クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

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僕の価値

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「あはははは、きもーーい」

「またか……」
 凛ちゃんの家に上がると凛ちゃんは来ているコートを脱ぎそのままメイド姿でお茶をいれてくれた。

 メイド姿をタダで見られるなんて……僕が凛ちゃんのメイド姿に釘付けになっていると、凛ちゃんは自分のお茶を持って僕の前に座るとニッコリ笑ってからそう言った。

「……それで、また何かあったの?」

「え?」

「真君が突然私の前に現れる時って大抵何かあった時でしょ?」

「そ、そんな事…………あるけど」

「ハイハイ、どうしたの?」
 凛ちゃんはニコニコしながら頬杖をついて僕をじっと見た。
 綺麗な大きな瞳は僕の内面まで覗く様にじっと僕を見つめている。

「…………泉を諦めた……僕は泉と兄妹になる事を選んだんだ……」

「ふーーん」

「それで……その事をさっき愛真に言ったら……じゃあ付き合おうって」

「ふーーーーーーん」

「……僕……どうしていいか、なんて言って良いかわからなくて……」

「付き合えばいいじゃん?」

「え?」
 凛ちゃんは笑いながらそう即答した。

「何を躊躇ってるのかねえ? 女の子から告白してきて、付き合ってって言われたなら、何も迷う事無いでしょ? 付き合えばいいじゃん」

「……で、でも……」
 でも……僕は……すぐに返事が出来なかった……でも何でだかわからない……愛真は可愛くて気が利いて幼なじみで恩人で……そんな娘に好きだって言われて付き合ってって言われて……なぜ直ぐに返事が出来なかったのか……。

「躊躇ってる理由があるから、でしょ?」

「……前に裏切られたから……かも」

「小学生の引っ越しに裏切られたって、今でも本気で思ってるの?」

「……いや……」

「愛真さんは真君が受け止めてくれるなら、もうずっと離れないって決心してるよきっと」

「……うん……でも……」

「でも、それでもか……あははは、きもーーい」

「またそれ……」

「だってキモいんだもん、何が諦めた、だよねえ……それってつまり泉さんに未練タラタラって事じゃない?」
 さっきまでニコニコ笑っていた凛ちゃんは呆れた顔に変わり、手をヒラヒラさせて少し小バカにするように言う。

「未練……」
 未練……未練なんてない……そもそも僕は泉に認識されていないんだから……。
 やっぱり僕は透明人間だった……一緒に住んでいる人にも認識されない程の透明人間……。

「だって、愛真さんと付き合えば文字通り泉さんを完璧に諦めるって事でしょ? それが嫌なんでしょ?」

「ち、違う……僕は泉は諦めたんだ……泉はもう僕の妹なんだ……」

「じゃあ何で返事しなかったの?」

「そ、それは……」

「真君は、愛真さんが嫌い?」

「……ううん」

「好きなのに付き合えないって……それは、もっと好きな人がいるからじゃないの?」

「……ぼ、僕は……泉の視界にいたいだけなんだ。僕は諦めたんだ、泉に好きになって貰おうとかなんて考えていない…………僕は透明なんだ……ずっとずっと透明人間だったんだ……誰にも認識されない透明人間……一緒に住んでいても……泉の視界には入って無かったんだ……でも兄なら、兄としてなら泉は僕を認識してくれる……」

「だーーーーーかーーーーーらーーーーーー、それが未練って言ってるの!」
 凛ちゃんは机をバン! と叩き、少しイラつきながら、少し強い口調でそう僕に言った。

「でも……」

「ああ、もう、良い? 好きでも無い人に認識されたいも無いでしょ? 貴方は透明人間じゃないの! 興味ない男ってだけ! 透明なら更衣室にでも入って見なさいよ! 間違いなく叩き出されるから!」

「きょ、興味ない……」

「そう! 常に暗くて、いつもおどおどして、自分に自信がなくて、メイドにしか興味無くて、そんな男に誰が興味を抱くのよ!」

「……」

「良いよく聞きなさい? 人がねえ、人に興味を抱くのは相手に価値があるからよ、自分の価値を相手にわからせる、そうすれば自分に興味を抱かせる事が出来るの!」

「……価値」

「そう、価値よ! 女の子が可愛くしようとするのも、男の子が格好よく見せようとするのも、スポーツや音楽、絵や小説なんかもそう、何か芸をするのもそう、それこそ孔雀が羽を広げるのもそう、皆自分の価値を相手に見せ付けて自分の価値をわかって貰う、自分を相手に認識してもらう為に努力してるんじゃない! 自分は透明だってぐちゃぐちゃ言ってるだけのあんたなんか誰も価値を見いだせないよ、認識なんて出来るわけ無いでしょ?」

「…………」

「真君の価値って何か、それがわかってるのって……愛真さんだけなんじゃない?」

「……愛真……だけ」

「……ま、まあ……私も少しくらいは認識してるけどねえ」

「……凛ちゃん……」

「貴方は透明人間じゃない……でも貴方の価値は……外側には無い! かなあ」

「外側には無いって……酷いよおおおおおお」

「あはははははは」
 
「僕の価値……」
 凛ちゃんはまた僕を見て笑った。笑ってくれた。凄く良い笑顔で、その笑顔だけで凛ちゃんの価値がわかる程に……。

 そうなんだ……この人は常に内側を見てくれる。本質を言ってくれる……僕を見てくれる……。
 
 愛真の告白に返事が出来なかった理由……ここにフラフラと歩いて来てしまった理由が……僕は今、わかった気がした。


 


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