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6, タツマ視点
しおりを挟むどうしよう。あほな俺にはもう反論が思いつかない。
そこまでイオリが望むなら叶えてやりたいとも思うが、問題は俺の理性だ。今でさえ土日や連休で一緒にいる時間が長い時は湧き上がる情欲との戦いなのである。
怪しまれないようにどうにか個室ビデオ屋や風呂場で抜いて事なきを得ているが、毎日家にいる事になったらそれもし辛くなるだろう。
絶対無理だ。絶対襲う。
そしたらイオリはどうなる。
傷ついて本当に死んでしまうかもしれない。
そもそも、こいつは俺が自分を好きな事に気付いているはずだ。もう諦めたんだと思っての提案なんだろうが、無防備すぎないか。
今後のためにちょっとその辺りを本人に自覚させといた方がいいタイミングなのかもしれない。
「提案は嬉しいけど、受けるのは正直なところ無理だと思う。前に、恋人が欲しいって話した時あっただろ?イオリとは今まで通り暮らしていきたいけど俺の気持ちはあの時と変わってない。ただ抑えてるだけなんだ。」
さりげなくまだお前が好きなんだよと匂わせてみた。
みるみるイオリの陶磁器みたいな額が青ざめて行く。
「いや、いやだ……」
「ごめん。でもそうだから。今まで通り暮らせるならイオリには迷惑掛けないから安心して。」
「だめだよ。約束なんだから仕事辞めて僕とずっと一緒にいて。僕以外の人に会わないで!」
イオリが更に必死になって縋ってくる。
「いや、だから無理だって今の話で分かるだろ?」
こいつは何を聞いているんだ?とちょっと腹が立つ。人の気も知らないで、と憎らしくもなってきた。可愛さ余って、というやつだろうか。
「無理でもダメ!タツマは僕だけ見て!」
本当にしつこい。なんだって今日に限って……。
「お前ばっか見てたら襲っちまうだろうが。イオリのちんこ俺のケツで咥えていいわけ?」
俺はついに言った。それでイオリが引いて、俺が笑って冗談だよって誤魔化せばいい。少しはお灸になるだろう。
「え、いいよ?タツマこそいいの?」
イオリがあっけらかんと言ったので、俺は絶句した。
はっ、思考が停止していた。
落ち着け。こんなの売り言葉に買い言葉に決まってる。その気もない相手とそんなことして傷つくのはイオリだ。
「イオリ、今のは言い過ぎた。お前も勢いでものを言うなよ。そういうのが嫌で一人で頑張ってきたんだろ?」
「だって、それは相手がタツマじゃないからだよ。タツマならいいよ。ね、約束したでしょ仕事辞めてくれるって。溜まったら僕で処理していいんだから恋人も要らないよね。」
イオリの勢いがどんどん増していく。恋人になる気は無いけど性欲の相手はするって、それがイオリを好きな俺にとってどれくらい辛いことか思いもしないんだろう。
「イオリ、俺は本当にお前と一緒にいて迷惑だなんて思ってない。だから、責任感で養うとか楽させるとか言わなくていいんだ。ましてやイオリを性欲処理の相手なんて、絶対考えらんないよ。」
「……ご、ごめんなさい。僕、僕……」
イオリの目にみるみる涙が溜まっていく。
「嫌わないで……」
しくしく泣きだすイオリ。少し冷静になっただろうか。
「嫌うわけないだろ。俺のためにそこまでしてくれるって話なんだから。でも、イオリが本当にしたい事をしてくれるのが俺は一番嬉しいよ。」
「……うん。わがまま言って、本当にごめん。」
儚げに謝るイオリの頭をそっと撫でた。
「大丈夫だって。何か飲むか?ココアとか。」
「うん。」
「じゃ、作ってやるよ。」
「……あっ、僕自分で作る!今ココアパウダーしか無いんた。タツマじゃ作れないだろ?」
雰囲気を変えようとわざと明るく言うイオリに安心して、馬鹿にするなと軽く小突きながら任せた。
何事もなかったかのようにイオリが作ったメチャクチャ美味しいココアを二人で飲みながらサブスクの映画を見る。
そうしてると、気が抜けたからか睡魔が襲ってきた。
「眠い?」
イオリに聞かれる。
「んー。」
「じゃ、寝室行こっか。」
「わりー。」
イオリにもたれるように立ち上がって部屋に誘導してもらう。
最近は夕飯の後にすぐ眠くなる事が何度かあってイオリも慣れっこだ。
昔はこんな風に寝落ちしちゃう事なかったんだけど、働き出して気付かない疲れが溜まってるのかな。
ベッドにどさりと降ろされる感覚を最後に、俺は眠りに落ちた。
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