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七話
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(ギルバルト視点)
アリアの家に戻り、未だ眠り続ける女の顔を覗き込む。
ギルバルトの体重を受けて軋んだ音を立てようとも、アリアの眠りは深く、目を覚ます様子はない。
非常に残念ではあるが、アリアの望む平穏は、今は得られないだろうから、無理矢理起こすような真似をしようとも思わなかった。
国を立て直すには時間がかかるだろう。
三国に分けさせた土地は、上が変わったことで多少ごたつくだろうが、それが落ち着いて、かつ頼りにし過ぎた聖女の存在を忘れ、円滑に国が回る様になるまで。
いくら周りに関心を持ってこなかったギルバルトとて、それくらいは理解している。
国の影響など知ったことではないと、理不尽な力で潰した本人が言うのもおかしな話ではあるが。
それくらいまでは、彼女は休むべきだ。
ギルバルトは早くアリアの笑った顔を見たいとは思うものの、目覚めた時に憂いや禍根が残っているようでは意味がない。
彼女の記憶を盗み見たからこそわかる。
元々平凡な農家の生まれであるアリアに貴族に揉まれるような生活は窮屈でしかなかった。
女であることから、男からは子供を産むための存在とみられ、そして魔力の多いアリアは狙い目だ。
平民であるから慰み者にされる可能性も高かったが、当時の王はまともな方で、魔力も技術もある彼女を下手に好きにされないように魔導士としての地位を与えて保護した。
故に当時恩義を感じた彼女は、中々国に見切りをつけられずに余計な苦労が付きまとう羽目になったわけだが。
子供を作るための存在として扱うことが出来ない代わり、とばかりに魔導士としての能力を搾取される。
陰口は当たり前。
本当に隠しているのか、と鼻で笑いたくなるほどには、口の悪さを隠せていなかったようだが。
下手に貴族連中に逆らって弱みを作るのは得策ではない。
賢王と呼ばれた男がいなくなり、次代に変わったまではいくらかマシだったようだが、さらにその次と代替わりしてからは扱いが悪化する。
主に魔導士を道具としてしか見ないような王と貴族。
アリアの実年齢と外見年齢が釣り合わなくなった頃にはそういった誘いはめっきり減ったものの、使えるのは魔力くらいなのだから役に立てとばかりに仕事を振る。
途中何度もギルバルトのもとにやってくるアリアの姿があったが、アリアはギルバルトを友人としか見ていなくとも、会いにくる時間を大事にしてくれていたことはよく分かった。
特に、彼女の家族が皆この世を去ってからは特に。
…………今度は、失敗しない。
アリアが穏やかな暮らしを送ることが出来るように、全てを整えておくのは番(つがい)の役目だとも。
多少面倒だろうとも手間を惜しむ気はない。
千年と外界に関心を持ってこなかった一匹の雄が、たった一つ恋を知っただけでこのあり様か、と思うと、今は交流を持っていない知人連中に笑われるだろうが、知ったことではない。
笑いたければ笑えばいい。
アリアが白森の奥に隠すように作ったこの家から分かるように、人知れず会いにくるギルバルトくらいしか友人を作ってこなかったように。
アリアは平凡な暮らしを望んでいた。
いつか仕事を辞めることが出来たら、誰も知らない土地でのんびり暮らして、恋が出来ないにしても友人は居るからきっと楽しいだろうと。
美味しいものでも食べて、楽しいことをして、世界中を見て回るのが彼女の夢だった。
その友人であるのは、他でもない自分のことだ。
引き籠り、と彼女に罵られてはいるが、連れ出してくれるというのなら、アリアが望むのならどこへでもついていこうじゃないか。
(まぁ、その時には『友人』などとは言わせないがな)
もしも魔力が無かったら、なんてことも考えていたようだが、それは無理な話だ。
けれど、ギルバルトにとっては、アリアが魔力持ちであることが何よりもありがたい。
彼女の唯一も、自分の唯一も互いの存在だけだ。
アリアの顔のラインを、人間のものになった指先でゆっくりとなぞる。
最後にあった時よりも随分やつれた。
生意気なところもあるが、ギルバルトを対等の存在として扱ってくれる彼女のことを好いている。
けれど、アリアと同じ気持ちではない。
アリアが黙ってギルバルトの前から消えようとしたせいで、気持ちははっきりしてしまった。
言うなればこれは、アリアが招いた結果の他ならない。
「なぁ、アリア。お前が私を夢中にさせたんだよ」
ーーー
やっと書こうと思ってた眠姦のターン!に入れる……
アリアの家に戻り、未だ眠り続ける女の顔を覗き込む。
ギルバルトの体重を受けて軋んだ音を立てようとも、アリアの眠りは深く、目を覚ます様子はない。
非常に残念ではあるが、アリアの望む平穏は、今は得られないだろうから、無理矢理起こすような真似をしようとも思わなかった。
国を立て直すには時間がかかるだろう。
三国に分けさせた土地は、上が変わったことで多少ごたつくだろうが、それが落ち着いて、かつ頼りにし過ぎた聖女の存在を忘れ、円滑に国が回る様になるまで。
いくら周りに関心を持ってこなかったギルバルトとて、それくらいは理解している。
国の影響など知ったことではないと、理不尽な力で潰した本人が言うのもおかしな話ではあるが。
それくらいまでは、彼女は休むべきだ。
ギルバルトは早くアリアの笑った顔を見たいとは思うものの、目覚めた時に憂いや禍根が残っているようでは意味がない。
彼女の記憶を盗み見たからこそわかる。
元々平凡な農家の生まれであるアリアに貴族に揉まれるような生活は窮屈でしかなかった。
女であることから、男からは子供を産むための存在とみられ、そして魔力の多いアリアは狙い目だ。
平民であるから慰み者にされる可能性も高かったが、当時の王はまともな方で、魔力も技術もある彼女を下手に好きにされないように魔導士としての地位を与えて保護した。
故に当時恩義を感じた彼女は、中々国に見切りをつけられずに余計な苦労が付きまとう羽目になったわけだが。
子供を作るための存在として扱うことが出来ない代わり、とばかりに魔導士としての能力を搾取される。
陰口は当たり前。
本当に隠しているのか、と鼻で笑いたくなるほどには、口の悪さを隠せていなかったようだが。
下手に貴族連中に逆らって弱みを作るのは得策ではない。
賢王と呼ばれた男がいなくなり、次代に変わったまではいくらかマシだったようだが、さらにその次と代替わりしてからは扱いが悪化する。
主に魔導士を道具としてしか見ないような王と貴族。
アリアの実年齢と外見年齢が釣り合わなくなった頃にはそういった誘いはめっきり減ったものの、使えるのは魔力くらいなのだから役に立てとばかりに仕事を振る。
途中何度もギルバルトのもとにやってくるアリアの姿があったが、アリアはギルバルトを友人としか見ていなくとも、会いにくる時間を大事にしてくれていたことはよく分かった。
特に、彼女の家族が皆この世を去ってからは特に。
…………今度は、失敗しない。
アリアが穏やかな暮らしを送ることが出来るように、全てを整えておくのは番(つがい)の役目だとも。
多少面倒だろうとも手間を惜しむ気はない。
千年と外界に関心を持ってこなかった一匹の雄が、たった一つ恋を知っただけでこのあり様か、と思うと、今は交流を持っていない知人連中に笑われるだろうが、知ったことではない。
笑いたければ笑えばいい。
アリアが白森の奥に隠すように作ったこの家から分かるように、人知れず会いにくるギルバルトくらいしか友人を作ってこなかったように。
アリアは平凡な暮らしを望んでいた。
いつか仕事を辞めることが出来たら、誰も知らない土地でのんびり暮らして、恋が出来ないにしても友人は居るからきっと楽しいだろうと。
美味しいものでも食べて、楽しいことをして、世界中を見て回るのが彼女の夢だった。
その友人であるのは、他でもない自分のことだ。
引き籠り、と彼女に罵られてはいるが、連れ出してくれるというのなら、アリアが望むのならどこへでもついていこうじゃないか。
(まぁ、その時には『友人』などとは言わせないがな)
もしも魔力が無かったら、なんてことも考えていたようだが、それは無理な話だ。
けれど、ギルバルトにとっては、アリアが魔力持ちであることが何よりもありがたい。
彼女の唯一も、自分の唯一も互いの存在だけだ。
アリアの顔のラインを、人間のものになった指先でゆっくりとなぞる。
最後にあった時よりも随分やつれた。
生意気なところもあるが、ギルバルトを対等の存在として扱ってくれる彼女のことを好いている。
けれど、アリアと同じ気持ちではない。
アリアが黙ってギルバルトの前から消えようとしたせいで、気持ちははっきりしてしまった。
言うなればこれは、アリアが招いた結果の他ならない。
「なぁ、アリア。お前が私を夢中にさせたんだよ」
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