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そういえば……僕は凛ちゃんの弱みを握っていた。
しおりを挟む今まで泉が一番だった……でも泉とは兄妹になった……。
だからってすぐに違う人が一番になれるかって言うとそうじゃない……好きの順位は繰り上がりじゃ無いから。
今でも勿論泉が好きだ。すぐに嫌いになるとかでは無い。
ただ諦めただけ、泉と恋人になれるかもなんて幻想を見なくなっただけ。
今、凛ちゃんに言われて……わかった……僕は見てほしかったんだ……認識してほしかったんだ……誰かに……自分を、自分自身を……。
そして僕を初めて認識してくれたのは……愛真だった……そして今、凛ちゃんも……。
僕は泉に認識してほしかった、いや認識されていると思っていた。
カースト最下位の僕が最上位の泉に認識された……こんな幸せな事はないって思ってた。
兄妹になって一緒に暮らして……ずっと認識されていると、そしていつしか泉の恋人にまで昇格出来るって、そんな幻想まで抱いていた。
そしてそれは脆くも崩れた……僕と泉はずっと変わらなかった、変わっていなかった。
クラスカーストの上位と下位、生まれも育ちも全く違う……不釣り合いにも程がある。
「何で可能性があるなんて思っちゃったんだろう……」
「無いの?」
凛ちゃんが不思議そうな顔でそう言った。
「……うん」
「何で?」
「何でって、認識されて無いんだよ? 一緒に暮らして、兄妹で……」
「そりゃあ最愛の人がいるからでしょ?」
「うん、僕は泉のお兄さんの代わりだったんだ……泉の罪悪感と気を紛らわすだけの存在」
「ほら認識されてるじゃん」
「え?」
「お兄さんの代わりって認識されてるって言ったの」
「いや、でも」
「真君はねえ……純粋過ぎるんだよ……欲しい物があるならどんな手を使ってでも手にいれるって、そんな気持ちでいないと駄目だよ」
「でも……それって」
「確かに……無理やりとか、ストーカーとかは駄目だよ……でもね、恋って、恋愛って相手の一番にならなきゃいけないの、その為ならどんな手を使ってでもって、そんな気持ちでいなきゃ」
「どんな手……」
「兄妹を利用する、兄の代わりを利用する…………こうやって着替えもせずにメイド服を着たままとかね」
「……え?」
「……嘘嘘、私はめんどくさかっただけ……」
「凛ちゃん……」
「……あ、コーヒーもう一杯飲む?」
「あ、うん」
「1500円になりまーーす」
「高い! ぼったくりメイド喫茶!」
「あら当メイド喫茶ナンバーワンが専属でお世話してるんですから、それくらいの報酬は頂きませんと、2杯なので3800円でーーす」
「なんで2杯目で値段が上がるの!」
「時間が伸びればサービス料もあがる仕組みでーす」
「あううう、僕今1000円しか持ってない……」
「うーーわ、引く」
「ひ! 酷い!」
「あはははは、じゃあ身体で払って貰いましょうか」
「か、身体で! ……えっと、その……僕初めてなんで……優しく」
僕はそう言って俯きながらシャツのボタンを一つ一つ外し……。
「きもーーーーーーーい」
「キモいって言うなああ」
「あはははははは、じゃあお湯を沸かしている間に着替えて来るから、火を見ておいてね」
「え! き、着替えちゃうの?」
「うん、真君、今のはマジでキモいから」
「……は、はい」
「あはははははは、可愛いねえ真くん」
凛ちゃんはそう言って席を立った。
結局凛ちゃんは僕に泉を諦めろと言ったのか、諦めるなと言ったのか……。
そして僕は泉を諦めて……愛真や凛ちゃんと付き合った方が良いのか……。
…………凛ちゃんと……付き合う?
「僕が……凛ちゃんと?」
そんな選択肢が頭に浮かんだ……そしてそう考えた瞬間僕の鼓動が心拍数が跳ね上がった。
そう……僕は凛ちゃんに恋をしている……今、泉と並ぶ位に凛ちゃんが好き……。
冗談めかして言っていたけど……凛ちゃんは僕の事をどう思っているんだろう……、もし、もし僕が付き合ってって言ったらどうなるんだろう……。
言ってみたい気持ちと、今のこの心地よい関係を壊したくないって思いが混在している。
でも……それは直ぐに勘違いだって思った。
だって凛ちゃんは泉に匹敵する程の美貌の持ち主、しかもメイドナンバーワンの優勝者……前優勝者は今や芸能人……凛ちゃん……ミカンちゃんもいずれ芸能人に……そんな凄い人と僕が付き合うって事自体があり得ない。
僕が凛ちゃんの弱味を握っているから、凛ちゃんの正体を知っているから、こうして話を聞いて貰ってる、友達の様に付き合って貰えているだけ……弱味を握っているから……握って……いる。
…………凛ちゃんはさっき言った。
『欲しい物があるなら……どんな手を使ってでも』って……。
そして僕の心の中で悪魔が言った。
『奪え……どんな事をしてでも』
北海道で泉の全てを手に入れろと言った悪魔が、また僕にそう囁いていた。
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