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綾波明日菜の正体
無言通話
しおりを挟むあやぽんと買い物袋をタクシーに押し込むと、俺は一目散に家路に着く。
あやぽんのおかげで、神のお告げで、自分の気持ちがようやくわかった。 いや、わかって来た。
雪乃に憧れていた……ずっとずっと……でもそれは憧れであって、好きという感情とは違っていた。
少しでも雪乃に近づきたくて、県内最高峰の学校を目指した。
もし入れたら、雪乃に近付けたら、告白しよう……そう思っていた。
見事合格を果たした俺は雪乃に告白しようとしたその日、雪乃の気持ちを知ってしまった。
裏切られた……って、俺の頑張りってなんだったんだろうって、そう思った。
でも、この間の合宿で、雪乃の姿を見て、俺はその考えが間違っていると確信した。
そんな事で追いついてなんかいなかったと。
あいつは光っていた。輝いていた。
中学の時、全国に出たから、そこで優秀な成績だったから、輝いていたと思っていた。
でも違う……今の状態でも、記録が出なくても、雪乃は輝いていた。
あの輝きは持って生まれた物なのだと、俺はそう思った。
もしも、何かの間違いで、俺が雪乃と付き合えたとしても、多分あの光に、雪乃の輝きに俺は飲み込まれてしまうだろう。
そして俺は思うだろう……失敗すればって、ハイジャンで成績が出なければって……輝きが少しでも失えばって……。
自分の中の黒い物に俺は飲み込まれてしまうだろう……。
そして……それはあやぽんでも一緒だ。
今日の冗談を真に受けたとして、仮にあやぽんの遊びだったとしても、あやぽんと一緒に入れば、俺は自己嫌悪に陥るだろう。
これ以上人気が出なければいいって……炎上しろって……俺は思ってしまう。
自分に相応しくない人と付き合う……それは最悪な結末になる。
自分が相手の所まで行くか、それとも相手が自分の所まで落ちてくるか……。
こんなオタクな俺では……なんの取り柄もない俺では、相手を不幸にしてしまう。
ただ、そう言うと、綾波が二人に劣るから俺に合っている。なんて人は思うかもしれない。
でも違うんだ……綾波が決して二人に劣っているとは思わない。
綾波も……何故だか時折輝いて見える時がある。
なんだかわからないけど、あやぽんに似たオーラが見える時がある。
一度はあやぽんなのでは? と間違えた事さえ……。
眼鏡を外した素顔はまだ見た事は無いけど、でも綾波は結構可愛い気がしている。
いや、違う……顔じゃない、綾波は綾波自身が可愛い、あの喋り方、仕草、そのすべてが可愛いって思える。
たとえ、顔が可愛くなくても、どうでもいいって思えるほど、あいつは魅力的だって……思わされる。
綾波とは……なにか、馬が合う……そんな気がする。
だから俺は……覚悟を決めた。
まずは謝ろうって、誠意をもって謝罪しようって……。
そして、許してくれたなら……俺は自分の思いを伝えようって、そう思った。
この気持ちが、恋なのかはわからない、でも、雪乃にも、あやぽんにも、勿論楓にも持ち合わせていない気持ちを、俺は綾波に抱いている。
会いたい、逢いたい、会って話がしたい。
もっと、もっと綾波と話したい、そして綾波の事が知りたい。
だから俺は……通話のボタンを押した。
メッセージじゃあ駄目だ、こういう事は会って直接伝えなければ。
「頼む……出てくれ!」
俺は祈った……どうしても会いたい、今すぐに会いたい……あのあやぽんの歌の様に……俺の気持ちはまさにあの歌の主人公の様だった。
そして……数十秒の間の後……着信音が止まった。
しかし、向こうから返事は無い、俺は一度耳からスマホを離して画面を確認する。
通話状態……つまり無言のまま聞いているって事だ。
「あ、綾波! 切らないで聞いて欲しい! こないだはごめん! 俺綾波に謝りたいんだ、だから……あの本屋の後に一緒に行った喫茶店に、明日10時に来て貰えないか? いや、来てください……」
『……』
綾波は何も言わない……。
「俺……待ってるから……ずっと待ってるから……」
そう言って俺は綾波の都合も聞かずに通話を切った。
怖かったから、綾波の無言が怖かったから。
もしも、ここで拒絶されたら……って思ったら、怖くなって切ってしまった。
明日はいつまででも待つつもりだ、綾波が来てくれる事を信じて……。
そして……謝りたい、この間の事を……そして俺の本心を伝えたい……綾波に俺の本心を……。
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