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過去の話 0-5

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そのちいさな女の子は、ニコリともしない能面みたいな顔で、歌い出した声は超高音域から急降下、かなりの低音までいきなり音程を切り替えたりして、大人顔負けの歌唱力で堂々と歌い出した。
不思議な歌声だった。
冷え切ったルークの中の何かが、ブゥンと音を立てて共振する様な、そんな感覚を味わった。
どこに有るのか分からない、ルークの大切な何かが温まって行く様なそんな感覚、何の抵抗感も無く、ルークは少女の歌に聞き入り、魅入っていた。
気が着いたら泣いていた。
涙はともかく、鼻をかむ物が無くて、木の葉をむしって使ったら鼻の頭と鼻の下が赤剥けてしまって、『ですよねー』って思って思わず笑った。

笑った。

その子の番が終わると、『帰ろう』って思った。
あともうちょっと頑張ろう、あともうちょっとだけ、もう一度あの子の歌が聞きたいから。画面に向かって『またね』と言った。
ただの自己満足の、一人遊びだ。
一人で来た道を、又一人で引き返す。帰ったら、又折檻されるだろうか・・・・。
家に辿り着く前に母親がルークを見つけ、駆け寄って来た。
ルークの有様を見て、開口一言こう言った。
「アンタが悪いのよ。帰ったら謝りなさい」
こういう時の母親の目は、ルークには異様に見えた。
まるで魔物の目の様に昏く、光が無く、虚ろなのだ。
そして決まって口もとには微かに笑みを湛えている時すら少なく無かった。
気持ち悪い。
ルークはとりあえず『ごめんなさい』と又言った。
この時既に、ルークは子供心に気が着いていた。
母親こそが、父親がルークに暴力を振るう様に仕向けている張本人だという事に。

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