クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

文字の大きさ
60 / 99

泉のトラウマ

しおりを挟む
 
 予定より少し早く愛真の家から帰宅した。
 まあ、色々気まずかったっていうのもあったんだけど、愛真のお母さんが夕方急用が入り車が出せるのは昼すぎまでになってしまったと言われたので。

「また、ね……真ちゃん」
 愛真は車を降りる時僕に向かってとびきりの笑顔でそう言った。
 でも僕は見逃さなかった。いつもと違う笑顔……懇願するような目を……

「うん……来週も宜しく」

「うん!」
 僕がそう言うといつも通り笑顔で手を振る愛真、その笑顔に僕はドキッっとしてしまった。

 見えなくなるまで車を、愛真を見送る。そして少し間を置いて僕は家に入ろうとした時、ふとイタズラ心が芽生えた……

 そーっと入って泉を驚かしてやれ!
 愛真と一緒にずっと昔話しをしたせいか? 考え方が小学生になってしまったんだろうか? 僕はついそんな事をしたくなった。
 
 これも家族になった証なのかも……間違っても薬師丸さんには出来ないよね?
 
 そして色々謎な泉、一人だと一体何をしているのかも前から気になっていた。
 僕が居ると、僕の世話ばかりで泉に隙が無い、でも、今日は夕方に帰るって言ってある。チャンスだ今なら泉は一人のはず、一体家では何をしているのか? 夕食の支度? リビングでテレビ鑑賞? 部屋にいたら無理だけど、キッチンやリビングにいたら脅かしてやれ!

 僕は鍵を慎重に開け、ゆっくりと扉を開ける。家の中からは物音等は無く人の気配は無かった。
 
 あれ? もしかして買い物にでも行っているのかも? そう思いながらゆっくりと靴を脱ぎ、リビングへ向かった。

 自室以外で泉が居るとしたら、リビングかキッチンだ。脅かすと言っても泉の部屋にいきなり入るわけにはいかない、ここに居なければ僕の計画は終了してしまう。
 怪我のせいでゆっくりとしか歩けない、僕はリビングにいつもの何倍もの時間をかけて近付くと、どこからか音が聞こえてくる。

「何? この音は?」

 不気味な音がする……いや、声か? 何か小さな声の様な音の様な物が聞こえてくる。

 その音に僕の歩くスピードが更に落ちる。ゆっくりとゆっくりと足を庇いながら、足音を立てずに歩く。

「泣き……声?」
 誰かが泣いている? 誰が? 僕は慌てた! 今家にいるのは泉だ! 何かあったのか! とはいえ今僕は走れない、でも、泉に! 泉が!

「いず」
 僕はリビングの扉を開けようと手をかけ泉の名を呼んだ。
 しかし、その僕の声に被せる様に泉が声をあげる。

「お兄ちゃん……お兄ちゃん……」

 え? 

「お兄ちゃん……ごめん……なさい……お兄ちゃん」
 リビングの中から聞こえてくる泉の声はいつもの明るい声では無かった。
 泣き声、嗚咽、そしてその間に聞こえてくるお兄ちゃんという言葉、お兄ちゃん? 僕の事? 僕が愛真の家に泊まったから悲しくて泣いている!?
 
 一瞬そんな嬉しい考えが浮かんだが、すぐにその考えを打ち消した。泉は僕の事をお兄ちゃんなんて呼んだ事はない。そして一度だけ、前に一度だけお兄ちゃんと呼んだ人物が居る。

 亡くなったという泉の実の兄だ。

 あれ以来その話はしていない、いや、そもそも僕は泉の事を何も知らない。
 
 そしてそう考えた瞬間、僕は思った……僕は泉の何が好きなんだろうって……

 中学受験の時初めて会った。受験を止めよう、僕には無理だって思ったその時に泉は現れた。白い制服を着た天使が僕の前に降臨した……僕はそう思った。

 そしてそれから3年間、僕は泉を見ていた。いつも明るく淑やかで美しく、僕は彼女を、泉を見る為に学校に通った。泉を遠くから見つめる為に……それだけ、それだけの為に僕は孤独に耐え通い続けた。

 泉と廊下ですれ違うだけで胸がときめいた、声を聞くだけで楽しくなった、笑顔を見るだけで幸せになった。
 
 そして高等部に入り初めて同じクラスに、僕は飛び上がる程嬉しかった。
 毎日彼女を近くで見れる……それだけで最高に幸せだった。

 それがまさか一緒に暮らすなんて兄妹になるなんて夢にも思っていなかった。いや、今でも夢だと思っている。

 僕は泉が好き……そう思っている……いや、そう思っていた。でも……改めて思う……僕は泉の何が好きなんだ? 顔? スタイル? 性格? 優しさ? 
 全部……全部が好き……そうなの? 
 
 全部が好きって言い切れるのか? 違う……そもそも僕は泉の事を何も知らない、今泣いている理由も……わからない……

 そして泉は僕の事をどう思っているんだ? お兄様と僕を呼び僕に尽くしてくれる……でもそれって……死んだ泉のお兄さんの代わりって事だよね? 泉がお兄さんに出来ない事を出来なかった事を、僕にしているだけ……贖罪の為に……

 僕は泉のお兄さんの代理、身代わり……

 
 そしたら……僕は一体なんなんだ? 僕の僕自身の存在は価値は?

 泉の中に僕は居るの?

 リビングで泣いている泉……話を聞きたいそして慰めたい、兄として妹を労りたい、そう思った。思ったけど……でも……僕はリビング扉を開ける事は出来なかった。

 




 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

クラスのマドンナがなぜか俺のメイドになっていた件について

沢田美
恋愛
名家の御曹司として何不自由ない生活を送りながらも、内気で陰気な性格のせいで孤独に生きてきた裕貴真一郎(ゆうき しんいちろう)。 かつてのいじめが原因で、彼は1年間も学校から遠ざかっていた。 しかし、久しぶりに登校したその日――彼は運命の出会いを果たす。 現れたのは、まるで絵から飛び出してきたかのような美少女。 その瞳にはどこかミステリアスな輝きが宿り、真一郎の心をかき乱していく。 「今日から私、あなたのメイドになります!」 なんと彼女は、突然メイドとして彼の家で働くことに!? 謎めいた美少女と陰キャ御曹司の、予測不能な主従ラブコメが幕を開ける! カクヨム、小説家になろうの方でも連載しています!

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

罰ゲームから始まった、五人のヒロインと僕の隣の物語

ノン・タロー
恋愛
高校2年の夏……友達同士で行った小テストの点を競う勝負に負けた僕、御堂 彼方(みどう かなた)は、罰ゲームとしてクラスで人気のある女子・風原 亜希(かざはら あき)に告白する。 だが亜希は、彼方が特に好みでもなく、それをあっさりと振る。 それで終わるはずだった――なのに。 ひょんな事情で、彼方は亜希と共に"同居”することに。 さらに新しく出来た、甘えん坊な義妹・由奈(ゆな)。 そして教室では静かに恋を仕掛けてくる寡黙なクラス委員長の柊 澪(ひいらぎ みお)、特に接点の無かった早乙女 瀬玲奈(さおとめ せれな)、おまけに生徒会長の如月(きさらぎ)先輩まで現れて、彼方の周囲は急速に騒がしくなっていく。 由奈は「お兄ちゃん!」と懐き、澪は「一緒に帰らない……?」と静かに距離を詰める。 一方の瀬玲奈は友達感覚で、如月先輩は不器用ながらも接してくる。 そんな中、亜希は「別に好きじゃないし」と言いながら、彼方が誰かと仲良くするたびに心がざわついていく。 罰ゲームから始まった関係は、日常の中で少しずつ形を変えていく。 ツンデレな同居人、甘えたがりな義妹、寡黙な同クラ女子、恋愛に不器用な生徒会長、ギャル気質な同クラ女子……。 そして、無自覚に優しい彼方が、彼女たちの心を少しずつほどいていく。 これは、恋と居場所と感情の距離をめぐる、ちょっと不器用で、でも確かな青春の物語。

処理中です...