お祭りの花嫁に強制参加させられたら本当に神様の嫁になってしまった

琴音

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帝の代替わり編

46 間に合ったようだ

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 シェルター生活三日目に突入。部屋から出れないだけで何も変わらず、みんなと楽しく生活していた。食事は品数減ったけどイオのご飯は美味しいし、普段あまりしゃべらない使用人たちとのおしゃべりも楽しかった。だけど爆発音が日増しに近づいて来ていた。

「こっちに移動してるなあ」
「そうだな。うちの田んぼと畑が被害に遭わないといいんだが」

 みんな耳をすまして音を聞いている。そして板前のイオは、米をよそから買うの嫌なんだよなあと不機嫌だ。あの米は俺が人の世界から買ってきたコシヒカリで、気候管理を翠に頼んで完璧に育てている極上米。燃やしたら祟ってやると息巻いている。

「ここんちごはん美味しいもんね」
「だろ?俺様は御所の客亭の板前やってたんだよ。こだわってんのよ野菜も米も、それこそ肉も魚もな」

 そんな会話を僕は聞いていた。この三日、何もできなくて申し訳ない気持ちでいっぱいだった。顔には出さなかったけど、役に立てないことが心の棘になり、胸をチクチクと刺していた。

「あと数日で死ぬだろうけど、畑や山を焼くのはやめてほしいもんだ」
「まあな。鹿とかはともかく、キジや鴨もいなくなるしな」

 マオは時々キジや鴨を捕まえに行ってたそうだ。野生の肉はマオの担当。牛とか豚、鶏は肉お屋さんで、海の魚も魚屋さん。野菜、川の魚は自営だそうだ。みんな飯が不味くなるのは嫌だなあと苦笑いしていた。

「俺が作るんだから不味くはないが、素材で多少な」
「あははっそうだな。そうなったら当分我慢するか」
「なら僕はうなぎ取りに行くよ」
「ミオ、山が燃えれば川もやられてるかもだぞ?」
「そっか……」

 イタチのミオはうなぎもかあ。イワナもアユもダメかな?と呟けば、みんなもダメかもなあと残念そうだ。こんな会話の中も爆発音は続いていた。

 そして五日目。もうね、すぐそこみたいな音がするんだよ。本気で怖い。みんなも不安そうな色が濃くなる。

「わんわん、近くだよね」
「いえ、翠様の縄張りには入ってはいません。目前ですけど」

 山一つ向こうにはいるかな?と。小さな窓からマオが覗いていた。

「うわあ、あいつの通った跡が黒焦げだよ。警察は火を消しながら追っかけてるみたいだけどさ」

 山に黒い線が引かれてるみたいになってて、煙がもうもうと上がっているそうだ。僕も見る?と言われて踏み台を代わってもらった。

「うおっこれヤバい。なにあれ」

 山には黒い道ができていて煙が上がっている。こちらに一番近い部分は激しく燃え広がっているようで、煙の勢いも激しい。そしてドンッドーンッと時々音がする。山に響いて大きな爆発音が怖い。ここの獣たちがかわいいだけじゃないのを実感した。明らかに人間とは違うんだと、目の前の光景が教えてくれる。

「あのさ。もし僕が暴走したら同じになるの?」
「なるよ。人間という種類の獣だからな。その人なりの攻撃力で暴れるんだよ」
「そっか……」

 この世界に来た人間も、ここの獣から珠を受け取ると完全な獣になる。その珠が核になり天帝か、その力の源の宝珠かは分からないがそれが認識する。そしてこちらの人となる。夏樹様は獣のひとつの種類になってるんだからと、マオは踏み台の下で爆笑している。

「もう純粋な人間じゃないんだよ。夏樹様はな」
「理解してるけどさあ」
「退治が無理でもあと数日だから」
「うん」

 風向きによっては焼けた匂いもしそうだけど、この部屋には入らないそう。空気穴にフィルターと、力を使ってるかららしい。いたせりつくせりのシェルターだった。なんでだと踏み台を降りてからわんわんに聞いた。

「ああ、人の世界の避難シェルターを見て改良を重ねたんですよ。快適さの追求ですね」
「追求し過ぎなくらいだよね」
「そうかもですが、閉じ込められる時くらいはね」

 他人と生活するのに慣れている人ばかりで、こうして一か所に押し込まれても不快に思わない。僕は一人の時間がないことが辛くなるかと思ったけど、それほどでもなかった。慣れとはすごいよね。

 六日目。まだ朝日が昇りきらない頃、地響きがするくらいの爆発音。全員驚いて飛び起きた。

「わんわん!なに!なにが起きたの!」
「わかりません!マオ!」
「見てみる!」

 マオが小窓に踏み台を用意し外を確認している。僕が見てもまだ何も見えなさそうな暗さなんだよ。

「あ、夕陽様と翠様かな。手前の山がなくなった」
「「はあ?」」
「蒼白い竜とバカデカい白い狐が空中に浮いてるからお二人だよ」

 みんなは安堵の息を吐いた。よかった終わった、間に合ったんだ。なら外出るかとなりわんわんは入口に向かいカギを開け、重そうな扉を押した。

「ウックサッ鼻もげる!」
「わんわん大げさだクサッ」

 開いた扉から燃えた木の臭いが入ってきた。それも生木を焼いたからか煙で辺りは白くなっている。

「マスクを!ゲホッゲホッ」

 誰かが物置から出してきてみんなに配る。紐はゴム製で頭に被るように装着。息苦しそうな不織布マスクで、聞けば、人の物を改良し、動物用の防じん高性能タイプだそうだ。ここ何でもありだな。

「多少マシだな」
「うん、まあな」

 僕はマスクを付けながら、みんなの姿がかわいくて見つめてしまった。なんてかわいいんだ。こんな時だけど、動物がマスクしてるの初めて見た。かわいい。

「夏樹様なにニコニコしてますか」
「ごめんなさい。あんまりにもみんながかわいくて」
「はあ」

 まあいいやとスルーされた、ごめんなさい。わんわんは屋敷の様子を見て来るから僕はここにいろって。

「僕だけ?」
「ここなら安全ですから。でもお嫌ならお部屋でも」
「部屋にいます」

 置いていかれるのも嫌だし、みんなについて行った。

「臭いね。人の僕でもキツいけど」
「でしょうね。視界が真っ白ですもん」

 霧の中を歩いているような感じだけど臭い。みんなは自分の持ち場に散っていった。僕は自分の部屋に戻った。

「締め切ってたからここはそうでもないか」

 ほんのり煙くさいけどそれほどでもなかった。僕は縁側の戸を開け、雨戸を開けたらブワッと煙が入ってきた。ヤバいッ焦ってすぐに閉めた。そして少しだけ開けて山の方を見ると、真っ白の中にも見えたのは右側の山がない。上の方がなくなってるんだ。

「竜は怖いなあ……」

 僕は呆然となくなった山を見つめていた。力が違う意味を実感するよね。どちらがやったのか分からないけどさ。見つめていると、その山のあたりから煙が急速に消え始めた。なんだろう?と眺めているとそこを中心に煙がどんどんなくなっていく。スゴーい!

「こんな力もあるんだね。翠たちは」

 綺麗な空気の層がこちらにも近づいてくる。ならここもすぐに煙なくなるかと思ってたら、雨戸が激しくガタガタして轟音とともに風が来た。暴風といっていい。ゴウッと屋敷を煽るように通り過ぎる。

「ウワーッ」

 あまりの風に僕は煽られて、雨戸が倒れてきた。

 危ないと避けようとしたのが悪かったのか、後ろの障子戸によろけてぶつかった。戸は簡単に外れ、僕はそのまま尻もち。メキッバリンとお尻のあたりから嫌な音がした。これは下部分のガラス割ったな。雨戸を横にどけてそーっと起き上がり立ち上がる。ヒビだけで粉々にはならなかったか。お尻も切れてない。よかった。

「夏樹様!変な音しま……ああ!お怪我は?」

 駆け込んできたわんわんに怪我は?とあちこち触られた。平気だよと伝えるとほうと息をつく。

「ガラスは触らないようにね」
「はい。代えはないよね」
「あなたが直せますから」
「は?」
「ん?」

 わんわんは小首をかしげ見つめ合ってしまう。防御に振り切っている僕は、こういった壊れ物が直せるのですけど?と不思議そう。

「そんな力あったの?」
「ええ。防御系の方はできますね。翠様に教えてもらって?」
「ない」

 でもちょっと嬉しかった。自分で割ったけど、みんなの役に立てることがあった事実が嬉しかった。ならばと僕はガラスに手をかざし「直れ」と念じる。するとみるみるヒビはなくなって元通り。すげーっ

「怪我がなくてようございました。治りが早いと言っても痛いですから」
「心配ありがとう」
「いいえ」

 わんわんが外れた戸を入れてくれて、空気も清浄になってマスクを外した。うん、ほんのりになったかな。わんわんとよかったと笑い合ってると遠くから、

「あなたね、加減というものを知らないの?」
「ああ?俺の山に迫ってたし、お前が!」
「それでもあなた神なの?咄嗟に動けて当たり前でしょ」
「うるせえよ。ちゃんとやったろ!」
「へえ。山吹き飛ばしたくせに」
「ああ?」

 なんて声が内門の外から聞こえる。女性の声がして、わんわんは「不味いです!」と沓脱石から草履を履き、急ぎ庭から玄関に走って行った。僕も誰かは察している。転んではだけた着物の整え、家の中から僕も玄関に急いだ。

 途中から「あなたは昔から乱暴なんですよ」「焦ってる時は仕方ないだろ」なんて聞こえている。僕が玄関に小走りで向かうと、美しい女性が翠と言い争いをしていた。目は大きく金色の瞳、色白で気品のあるスラッとしたスタイルに朱色の花柄の着物に狩袴。そして手指の動きは優雅だ。

「夕陽様、翠。おかえりなさいませ」
「ただいま夏樹」

 翠は僕を愛しそうに見つめてくれた。それだけで心が落ち着く気がした。翠が帰ってきたことで、体の緊張まで解ける気がしたんだ。

「夏樹無事ね、わんわんお茶を下さいな。喉が渇きました」
「かしこまりました」

 夕陽様はいつもどおりで「夏樹はだいぶこちらに馴染んだ感じがします。いいことですわ」とコロコロと笑う。

「ありがとう存じます。翠もみなもよくしてくれますから」
「それはよかったわ」

 早く茶を出せ、アイスコーヒーがいい。疲れたからイチゴのケーキを出せ。勝手知ったる何とかでスタスタと客間に向かう夕陽様。ダッシュのマオが一瞬横目に見えた気が。がんばれー。

「夕陽、お前は家に帰ればいいだろ。なんで俺に着いてくるんだよ」
「え?たまにはいいでしょ」
「たまにじゃないだろ。ついこないだも来ただろ」
「そうだったかしら?んふふっ」

 翠と夕陽様は歳も近い従兄弟にあたり、父君のご兄弟のお子様。翠にどこか似てる感じの美しい竜の姫君。とても仲がいいんだよ。まるで兄妹みたいにね。

 僕は言い争う二人の後をついて行く。目の前に翠がいる。それだけで僕は満足だったんだ。












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