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遅々として進まず
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大平への抜ける峠道は十日ほどでどうにか通れるようになった。野良の合間にやった割には早かったと思う。だが………
「兄上こちらです」
「ああ今行く!」
散々たる山や田畑を眺めていた。伝次郎の所が最大の被害だがその他もまあ……見るに耐えない有様であった。
「言葉がないな」
「はい……」
一つ一つは大したことはないが数が多すぎる。石を積んで補強せねば復帰は難しい場所もあるな。
山には癖がある。ただ切り崩して田畑にすれば良いものではない。その山の作り、その土の状況や中の岩の具合など考慮する必要があるのだ。昔からある峠道はそこを考慮した作りなはずだがそれでも災害は起きる。所詮人が考えるもので切り崩せば均衡は崩れるのだろう。山は人の営みに配慮はしてくれぬ。
「弦之助、人とはなんとちっぽけな存在なのであろうな……これ程努力しても無に帰すのは一瞬だ」
「兄上……」
二人言葉無く崩れた田んぼを眺めた。
「だがそれに儚くとも立ち向かうのも人だ。生きねばならぬ。それは獣も同じ……」
「はい……なんと理不尽と思うても……ですね」
秋晴れの爽やかな風に吹かれ……
「ああ……私には責任がある。父に言われたからだけではない。私を慕い付いてきてくれる者たちに報いたい」
「私も同じ気持ちでございます……二人力を合わせて何とか致しましょうぞ」
「ああ其方にも苦労を掛けるが頼む」
弦之助はふふっと微笑み、
「私は兄上と共に……兄上の望む手伝いが出来れば良いのです」
「うむ……感謝する」
村人は自分の管理する田畑をその家族だけでと言うには被害が大きすぎるため組を作り少しずつ補強していった。
正直梅雨時にこれにならなかったのは幸いだ。田に水が多い時期は水が抜けるのは最悪だ。稲の生育に多大な影響を与えて収穫に甚大な被害が出るからな。最悪の最悪は回避できているが……最悪の一番か二番の違いなだけだがな。
屋敷に帰り男衆に毎日の進捗を聞き次はどこで手に負えない場所の確認。その合間に田畑の収穫と休む暇もない。この間も多少の雨も降るから崩れの作業は止まりそれ程進みが良いわけでもない。
「はあ……」
「お疲れですねあなた……」
仕事部屋で蝋燭の明かりの中地図を睨む私を労いに茶を持ってきてくれた。
「ああ……こんな時のための私だ。指揮を取るのは大切な役目だ」
「ええ……私もウメと畑に出ておりますからそちらに集中して下さいませ」
咲の労いの言葉は緊張感を解してくれる気がする。
「ありがとう。お前の言葉は身に染みる」
「ふふっそれならば私のいる意味がありますね」
「ああ……弦之助とは違うお前にしか出来ない事だな」
「まあ嬉しい言葉だこと」
隣に座る咲の手を握った。
「済まぬな……私はお前を座敷に飾って置きたいくらいなのだが……そうも行かぬ」
「構いませんよ。そのつもりで嫁いで参っております」
「そうか……有り難い心構えに感謝する」
肩に寄りかかって来た咲に腕を回した。
「お前と子供たちは私の宝だ。村人も同様にな……何とか目処が立つくらいまで雪が降る前までに……」
「そうですね……」
咲の体温に心が穏やかになるのを感じた。だが……
「先に寝ていてくれ。もう少し掛かる」
「はい。こちらを掛けて身体を労って下さいませ。あなたが倒れたら弦之助様の負担が大きくなりますからね?」
「ふふっ分かっておる」
肩に綿入れを掛けて咲は仕事部屋を出て行った。まだ効率のいい遣り方を考えねば間に合わぬ………夜は大分更けたがやることはやらねばな。
日を跨ぐ頃まで地図と人工、残りの日数再来年の収穫減の対策と……知らぬ内に文机で寝てしまっていた。
「兄上こちらです」
「ああ今行く!」
散々たる山や田畑を眺めていた。伝次郎の所が最大の被害だがその他もまあ……見るに耐えない有様であった。
「言葉がないな」
「はい……」
一つ一つは大したことはないが数が多すぎる。石を積んで補強せねば復帰は難しい場所もあるな。
山には癖がある。ただ切り崩して田畑にすれば良いものではない。その山の作り、その土の状況や中の岩の具合など考慮する必要があるのだ。昔からある峠道はそこを考慮した作りなはずだがそれでも災害は起きる。所詮人が考えるもので切り崩せば均衡は崩れるのだろう。山は人の営みに配慮はしてくれぬ。
「弦之助、人とはなんとちっぽけな存在なのであろうな……これ程努力しても無に帰すのは一瞬だ」
「兄上……」
二人言葉無く崩れた田んぼを眺めた。
「だがそれに儚くとも立ち向かうのも人だ。生きねばならぬ。それは獣も同じ……」
「はい……なんと理不尽と思うても……ですね」
秋晴れの爽やかな風に吹かれ……
「ああ……私には責任がある。父に言われたからだけではない。私を慕い付いてきてくれる者たちに報いたい」
「私も同じ気持ちでございます……二人力を合わせて何とか致しましょうぞ」
「ああ其方にも苦労を掛けるが頼む」
弦之助はふふっと微笑み、
「私は兄上と共に……兄上の望む手伝いが出来れば良いのです」
「うむ……感謝する」
村人は自分の管理する田畑をその家族だけでと言うには被害が大きすぎるため組を作り少しずつ補強していった。
正直梅雨時にこれにならなかったのは幸いだ。田に水が多い時期は水が抜けるのは最悪だ。稲の生育に多大な影響を与えて収穫に甚大な被害が出るからな。最悪の最悪は回避できているが……最悪の一番か二番の違いなだけだがな。
屋敷に帰り男衆に毎日の進捗を聞き次はどこで手に負えない場所の確認。その合間に田畑の収穫と休む暇もない。この間も多少の雨も降るから崩れの作業は止まりそれ程進みが良いわけでもない。
「はあ……」
「お疲れですねあなた……」
仕事部屋で蝋燭の明かりの中地図を睨む私を労いに茶を持ってきてくれた。
「ああ……こんな時のための私だ。指揮を取るのは大切な役目だ」
「ええ……私もウメと畑に出ておりますからそちらに集中して下さいませ」
咲の労いの言葉は緊張感を解してくれる気がする。
「ありがとう。お前の言葉は身に染みる」
「ふふっそれならば私のいる意味がありますね」
「ああ……弦之助とは違うお前にしか出来ない事だな」
「まあ嬉しい言葉だこと」
隣に座る咲の手を握った。
「済まぬな……私はお前を座敷に飾って置きたいくらいなのだが……そうも行かぬ」
「構いませんよ。そのつもりで嫁いで参っております」
「そうか……有り難い心構えに感謝する」
肩に寄りかかって来た咲に腕を回した。
「お前と子供たちは私の宝だ。村人も同様にな……何とか目処が立つくらいまで雪が降る前までに……」
「そうですね……」
咲の体温に心が穏やかになるのを感じた。だが……
「先に寝ていてくれ。もう少し掛かる」
「はい。こちらを掛けて身体を労って下さいませ。あなたが倒れたら弦之助様の負担が大きくなりますからね?」
「ふふっ分かっておる」
肩に綿入れを掛けて咲は仕事部屋を出て行った。まだ効率のいい遣り方を考えねば間に合わぬ………夜は大分更けたがやることはやらねばな。
日を跨ぐ頃まで地図と人工、残りの日数再来年の収穫減の対策と……知らぬ内に文机で寝てしまっていた。
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