クラスでカースト最上位のお嬢様が突然僕の妹になってお兄様と呼ばれた。

新名天生

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凛ちゃんの妹

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「だ、駄目だ……こんな事考えちゃ」
 いくら好きだと言っても弱みに付け込むなんて……。
 僕は自責の念に駆られる……こんな事を考える人間だったのかと、自分自身が情けなく感じた。

 一人で平気だった筈なのに……僕はいつの間にかこんな事を考えてしまう様になってしまった。
 
 小さい頃はいつも一人だった……。
 
 でも……愛真のせいで、人と一緒にいる楽しさを知ってしまった。 そして……それを失う怖さも知ってしまった。
 
 泉のせいで、人を好きになる楽しさを知ってしまった。 そしてそれを失う辛さも知ってしまった。

 知らなければよかった……知らなければこんな事を考えなかった。
 人を陥れてまで、一緒にいたいなんて……引き留めようなんて……思わなかった。

 愛真と一緒にいると楽しくなる。泉と一緒にいるとドキドキする。凛ちゃんと一緒にいると安心する。

 僕は今3人の女の子を好きになっている……。
 
 僕はどうすれば良いのか……。

『ポーーン』
 その時凛ちゃんの部屋のインターフォンがなった。

「え?」

「真くーーんごめん出てえ」
 隣の部屋から凛ちゃんがそう言った……まだ着替えている途中なのか? インターフォンは僕のいる部屋、ダイニングにある。
 
 いいのかな? まあ、荷物か何かだろう?
 僕はインターフォンの受話器を取ると画面に人が……居ない? でも何かぴょんぴょんと髪の毛の様な物が見え隠れしている。
 なんだ? 子供のいたずら? そう思っていたら受話器から声が聞こえて来た。

「おねいちゃん~~」
 おねいちゃん? 誰?

「あけてくださいいい、おねいちゃんん」

「え? えっと……どなたですか?」

「あれ? 間違えた? でも番号はあってますねえ……」

「凛ちゃんの妹? ちょっと待っててね」
 僕は耳から受話器を離し大きな声で凛ちゃんに言った。

「凛ちゃ~~~ん、おねいちゃんって言ってますけど」

「……えええええ!」
 慌てる様に凛ちゃんが隣の部屋の扉を開けた……えっと……凛ちゃんの姿はメイド服からすっかり変わって…………上はスエット姿だった。

 そして履いているパンツの色は水色の縞々だった。
 
 えっと……その……凛ちゃん……スカート履き忘れてますよ……。


◈ ◈ ◈


「お兄ちゃんは、おねいちゃんの彼氏さんですか?」

「ち、違う……と、友達?」

「そうですか、ちょっと暗そうだけど、優しそうな人ですねえ」

「……あ、ありがとう……」
 凛ちゃんの妹と名乗る少女はそう言うと用意して貰ったジュースを美味しそうに飲み始める。初対面の子供にいきなり暗そうとか……僕って……。

「うん……うん、そか……じゃあ、今日は泊めるから、うん……」
 凛ちゃんはスマホでお母さんとおぼしき人と話している。どうもこの子は黙って勝手に来てしまったらしい。
 
 凛ちゃんの妹は、ランドセルを背負ってるので、恐らく小学生、身長や喋り方から考えても多分低学年……1年生か2年生か……。

「えっと、いくつ?」
 僕がそう聞くと妹ちゃんはコップから目を離し僕を見てニッコリ笑って言った。

「レデイに年を聞いてはいけませんよ」

「あ、はい……ごめんなさい」
 れでい……。

「──ミイ! 勝手に来ちゃだめでしょ! お母さん心配してたわよ!」
 電話を終えた凛ちゃんは見た事の無い表情、口調で妹さんに向かって、そう叱りつけた。名前はミイちゃんか……。

「……だ、だっで……だっでえええええええええ」
 凛ちゃんに思いっきり怒られ、妹の顔がぐしゃりと歪むそして、その大きな瞳からボロボロと涙がこぼれ落ちる。怖いよね凛ちゃん……僕も隣でブルブルと震える。

「な、泣いても駄目!」

「……だっで……さ、寂しかったんだもおおおおおん、おねいちゃん帰ってこないしいいいい、お母さんお仕事でおうちにいないしいいい」

「そ、それでも駄目って言ったら駄目」

「うええええええええええええん」
 その少女を見て、その涙を見て僕は思った……うん……寂しいよね……小さい頃から一人だった僕はその気持ちが凄くわかる……。

 だから怖かったけど、勇気を出して凛ちゃんに言った。

「……ま、まあ、まあ凛ちゃん、今日はこの辺でね、ミイちゃんも反省してるよね?」
 僕はなんだかミイちゃんの寂しさが、自分の事の様に思ってしまった。小さい頃の自分と……強がっていた自分と……同じだと……。

 そして、慰める様に、よしよしとミイちゃんの頭を撫でる……まるで小さい頃の僕自身を慰めている様に……。

「……ふ、ふぐ、ふぐう……ふえ、う、うん、ふ……」
 
「……もう…………仕方ないなあ……とりあえず今日はここに泊まって明日一緒に帰るからね」

「……は、はいですう、ごめんなさいです……おねいちゃん」
 そう言って真っ赤顔のまま、満面の笑みで笑うミイちゃんに凛ちゃんは笑顔で応えた。
 麗しき姉妹の様だが……僕は何か違和感を感じた……。
 
 凛ちゃんの笑顔に違和感が……その笑顔はどこか悲しそうな……何か裏があるような……そんな気がした。

「とりあえずご飯を作らなきゃね、でも冷蔵庫には何も無いし……真君ごめん、ミイを見てて貰っていい? ちょっと買い物行って来る……真君の分も作るから一緒に食べて行って……ね?」

「……あ、うん……良いけど」

「じゃあ直ぐに買ってくるから……ミイ! お兄ちゃんに迷惑かけちゃ駄目だからね」

「はーーーーい」
 安心したのかミイちゃんは来た時の様に陽気な感じでそう返事をした。

「──お願い……ね」
 でも凛ちゃんは、そんなミイちゃんを見ずに僕にそう言った。
 そして逃げる様に家を出て行く……一体どうしたんだろうか?

 そして僕は思った……そもそも何故凛ちゃんは一人暮らしなんだと?
 こんな小さい子を置いて、一人で暮らす……確かお父さんは死んだって……。
 
 凛ちゃんの家庭……虐待……なんて話も……聞いた。

 凛ちゃんは幼い頃……一体何があったのか……。

 小さい頃の虐待……中学での虐め……凛ちゃんは僕にそんな話をしてくれた……でも多分それが全部ではない……多分まだ何か隠している……そして……この妹と凛ちゃんは一体……。

 僕はそんな事を考えながら、チビチビとジュースを飲む凛ちゃんの妹をじっと見つめていた。



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