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しおりを挟むリーベが僕を捉えたまま再び何かを呟く。それから尋ねてきた。
「本当に暴れない?」
「暴れるよ。とにかく説得して麻痺を解いてもらえば逃げられるかもしれないから嘘ついただけ。」
暴れない、と返すつもりだった唇が本音をあっさりバラしてしまう。
どうやらまた何かおかしな術をかけられたらしい。
「大人のくせに嘘ついたんだ。」
「つくよ。リーベにこんなこと絶対して欲しくないからね。」
僕の愛するリーベには本当に好きになった人と素敵な経験をして欲しい。
口が開いていたらそう続けたと思う。
けど言葉が出る前に顎を掴まれてリーベの唇が僕の口に重ねられた。
びっくりしているうちに頬に沿った指が外から押し込まれ、重なった上と下の顎をこじ開けられる。
開かされた口から熱い舌が入り込んでくると乱暴に中を暴れまわった。
舌を伝ってリーベの唾液が大量に流れ込んで口からあふれそうになるのを必死で飲み込む。
ぴちゃぴちゃくちゅくちゅ聞くに耐えない音を散々響かせたあと、口から舌が抜けていった。
飲み込み切れずに溢れた唾液が口の端を伝うのを、顎を押さえていた指が拭って零すなと言わんばかりにそのまま口に差し込まれる。
もう顎は自由なのにリーベの指を噛めるわけもなく、舌をこね回してくる指を必死で受け止めた。
「次はこの腹立つ舌、喋れなくしようか?」
いつの間にか二本に増やされた指が器用にぬるつく舌を挟んでくる。その言葉に驚いて目を見張った。
「そんな風に俺を見る目も、見えなくなればいい。周りが言う余計なことを聞く耳もいらないよね。」
淡々と話すリーベが分からない。
なんでこんなことをするんだろう。
何か僕に腹を立てているんだろうか。
僕の知ってるリーベは、お年頃で素っ気ないけどちゃんと人を思い遣れる子だ。
今の彼はまるで知らない人になってしまったみたい。
「……俺が怖い?」
しばらく上から無表情で僕の顔を見つめた後のリーベの言葉にハッとする。
その少し震えた声と揺れた瞳には覚えがあった。
彼がまだ10歳くらいの頃勇者の力が急に強くなって、制御し切れずに村の子供に少し重い怪我をさせた事があった。
怪我をした子は村のガキ大将で、リーベはいじめられていた年少の子供を庇った拍子に怪我をさせてしまったのだ。
大人の間では喧嘩両成敗でリーベにしっかり謝罪をさせて終わりの話だったけど、リーベは今みたいに酷く落ち込んだんだった。
あの時慰めたみたいに頭を撫でてあげたいけど、痺れた腕がピクリともしない。
代わりに必死に口を動かした。
「大丈夫だよ、リーベ。前も言っただろ?僕はリーベを怖がったりしない。君は僕の唯一の誇りだよ。リーベも自分の力を恐れちゃいけない。」
「本当?」
よく知ってるリーベの顔に戻っている。
安心するように笑いかけて力強く頷いた。
首が痺れてなくてよかった。
「だから、リーベの気持ちをちゃんと聞かせてほしい。何か嫌なことでもあった?」
最初はちょっと驚いたけど、きっとこれはあれだ。
甘えてるんだ。僕に。
僕も子供の頃は甘えて母親のおっぱいを触ったりキスしたりしたもの。
5、6歳くらいの頃の話だけど。
心の成長は子供によって色々違うって育児書にも書いてあったし、リーベはまだまだ親に甘えたい年頃から世界のために大人にならなきゃいけなかったから、その反動が強く出ているんだろう。
だから、今は親の僕がちゃんと話を聞いてあげて甘やかしてあげるのが良いに違いない。
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