行き遅れ聖女は惰眠を貪る

せいじ

文字の大きさ
7 / 8

七話

しおりを挟む
(ギルバルト視点)

アリアの家に戻り、未だ眠り続ける女の顔を覗き込む。
ギルバルトの体重を受けて軋んだ音を立てようとも、アリアの眠りは深く、目を覚ます様子はない。

非常に残念ではあるが、アリアの望む平穏は、今は得られないだろうから、無理矢理起こすような真似をしようとも思わなかった。
国を立て直すには時間がかかるだろう。
三国に分けさせた土地は、上が変わったことで多少ごたつくだろうが、それが落ち着いて、かつ頼りにし過ぎた聖女の存在を忘れ、円滑に国が回る様になるまで。
いくら周りに関心を持ってこなかったギルバルトとて、それくらいは理解している。
国の影響など知ったことではないと、理不尽な力で潰した本人が言うのもおかしな話ではあるが。

それくらいまでは、彼女は休むべきだ。
ギルバルトは早くアリアの笑った顔を見たいとは思うものの、目覚めた時に憂いや禍根が残っているようでは意味がない。

彼女の記憶を盗み見たからこそわかる。
元々平凡な農家の生まれであるアリアに貴族に揉まれるような生活は窮屈でしかなかった。
女であることから、男からは子供を産むための存在とみられ、そして魔力の多いアリアは狙い目だ。
平民であるから慰み者にされる可能性も高かったが、当時の王はまともな方で、魔力も技術もある彼女を下手に好きにされないように魔導士としての地位を与えて保護した。

故に当時恩義を感じた彼女は、中々国に見切りをつけられずに余計な苦労が付きまとう羽目になったわけだが。

子供を作るための存在として扱うことが出来ない代わり、とばかりに魔導士としての能力を搾取される。

陰口は当たり前。
本当に隠しているのか、と鼻で笑いたくなるほどには、口の悪さを隠せていなかったようだが。
下手に貴族連中に逆らって弱みを作るのは得策ではない。

賢王と呼ばれた男がいなくなり、次代に変わったまではいくらかマシだったようだが、さらにその次と代替わりしてからは扱いが悪化する。
主に魔導士を道具としてしか見ないような王と貴族。

アリアの実年齢と外見年齢が釣り合わなくなった頃にはそういった誘いはめっきり減ったものの、使えるのは魔力くらいなのだから役に立てとばかりに仕事を振る。

途中何度もギルバルトのもとにやってくるアリアの姿があったが、アリアはギルバルトを友人としか見ていなくとも、会いにくる時間を大事にしてくれていたことはよく分かった。
特に、彼女の家族が皆この世を去ってからは特に。


…………今度は、失敗しない。
アリアが穏やかな暮らしを送ることが出来るように、全てを整えておくのは番(つがい)の役目だとも。
多少面倒だろうとも手間を惜しむ気はない。

千年と外界に関心を持ってこなかった一匹の雄が、たった一つ恋を知っただけでこのあり様か、と思うと、今は交流を持っていない知人連中に笑われるだろうが、知ったことではない。
笑いたければ笑えばいい。

アリアが白森の奥に隠すように作ったこの家から分かるように、人知れず会いにくるギルバルトくらいしか友人を作ってこなかったように。
アリアは平凡な暮らしを望んでいた。
いつか仕事を辞めることが出来たら、誰も知らない土地でのんびり暮らして、恋が出来ないにしても友人は居るからきっと楽しいだろうと。
美味しいものでも食べて、楽しいことをして、世界中を見て回るのが彼女の夢だった。
その友人であるのは、他でもない自分のことだ。
引き籠り、と彼女に罵られてはいるが、連れ出してくれるというのなら、アリアが望むのならどこへでもついていこうじゃないか。

(まぁ、その時には『友人』などとは言わせないがな)

もしも魔力が無かったら、なんてことも考えていたようだが、それは無理な話だ。
けれど、ギルバルトにとっては、アリアが魔力持ちであることが何よりもありがたい。
彼女の唯一も、自分の唯一も互いの存在だけだ。


アリアの顔のラインを、人間のものになった指先でゆっくりとなぞる。
最後にあった時よりも随分やつれた。

生意気なところもあるが、ギルバルトを対等の存在として扱ってくれる彼女のことを好いている。
けれど、アリアと同じ気持ちではない。
アリアが黙ってギルバルトの前から消えようとしたせいで、気持ちははっきりしてしまった。
言うなればこれは、アリアが招いた結果の他ならない。

「なぁ、アリア。お前が私を夢中にさせたんだよ」

ーーー

やっと書こうと思ってた眠姦のターン!に入れる……
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

獣人の彼はつがいの彼女を逃がさない

たま
恋愛
気が付いたら異世界、深魔の森でした。 何にも思い出せないパニック中、恐ろしい生き物に襲われていた所を、年齢不詳な美人薬師の師匠に助けられた。そんな優しい師匠の側でのんびりこ生きて、いつか、い つ か、この世界を見て回れたらと思っていたのに。運命のつがいだと言う狼獣人に、強制的に広い世界に連れ出されちゃう話

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して二年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 【ご報告】 2月28日より、第五章の連載を再開いたします。毎週金・土・日の20時に更新予定です。 また、誤字脱字の修正および一部表現の見直しを行いました。ただし、記載内容の趣旨に大きな変更はございません。 引き続きよろしくお願いいたします。

冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?

由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。 皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。 ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。 「誰が、お前を愛していないと言った」 守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。 これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

初夜の床で「愛はない」と言った自分に返ってきたのは「愛はいらない食はくれ」と言う新妻の言葉だった。

いさき遊雨
恋愛
「僕に君への愛はない。」 初夜の床でそう言った僕に、 「愛はいらないから食事はください。」 そう言ってきた妻。 そんな風に始まった二人の夫婦生活のお話。 ※設定はとてもふんわり ※1話完結 の予定 ※時系列はバラバラ ※不定期更新 矛盾があったらすみません。 小説家になろうさまにも登録しています。

処理中です...