お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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帝の代替わり編

45 避難の部屋

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 部屋の中は薄暗く、でもみんなは夜目が利き暗くは感じていないようだ。手際よく倉庫であろう木戸を開けて必要なものを出している。

 この部屋はそこそこの広さがあり、二十畳くらいの板の間だ。彼らは隅の折り畳みの和テーブルや座布団を用意すると、僕にここにいろと座らせた。

「少しお待ちを。お茶もお出ししますから」
「え?水なんてどこに?」

 そう質問したけど待っててとみな忙しく働いている。みんなを見ていたら、イオが隅の方の壁に手をかけているのが見えた。ガタンと手前に引くとシンクが現れた。はい?目が点ですが。すると、目の端に優しい明るさの行灯があちこちにポッポッと灯る。何の変哲もない木の壁を引いている人がいて、トイレとお風呂があった。なんだこのシェルター。広めのマンションの部屋みたいじゃないか。僕は驚くしかなかった。

 支度が済んだのかみなテーブルを囲み各々座った。少しするとイオがみんなにお茶を淹れてくれて、一安心だなと誰ともなしに笑いが起きた。僕の近くにはわんわんとマオが来て座る。

「ここにいれば絶対に被害には遭いません。翠様が帰れば開けて下さいます」
「そんな訓練してるの?」
「もちろん。地方では化け物事件はほとんど起きませんがなくはない。それに都ではそれなりにあるんですよ」
「へえ」

 みんな寛ぎ出した。ここは安心できる部屋なんだな。わんわんとマオは神妙になり、我らがこの世界の負の部分の説明は僕にしなかったのには理由がある。ここで見かけることなどほとんどないと思ってたからだそう。

「天帝の力は素晴らしい効果があります。我らを人に似せて、種族問わず群れで生活するような社会性を身につけさせました」
「はい。聞いています」

 わんわんは、素晴らしい力には相反する負の部分も出てくるものだ。動物らしさを残したまま人と同等の考え方をさせ文化を築かせる。我らはそれも楽しかろうと受け入れ今に至る。しかし、と黙った。するとマオがお茶を手に取りため息。

「初めの頃はあんまり先のことを考えなかった。今の食料のこと、敵に殺されないこと、子供を育てること。次の一手先くらいまでしか考えなかった」
「はい」

 今を生きることに全力を注ぎ、今の快適を手に入れるために努力する。それが基本の考え方だった。しかし人のようになるとその考え方は弱くなり、都のような都会は顕著に表れ始めているそうだ。

「考え方も人と似てきたと?」
「うん。寿命まで生きたいとか、楽して生活というか、働かずかな」
「ふーん」

 文化はゆっくりと進むのがこの世界。人を真似るから遅れてこの世界に定着するらしい。そして変えなくてもいいんじゃないの?って部分は大昔のままだ。だからこの世界は僕から見れば「時代がぐちゃぐちゃ」に見えるはずだそう。うん、それは思ってた。

「でもなあ、ここの獣たちも流行りを追う者も多くなった。人の世界からの新しい物に飛びつき、それが欲しいがために争いも見かけるようになった」
「そう……」

 強盗や殺人も以前よりも増えた。それは発情期に関係ないものだ。金が欲しくてやるんだよと二人は苦々しい顔をした。人よりはるかに少ないが、増えつつあるのは確かだそう。

「その楽して稼ぎたいとか、人の物を奪う行為に手を染めた者たちは、次第に力の使い方もおかしくなる。いや、考え方が変わるんだ」
「考え方?」
「ああ。我らの力は、草の促進とか雨を降らせるとか風を吹かせ、火を起こすとか生活に密着した力でさ。足が速いとかもな」

 それを悪事に使うようになるそうだ。畑や田んぼ、商売に使わなくなり、人から搾取するために使う。暴力的な力は他人を押さえつけ服従させる。完全な暴力組織だなあってマオ。

「代表的なのは賭博所だな。違法なんてものはないが、関われば短命に終わる」

 わんわんが口を挟み、夏樹様には知識があるはずだ。人の世界の方が裏社会は複雑で、欲望の動機もさまざまだろうと。

「まあ。僕もそのへんは知識のみだよ。サラリーマンだったし、そういった方々が近くにはいなかったし」
「それが普通ですね。我らも天帝に隣人と助け合うよう作り替えられていて、人の物を奪うのは悪いことと刷り込まれています」
「うん」
「でもね……」

 わんわんは、先祖返りとは明らかに違う欲望が表れ始めている。お腹が空いたとかではない欲望を満たそうとする行為は、いただいた力が変容する。正しくそうかは分からない。でも動物の攻撃性が顕著になり、人の話を聞かなくなる。この世界のあり方とか理解することが出来なくなるらしい。

「こうなっても俺は悪くない。責めて来るお前らがおかしいって思考になるんです」
「うわ……」
「俺は被害者で、責めてくる人が加害者だ。本能に従って何が悪い。天帝が認めた本能なんだ、うるさいってな」

 そしてある日限界を迎えた「異常な欲望」は暴走し、クロガネのようになる。そう言うと目を伏せた。

「天帝のバチが当たったんだと考えられてます。神の考えから外れた生き物はいらぬ。そういうことなのでしょう」

 実際化け物は退治しなくても十日もせずに死ぬ。なぜなら力を全解放し、飲まず食わずで暴れるから飢えて疲れて死ぬらしい。なら放置しておけばいいのかな?と僕は考えたけど、ここまで世界が安定している今は問題。人里で暴れたらたまったもんじゃないと否定された。それで山狩りかと僕は納得した。

「言わなくても理解されてるでしょうが、今山には畑も田んぼも多く、建材としてヒノキや杉などが植林もされている。山ならと放置もできません。火の属性の者は山を焼き尽くしますから」
「そうか……」

 水や風も問題だそうだ。長雨は土地を傷め土砂崩れを起こし、風は木をなぎ倒し山を壊滅させる。いいことはないから化け物になる前に捕獲になる。だが今回は手遅れになるかもと不安そうな二人。

「クロガネは役人の子らしく力は強かった。そして元々の気性の荒さもあったんですよ。なるようになったと言いますかね」

 マオもクロガネを知ってはいたそうだ。性格が役人向きじゃないなあと、子どもの頃の学校生活で思ったそうだ。

「今現在、この地の責任者の夕陽様もその下も不在。竜が全くいないんですよ」
「そうか。翠ばかりじゃないのか」
「ええ。帝の代替わりのための会議で、今回東の集まりでしてね」
「あー……タイミングが悪すぎるね」
「「ええ」」

 竜はこの東の土地に今はいない。みんな都に集結しているらしく、地方はこんな問題が出ると困るね。

「本来なら御子のあなたが力を行使できるはずだったんですが、防御しか翠様に似なかったですもんね」
「あ……ごめんなさい」
「いやいやわんわん。訓練次第だろ?」
「今使えなきゃ同じです」

 この言葉は僕にはいたたまれなかった。能力不足は実感していたんだ。防御のみなら翠並にできる。でもそれだけ。攻撃が全くなんだ。水も操れないし鈍くさくもある。獣たちに比べればだよ?人としては標準のはずだ。足もそこそこ速かったしね。

「ごめんなさい……」

 僕は自分の不甲斐なさに小さな声で謝った。もう二人の顔すら見ることができなかった。

「え?いや責めてませんよ。色のない方でしたのでこんなことになるかもとは予想してましたから。でも期待も……」
「やめろわんわん。夏樹様は悪くない。天帝の力を受け取ったからといって万能じゃないのはお前は知ってるだろ」
「すみません。口が過ぎました」

 後ろのテーブルから夏樹様はとても優しいし人としても穏やかだ。攻撃の力をもらえなかったのは理解できると聞こえた。気にすんなと。

「わんわん、マオ。これが解決したら僕訓練したいです」
「いえ……そのままでいいですよ」
「そうだぞ。夏樹様はそのまんまがかわいいし、俺たちよりかわいいから」
「でも……」

 色かないとは「白」「透明」なんて意味なんだ。何にでも染まれて「どの力も行使できる」と言われている属性。なのに僕は防御のドームしか作れない。なんで?なんで天帝は僕に力を授けてくださらなかったんだろう。それとも訓練の仕方が悪いの?そんなはずはない。翠に教わってたんだから。

 ここでの力の訓練とは「想像力」なんだ。どれだけイメージ出来るかが肝になる。僕も翠の見本を見てやったけど、何も現れなかったんだ、そんな力はね。力の燃料にあたる部分は多いらしいけど、欲しい力はなかったんだ。

 話し合いの間、遠くから時々爆発音が聞こえていた。安全な場所にいても不安は募るばかりだった。




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