてしまったでしょう?温かいお風呂に入って下さいまし」
「ああ、ありがとう」

その声に真っ赤になり驚いたように離れて中に消えた。

「咲様本当に心配されてたんですよ?優しくしてあげて下さい」

私の足を洗いながらウメは話した。

「皆にも心配かけた。だが私は人がこんな事で死ぬのは許せない」
「ふふっその優しさが皆好きなんです。御自分も大事に……」
「分かっていたつもりだが……どうしてもな」
「はい!終わりました。まず座敷で休んで下さいまし。風呂の用意は出来ておりますから入る時に声がけをして下さい」

分かったと中に入り座敷に座った。少しすると襖が開き幸太郎が来て手を付いて頭を下げた。

「父上ご苦労様でした」
「ふふっうむ。おいで」

顔を上げたかと思うと駆け寄りあぐらの中に入った。

「父上がご無事でようございました。母上は心配してウロウロしてたんですよ?」
「そうか。咲には苦労を掛けるな」

待っていた時の話を幸太郎から聞いていると弦之助も来て、

「はあ……ご無事でしたか。よかった」
「ああ。他はどうだ?」
「村の奥の我が家からは遠くの崩れている音はしました。なのであちこちが……だと思われます」

いつ止むかは分からぬが、米より先に道をなんとかだな。

「これより雨が止むまで家で待機とふれを出してくれ。死者を出したくない」
「畏まりました」
「其方も疲れたであろう?帰って休め。話は明日でいい。ふれは板垣と相談してくれ」

はいと応えると踵を返し戻って行った。村の中にいれば怪我人も死者も出ない後は明日に。さて風呂でも入るかな。

「父は風呂に入るがお前も入るか?」
「はい!父上とだあ!ウメェ私も入いる~!」

楽しそうな幸太郎を連れて風呂場に向かった。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

アブナイお殿様-月野家江戸屋敷騒動顛末-(R15版)

三矢由巳
歴史・時代
時は江戸、老中水野忠邦が失脚した頃のこと。 佳穂(かほ)は江戸の望月藩月野家上屋敷の奥方様に仕える中臈。 幼い頃に会った千代という少女に憧れ、奥での一生奉公を望んでいた。 ところが、若殿様が急死し事態は一変、分家から養子に入った慶温(よしはる)こと又四郎に侍ることに。 又四郎はずっと前にも会ったことがあると言うが、佳穂には心当たりがない。 海外の事情や英吉利語を教える又四郎に翻弄されるも、惹かれていく佳穂。 一方、二人の周辺では次々に不可解な事件が起きる。 事件の真相を追うのは又四郎や屋敷の人々、そしてスタンダードプードルのシロ。 果たして、佳穂は又四郎と結ばれるのか。 シロの鼻が真実を追い詰める! 別サイトで発表した作品のR15版です。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

無用庵隠居清左衛門

蔵屋
歴史・時代
前老中田沼意次から引き継いで老中となった松平定信は、厳しい倹約令として|寛政の改革《かんせいのかいかく》を実施した。 第8代将軍徳川吉宗によって実施された|享保の改革《きょうほうのかいかく》、|天保の改革《てんぽうのかいかく》と合わせて幕政改革の三大改革という。 松平定信は厳しい倹約令を実施したのだった。江戸幕府は町人たちを中心とした貨幣経済の発達に伴い|逼迫《ひっぱく》した幕府の財政で苦しんでいた。 幕府の財政再建を目的とした改革を実施する事は江戸幕府にとって緊急の課題であった。 この時期、各地方の諸藩に於いても藩政改革が行われていたのであった。 そんな中、徳川家直参旗本であった緒方清左衛門は、己の出世の事しか考えない同僚に嫌気がさしていた。 清左衛門は無欲の徳川家直参旗本であった。 俸禄も入らず、出世欲もなく、ただひたすら、女房の千歳と娘の弥生と、三人仲睦まじく暮らす平穏な日々であればよかったのである。 清左衛門は『あらゆる欲を捨て去り、何もこだわらぬ無の境地になって千歳と弥生の幸せだけを願い、最後は無欲で死にたい』と思っていたのだ。 ある日、清左衛門に理不尽な言いがかりが同僚立花右近からあったのだ。 清左衛門は右近の言いがかりを相手にせず、 無視したのであった。 そして、松平定信に対して、隠居願いを提出したのであった。 「おぬし、本当にそれで良いのだな」 「拙者、一向に構いません」 「分かった。好きにするがよい」 こうして、清左衛門は隠居生活に入ったのである。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...