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しおりを挟むこの若い勇者は、確かに旅先の色んな街で勇敢に魔物を退治する。
そしてどんなに遠い街からでも晩ごはんの時間になると必ず移動の呪文でこの家に帰ってきて、次の日朝ごはんをしっかり食べてまた旅に出る。
彼が勇者として旅立った半年前からずっとそうだ。
いや、もはやこれは旅立ったと言えなくない?
毎日のお出かけだよ。
「だって腹減ってたし。」
拗ねたようにそっぽを向くリーベになお食いつく。
「いやいやいや、ちょっと待ってればご馳走たくさん出てきたんじゃないの?鯛やヒラメがわんさとさぁ。お友達と楽しんでくればよかったのに。」
自分には全く関係の無い洗練された街の豪華な料理に想いを馳せる。
もったいない。なんてもったいない。
リーベの仲間たちも参加しただろうに。
「ジ……食べ慣れた飯の方が好きだし。」
もう、こんな若いうちからそんなに保守的でどうするの!
リーベにはこれから世の中にいっぱい新しいことや楽しいことが待ってるのに。
それに、周りの人に対してもそれはどうなんだ?
「あのさリーベ。確かに今日は街のお祝いなのかもしれないけど、それには魔物を退治してくれたリーベたちへの感謝も含まれてるんじゃないの?」
「……まあ、そうかも。」
「じゃあ、ちゃんとそれに出てお礼の気持ち受け取ってあげた方がいいとお父さん思うよ?」
「……だって、ジルがもうごはん作ってると思ったし、夜の店の掃除は俺の分担だし……。」
バツが悪そうに可愛い言い訳をするリーベ。
反抗期の態度を取っていても根は本当にいい子。
でも、僕のことはいいからリーベにはリーベの人生を生きて欲しい。
「リーベはそんなこと気にしなくていいんだよ。帰ってこなくたってこっちは適当にするんだから。掃除だってもうしなくていいって、最初の旅立ちの時に言っただろ?」
うつむき気味の顔を覗き込むようにして言い含める。
「……でも、そしたらジルが独りになるだろ?」
少し上目遣いでこちらを窺うリーベ。
ぎゅぅぅぅうん!!
もう!胸が!きゅってした!!!
僕のためとか、もうこんな子育て冥利に尽きることある!?
我が子が可愛すぎるぅ!!
「ありがとう。リーベの気持ちは嬉しい。本当に僕なら大丈夫だよ。リーベが元気で活躍してくれれば全然寂しくないよ。」
「……でも……。」
まだ腑に落ちない様子。
僕ってそんなに頼りないの?
仕方ないな。こうなったらあの話をしよう。
「あのねリーベ。マーサが店を手伝ってくれるって言うんだ。」
マーサもファナスや僕の幼馴染で、12年前隣村の保安官に嫁いだ。それまでは子育てに苦戦する僕を結構助けてくれて、リーベなんて僕よりもマーサに懐いていたくらいだ。
「マーサおばさんが?何で?」
「言ってなかったけど、マーサの旦那さん3ヶ月前に殉職したんだ。それで、子供もいなかったから1ヶ月くらい前村に帰ってきたんだよ。」
毎日食事と睡眠のためだけに村に帰ってくるリーベは、マーサが帰ってきていたことを全く知らなかったようだ。
僕もあえて教えなかった。
だってリーベは本当に僕よりマーサに懐いてたので、ちょっとした対抗心というか……。それでこの話もし損ねていたと。
「僕も独身だし、マーサの年の女性がずっと寡婦でいるのも不便だし……リーベももう大人だから分かるだろ?」
リーベの育児で完全に婚期を逃した僕以外、同世代の村人連中はとっくに結婚して家庭がある。
だからなんとなくもう村では僕がマーサの再婚相手になる空気ができていて、両親も熱心に勧めてくる。
マーサも僕の店を手伝いたいと言ってきたからまんざらでもないんだろう。
僕も、もし誰かって言われたらマーサなんだろうなって感じだ。
ただ今は何より目の前の義息子の方が大事だから夫としては失格かもしれない。
とは言えいつまでも子離れしないわけにもいかないわけで。
何よりもしリーベがファナスのようになってしまったら一人で耐えられる気がしなかった。
「……もう、ジルはあの女とヤったの?」
いきなりの直接的な発言にギョッとする。年頃の好奇心ってやつだろうか?
何かこんな抑揚の無い低い声は初めて聞いた。
「こーら。そんな言い方はダメだって。とにかく、そういうことだからお父さんの心配はいらな……」
話の最中にリーベが僕の顔の前に手をかざした。
そのまま何か呪文を唱えると、僕の意識はそこで途切れた。
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