クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

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愛真の告白

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「ねえ真ちゃん……」

「ん?」

「懐かしいね」

「うん」

 愛真と二人、部屋の明かりを消して寝る。厳密には全部消さずに小さな豆球だけを点灯させる。
 初めて愛真の家に泊まった時、豆球を点けるか点けないかで揉めた。
 真っ暗にすると寂しさが増すから、僕がそう言うと愛真は口癖の「そか」と言って豆球を点けてくれた。それ以来一緒に寝る時はずっと点けてくれる。今も……その小さな明かりを見ている……愛真と二人で……

「真ちゃん寂しがり屋だもんね、隠してるけど」

「…………うん」

「ごめんね……」

「ううん……」
 突然居なくなってしまった僕の親友、僕のお姉ちゃん、僕のもう一つの家族。

 凄く優しく接してくれて、僕は家族の様に思っていた……いや、思ってしまった。愛真と別れて最初は悔しかった、なぜもっと早く言ってくれなかったんだって、そして段々と寂しさが襲って来た。寂しくて何度となく誰も居ない愛真の家に行った。

 そしてはっきりと思った。僕は家族じゃ無かったって……

 今考えれば当たり前の事なのに、それがショックだった。

 幼い頃に母を失い、僕はずっと父と二人暮らし、当然仕事をしながら僕を育てるのは大変だっただろう。でも父は一生懸命だった、多分悲しかっただろう、辛かっただろう、そんな素振りを僕に殆んど見せる事は無かった。一生懸命に僕の相手をしてくれていた。でも僕の成長と共に父はどんどん忙しくなる。僕は一人でいることが増えていった。誰も居ない家、そして友達が作れない僕……家でも学校でもいつも一人でいた。寂しかった……そんな時に愛真と出会った。愛真の家族と出会った。暖かい家庭、美味しい手料理、優しいお母さん……それを知ってしまった。

 知らなければ良かった、知らばければ……あんなに辛い思いはしなくて良かったのに。

 愛真が居なくなり僕は泣いた。一人でずっと泣いていた。
 そして愛真が憎くなるまで、愛真の家族が憎くなるまで泣き続けた。

 そんなのただの八つ当たりだ、でもあの時はそうしないと、そう思わないと壊れてしまいそうだったから、そして僕は益々殻に綴じ込もってしまった。

 心では変えようと思っても、また居なくなってしまうんじゃないかって、結局他人なんだからいつか居なくなってしまうんじゃないかって……そう思ってしまい、何も変えられなかった。いや、寧ろ悪化してしまった。


「ねえ……真ちゃん……真ちゃんってさ……泉さんの事……好き……なの?」

「え?」

「好きなの?」

 ベットから愛真が僕を見下ろす。小さな明かりでほんのりと浮かぶ愛真の悲しそうな表情……その顔を見た瞬間に僕は気付いた。僕は多分愛真の事が好きだったんだろう……友達なんかじゃ無い……多分愛真が僕の初恋だったんだろうって。


「……うん」

「そか……」

 でも……今は……泉が、僕は泉の事が好きだ。そして泉は僕の家族になってくれた。いつも一緒に居てくれる……僕が喉から手が出る程欲しかった、家族に……


「中学の時に泉の事を始めて見たんだ、愛真が居なくなって凄く落ち込んでた……でも泉を見て、少しずつ変わらなくちゃって思う様になった。あんなキラキラ光ってる人みたいにって、泉に少しでも近付きたいって……あははは、無理だよね、でも、そう思ったんだ」

「……泉さん……綺麗だもんね……」

「でも、全部変われなくて、全然近づけなくて、そうしたら泉から僕に、泉の方から僕に近付いて来てくれた、家族として……」

「そか……」

「泉は僕の妹になったんだ、家族になってくれたんだ。だから……今は家族として好きになろうって……そう……思ってる……思う様にしてる……」

「家族……として……か」

「うん……」

「出来るの?」

「わかんない……でもそれが泉にとっても、僕にとっても一番良い事だって、そう思うんだ……」
 僕を見下ろしていた愛真は、頭を枕に乗せ再び上を向く。僕も愛真から目を離し小さな電球を見つめる。


「そか…………ねえ真ちゃん……私ね……真ちゃんの事が好き……」

「…………」

「弟って、友達だって思ってた……離れてからもずっとそう思ってた。でも違うってわかった……さっき裸で抱き合った時に……はっきりとわかった……私は……真ちゃんの事が……好きだって、好きだったんだって」

「僕も……愛真の事が……好きだったんだと思う……」

「だった……か……」

「うん……ごめん」

「ううん、私こそごめんね、好きな人がいるって言ってるのに……こんな事言って、ごめんね」

「ううん、嬉しいよ……ありがとう」

「ねえ……真ちゃん……私達、あのまま一緒にいたら、今頃どうなってたのかな?」

「…………」
 その問いに僕は答えなかった。いや、答えられなかった。どうなっていたかなんて、そんな事はわからないし、それは意味の無い答えだと思ったから。
 付き合っていたのかも知れない、もっと家族の様になっていたのかも知れない、でも……そうはならなかった。僕と愛真は恋人じゃ無かった、家族じゃ無かった。わかったのはそれだけ、わかっている事はそれだけ……

 僕と愛真はその後何も喋らずにずっと上を見つめていた。黙ってずっと小さな豆球を見つめていた。








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