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突然背中から優しい声が降ってきた。
慌てて体を返すと、ベッドサイドにセレス殿下が立っている。
「なっ何でいるんですか!?」
とっさにベッドに起き上がって身を縮めた。
「妻の部屋に夫がいたらダメかい?」
綺麗な顔が微笑む。
部屋の鍵は締めたのに……
そう思って部屋を見渡すと、1つの壁に廊下につながる扉とは別の小ぶりのドアが開いていた。
隣は殿下の部屋だって聞いてたけど、まさか内扉で繋がってたとは。
でもちょっと失礼じゃないか?
『いきなり入るは良くないです。びっくり。」
「結婚した夜は夫婦で過ごすものだろう?」
爽やかに笑った殿下がポスリとベッドに腰掛ける。
うわ、笑顔がキラキラしてる。
腕のいい職人に肖像版画を作らせたら10,000枚はいくな。
1枚20ユルくらいだと儲けは……
「私の顔に何か付いてるかな?」
『利益が付いてマス。』
「ん?」
『間違えです。シツレイしまシタ。』
いかん。夫が金貨に見えてた。
いやいやしっかりしろ俺。
そもそも何だってこの人は部屋に来たんだ。
そりゃ、普通の夫婦なら初夜は一緒に過ごすと思う。
でも、俺たちは同性だから一緒に過ごす必要がない。
同性結婚の便利なところは、白い結婚という夫婦の営みがない関係だと公にわかることだ。
そうでないと教会の戒律上離婚ができないから、後からお互い子供が必要になった時に困る。
フルドール王の長男が十分育ったら俺も殿下も離婚して今度は自分たちの後継を作るために別の結婚をするはずだ。
つまり、俺たちの結婚は両国の十数年の場繋ぎのためなんだ。
その後でフルドールがまだ他の国より強ければノイデルラントはまたフルドールに花嫁を嫁がせるし、他の国が強くなっていれば他の国にそうする。
これは長年大国に挟まれてきた小国の知恵だ。
そんな国同士の打算的な繋がりだけど、せっかく一緒にいるならその間は仲良くしたいって俺なりに考えた。その決意を示すために、故郷の伝統である手作りの花嫁衣装を作って嫁ぐことにもしたんだ。
「ねえ、どうして私がバカなんだい?」
殿下に言われて俺はとんでもない独り言を聞かれていたことに今更気付いた。
『も、申し訳ありません。』
「怒っているわけじゃない。理由が知りたいんだ。リオに嫌われたくないから。」
『わ、私のドレスが、無しは、よいと言うました殿下に。』
殿下が首をかしげる。
通じてないみたいだ。
「リオ、君の国の言葉でいいよ。分かるから。」
『でも、フルドール王宮はフルドール語を喋りマス。』
「フルドール語は私がちゃんと教えてあげるから、今はノイデル語を話してほしいな。」
「……はい。すみません。俺の言葉わかりませんよね。」
「そんなことない。上手だよ。喋り方も可愛いし。」
殿下がポンポンと自分の隣のスペースを叩く。
おずおずとベッドの角から移動して隣に座った。
「今日はお疲れ様。長旅の後にすぐに式で疲れただろう。」
「殿下こそお疲れ様でございました。」
「リオ、もう私たちは夫婦なんだから、敬語はいらないよ。それに二人の時はセレスと呼んでほしい。」
「わかりま、……わかった。」
「ふふ、ありがとう。ねえ、私は君が作ったドレスが要らなかったなんて思ってないよ。」
「えっ、でも、着てなくてよかったって……。」
「あの場ではね。今着て見せてくれないか?」
今更着てどうするんだろうと思ったけど一度も着ないのはもったいない気もしていたので、言われた通りチェストから衣装を取り出して部屋の隅の衝立の裏に着替えに向かった。
式で着た衣装と違ってパニエも不要だし前にボタンがつけてあって一人でも簡単に着付けられる構造なのでささっと身につける。
まもなく着替え終わったのでセレス殿下の前に歩みでた。
紺のベルベット生地に、国の繁栄やパートナーの無病息災やお金が貯まることを願う模様を散りばめたドレス。
あと、俺が好きな鷲の意匠も黄糸で縫ってある。
豪華な宝石やフリルはついてないけど全部自分で刺繍した渾身の一着だ。
……まあ、でも今思うと確かにあのキンキラな場で着たら侍女の衣装より地味に映ったかもしれない。
「ああ、今日一番素敵だ。」
俺の姿を見た殿下が本当に嬉しそうに言うので、男の俺でもかっと頬が熱くなってしまった。
「もっとこっちに来てよく見せて。」
操られたように手招きされるまま近寄る。
ぐっと腕を掴まれて強引に引き寄せられ、殿下にまたがるようにベッドに乗り上げる格好になった。
「ちょ、殿下っ」
「セレスだ。」
少し強い口調で言われてたじろぐ。
「せ、セレス離して」
離れようとしても腕を背中に回されてホールドされているので膝の上から降りられない。
「なぜ?この方がよく見えるのに。」
施された鷲の刺繍をつつっとなぞるように胸板を撫でられた。
「んっ」
わざと狙っているのか、乳首のあたりをクリクリと布越しに押し潰してくる。
刺繍の凹凸が敏感なところにコリコリ当たってジワジワした変な感覚がする。
何これ、一体何が起きてるんだ。
慌てて体を返すと、ベッドサイドにセレス殿下が立っている。
「なっ何でいるんですか!?」
とっさにベッドに起き上がって身を縮めた。
「妻の部屋に夫がいたらダメかい?」
綺麗な顔が微笑む。
部屋の鍵は締めたのに……
そう思って部屋を見渡すと、1つの壁に廊下につながる扉とは別の小ぶりのドアが開いていた。
隣は殿下の部屋だって聞いてたけど、まさか内扉で繋がってたとは。
でもちょっと失礼じゃないか?
『いきなり入るは良くないです。びっくり。」
「結婚した夜は夫婦で過ごすものだろう?」
爽やかに笑った殿下がポスリとベッドに腰掛ける。
うわ、笑顔がキラキラしてる。
腕のいい職人に肖像版画を作らせたら10,000枚はいくな。
1枚20ユルくらいだと儲けは……
「私の顔に何か付いてるかな?」
『利益が付いてマス。』
「ん?」
『間違えです。シツレイしまシタ。』
いかん。夫が金貨に見えてた。
いやいやしっかりしろ俺。
そもそも何だってこの人は部屋に来たんだ。
そりゃ、普通の夫婦なら初夜は一緒に過ごすと思う。
でも、俺たちは同性だから一緒に過ごす必要がない。
同性結婚の便利なところは、白い結婚という夫婦の営みがない関係だと公にわかることだ。
そうでないと教会の戒律上離婚ができないから、後からお互い子供が必要になった時に困る。
フルドール王の長男が十分育ったら俺も殿下も離婚して今度は自分たちの後継を作るために別の結婚をするはずだ。
つまり、俺たちの結婚は両国の十数年の場繋ぎのためなんだ。
その後でフルドールがまだ他の国より強ければノイデルラントはまたフルドールに花嫁を嫁がせるし、他の国が強くなっていれば他の国にそうする。
これは長年大国に挟まれてきた小国の知恵だ。
そんな国同士の打算的な繋がりだけど、せっかく一緒にいるならその間は仲良くしたいって俺なりに考えた。その決意を示すために、故郷の伝統である手作りの花嫁衣装を作って嫁ぐことにもしたんだ。
「ねえ、どうして私がバカなんだい?」
殿下に言われて俺はとんでもない独り言を聞かれていたことに今更気付いた。
『も、申し訳ありません。』
「怒っているわけじゃない。理由が知りたいんだ。リオに嫌われたくないから。」
『わ、私のドレスが、無しは、よいと言うました殿下に。』
殿下が首をかしげる。
通じてないみたいだ。
「リオ、君の国の言葉でいいよ。分かるから。」
『でも、フルドール王宮はフルドール語を喋りマス。』
「フルドール語は私がちゃんと教えてあげるから、今はノイデル語を話してほしいな。」
「……はい。すみません。俺の言葉わかりませんよね。」
「そんなことない。上手だよ。喋り方も可愛いし。」
殿下がポンポンと自分の隣のスペースを叩く。
おずおずとベッドの角から移動して隣に座った。
「今日はお疲れ様。長旅の後にすぐに式で疲れただろう。」
「殿下こそお疲れ様でございました。」
「リオ、もう私たちは夫婦なんだから、敬語はいらないよ。それに二人の時はセレスと呼んでほしい。」
「わかりま、……わかった。」
「ふふ、ありがとう。ねえ、私は君が作ったドレスが要らなかったなんて思ってないよ。」
「えっ、でも、着てなくてよかったって……。」
「あの場ではね。今着て見せてくれないか?」
今更着てどうするんだろうと思ったけど一度も着ないのはもったいない気もしていたので、言われた通りチェストから衣装を取り出して部屋の隅の衝立の裏に着替えに向かった。
式で着た衣装と違ってパニエも不要だし前にボタンがつけてあって一人でも簡単に着付けられる構造なのでささっと身につける。
まもなく着替え終わったのでセレス殿下の前に歩みでた。
紺のベルベット生地に、国の繁栄やパートナーの無病息災やお金が貯まることを願う模様を散りばめたドレス。
あと、俺が好きな鷲の意匠も黄糸で縫ってある。
豪華な宝石やフリルはついてないけど全部自分で刺繍した渾身の一着だ。
……まあ、でも今思うと確かにあのキンキラな場で着たら侍女の衣装より地味に映ったかもしれない。
「ああ、今日一番素敵だ。」
俺の姿を見た殿下が本当に嬉しそうに言うので、男の俺でもかっと頬が熱くなってしまった。
「もっとこっちに来てよく見せて。」
操られたように手招きされるまま近寄る。
ぐっと腕を掴まれて強引に引き寄せられ、殿下にまたがるようにベッドに乗り上げる格好になった。
「ちょ、殿下っ」
「セレスだ。」
少し強い口調で言われてたじろぐ。
「せ、セレス離して」
離れようとしても腕を背中に回されてホールドされているので膝の上から降りられない。
「なぜ?この方がよく見えるのに。」
施された鷲の刺繍をつつっとなぞるように胸板を撫でられた。
「んっ」
わざと狙っているのか、乳首のあたりをクリクリと布越しに押し潰してくる。
刺繍の凹凸が敏感なところにコリコリ当たってジワジワした変な感覚がする。
何これ、一体何が起きてるんだ。
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