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今出来る事をやろう
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「精が出るな茂助!」
「はあ……ああ!幸三郎様!おはようございます!こんな雪の中何処かへお出掛けですか?」
「いやな弦之助のところにな」
「左様で!皆雪掻きしてるから気を付けて!」
おお!と手を振り弦之助の屋敷に向かう。昨日までの雪が嘘のように晴れ渡り眩しいくらいの中、自分のかんじきが踏み締める音だけを聞きながら歩く。辺りの家は戸を塞いでいる雪を掻いたり屋根の雪を降ろしたり……皆精が出る。冬の晴れ間は貴重で気分も上がる。
鈍色の空からぼたん雪が降り積もり、周りの音を飲み込んでいく。この世に自分しか居らぬのではないかと錯覚するほどの無音に偶に恐怖すら感じる事もある。ここは嫌と言うほど雪が降る。
澄み切った寒むさの中弦之助の屋敷に着くと盛山が玄関先の雪掻きをしていた。
「盛山、精が出るな」
「ああ!幸三郎様、今声がけを……」
バタバタと玄関から私が着いたと中に大声で伝えている。その後ろから中に入るとようこそと時殿とおしのが出て来て座敷に案内してくれた。
「兄上、ご足労ありがとう存じます」
「いや、偶には私が出向くのもありであろう?」
「あはは、まあそうですね」
こちらへと上座に座り人払いをしてから用向きを話し出した。
「兄上……お呼びしたのは今年の収穫に付いてでございます」
「ああ……」
昨年の秋の嵐で被害に合いとのくらいの減収になるか調べておけと言っていたものだな。
「してどのくらい減る?」
「昨年と同じ様な収穫量でしたら全体量の四分の一は減ります」
「ふむ……」
それでは年貢を収めた後と同量か。そこから年貢を収めたら……暗澹たる気持ちしか出て来ぬな。
「他で補えそうな物は麦や稗、そば……か」
「はい……ですがそれも土に埋まった畑がありそれほど多くありません。切り詰めると言っても前回同様くらいまではしなければ飢える者が出ても不思議ではありませんから」
「相分かった……」
ため息と共に返事を返したが、豊作にでもならねば立ち行かぬという事だ。分かってはいたが数字として目の前に出されると哀しくなるものだとつくづく思い、前回同様かと書付を睨みながらあの厳しい年を思い出していた。
あの年は稲刈り前に嵐が来て田を、畑を泥が埋めてしまい、眼の前の景色を信じたくなくて呆然としてしまった。だが起きてしまったものは取り返せはしない。残った稲を稗など雑穀を刈り取り、野菜を収穫した。
足りない米を節約して……正月は餅もあまり口に出来なかった。腹立たしい事に土砂崩れが狙ったかようにもち米の田を飲み込んだのだ。日々の暮らしはともかく、正月くらいはと思っていたものだから私の落胆は図りしれなかった。
それでもと年末に餅をついて皆に配ると一人二食分くらいしかなかったのも悲しかった。皆はないよりはマシだと笑っていたが、私以上に皆は落胆していたのではなかろうか……いつもの年なら小正月までは毎日餅が食えたものなのにと。
あれに比べればまだマシだし、今年は何とかなる。だが万が一に備えて節約はしてもらわねばならぬが……
「兄上……?」
考え込んでしまい黙ったままだったようだ。
「ああ、以前の被害を思い起こしていた。あれに比べればまだマシだと思ってな」
ふふっと苦笑いを浮かべた弦之助は、
「そうですなぁ……あれば辛かった。食べられない以上の辛さ、痛さが心を掻き毟り村の者の顔を正面から見られませんでした」
「私もだ。あんな思いをさせたくないししたくもない」
目が合いふっと失笑がお互い出てしまった。
「のう弦之助、ここで二人で気を揉んで考えてもお天道様は言う事は聞いてはくれぬし、山も木々も同じだろう。それに冷夏になれば嵐が来ずとも結果は同じだ」
ですねえと茶を啜りながら、
「今我らが出来る事を致しましょうか」
「ああ、縄を編み、農具を整え春を待つ以外ないであろう?」
「では、春が来たらの修繕計画でも立てますかね、兄上」
ああと膝を突き合わせ地図を見ながら、崩れた場所の確認、被害状況、修繕が可能かを昼を挟み日暮れまで話し合った。
「はあ……ああ!幸三郎様!おはようございます!こんな雪の中何処かへお出掛けですか?」
「いやな弦之助のところにな」
「左様で!皆雪掻きしてるから気を付けて!」
おお!と手を振り弦之助の屋敷に向かう。昨日までの雪が嘘のように晴れ渡り眩しいくらいの中、自分のかんじきが踏み締める音だけを聞きながら歩く。辺りの家は戸を塞いでいる雪を掻いたり屋根の雪を降ろしたり……皆精が出る。冬の晴れ間は貴重で気分も上がる。
鈍色の空からぼたん雪が降り積もり、周りの音を飲み込んでいく。この世に自分しか居らぬのではないかと錯覚するほどの無音に偶に恐怖すら感じる事もある。ここは嫌と言うほど雪が降る。
澄み切った寒むさの中弦之助の屋敷に着くと盛山が玄関先の雪掻きをしていた。
「盛山、精が出るな」
「ああ!幸三郎様、今声がけを……」
バタバタと玄関から私が着いたと中に大声で伝えている。その後ろから中に入るとようこそと時殿とおしのが出て来て座敷に案内してくれた。
「兄上、ご足労ありがとう存じます」
「いや、偶には私が出向くのもありであろう?」
「あはは、まあそうですね」
こちらへと上座に座り人払いをしてから用向きを話し出した。
「兄上……お呼びしたのは今年の収穫に付いてでございます」
「ああ……」
昨年の秋の嵐で被害に合いとのくらいの減収になるか調べておけと言っていたものだな。
「してどのくらい減る?」
「昨年と同じ様な収穫量でしたら全体量の四分の一は減ります」
「ふむ……」
それでは年貢を収めた後と同量か。そこから年貢を収めたら……暗澹たる気持ちしか出て来ぬな。
「他で補えそうな物は麦や稗、そば……か」
「はい……ですがそれも土に埋まった畑がありそれほど多くありません。切り詰めると言っても前回同様くらいまではしなければ飢える者が出ても不思議ではありませんから」
「相分かった……」
ため息と共に返事を返したが、豊作にでもならねば立ち行かぬという事だ。分かってはいたが数字として目の前に出されると哀しくなるものだとつくづく思い、前回同様かと書付を睨みながらあの厳しい年を思い出していた。
あの年は稲刈り前に嵐が来て田を、畑を泥が埋めてしまい、眼の前の景色を信じたくなくて呆然としてしまった。だが起きてしまったものは取り返せはしない。残った稲を稗など雑穀を刈り取り、野菜を収穫した。
足りない米を節約して……正月は餅もあまり口に出来なかった。腹立たしい事に土砂崩れが狙ったかようにもち米の田を飲み込んだのだ。日々の暮らしはともかく、正月くらいはと思っていたものだから私の落胆は図りしれなかった。
それでもと年末に餅をついて皆に配ると一人二食分くらいしかなかったのも悲しかった。皆はないよりはマシだと笑っていたが、私以上に皆は落胆していたのではなかろうか……いつもの年なら小正月までは毎日餅が食えたものなのにと。
あれに比べればまだマシだし、今年は何とかなる。だが万が一に備えて節約はしてもらわねばならぬが……
「兄上……?」
考え込んでしまい黙ったままだったようだ。
「ああ、以前の被害を思い起こしていた。あれに比べればまだマシだと思ってな」
ふふっと苦笑いを浮かべた弦之助は、
「そうですなぁ……あれば辛かった。食べられない以上の辛さ、痛さが心を掻き毟り村の者の顔を正面から見られませんでした」
「私もだ。あんな思いをさせたくないししたくもない」
目が合いふっと失笑がお互い出てしまった。
「のう弦之助、ここで二人で気を揉んで考えてもお天道様は言う事は聞いてはくれぬし、山も木々も同じだろう。それに冷夏になれば嵐が来ずとも結果は同じだ」
ですねえと茶を啜りながら、
「今我らが出来る事を致しましょうか」
「ああ、縄を編み、農具を整え春を待つ以外ないであろう?」
「では、春が来たらの修繕計画でも立てますかね、兄上」
ああと膝を突き合わせ地図を見ながら、崩れた場所の確認、被害状況、修繕が可能かを昼を挟み日暮れまで話し合った。
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