エデンの園を作ろう

春秋花壇

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親の痴ほう症

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新型感染症のワクチン接種会場は、公民館を改装した体育館だった。薄暗い館内は、消毒液の匂いと不安が混ざり、息苦しさを感じさせる。私は、そんな空気に加え、別の苛立ちに包まれていた。

原因は、私の隣に座る母だ。接種券を手に、何度も鞄の中をゴソゴソと探っている。その度に、長財布がパカッと開かれ、中から40万円もの大金がチラリと見える。「これなんやろー?」と、まるで子供のように無邪気な声で周囲に聞こえるように呟く。

私は思わず、「母さん、お金はちゃんと管理してよ!」と声を荒げてしまった。すると、母は慌てて財布を閉じ、「あら、ごめんなさいね」と一言。しかし、数分後にはまた同じことを繰り返す。

父親はと言えば、「終わったら呼んでな」と一言残して、どこかに消えてしまった。接種が終わるまで、私はずっと母の無神経さに腹を立て、父親の無責任さに失望していた。

接種が終わり、ようやく解放された私は、母に怒りをぶつけた。「何で40万円も持ち歩いてるの?落としたりしたらどうするの?!」。母は「だって、お買い物に行きたいから…」と、相変わらず呑気な返答。

私は呆れ果て、何も言い返すことができなかった。父親も、何も気にしていない様子で、ただ車に乗り込んだ。

帰り道、車内は静まり返っていた。私は窓の外を眺めながら、この家族の未来に不安を感じていた。

この出来事をきっかけに、私は母の認知症の進行を疑い始めた。病院で検査を受けた結果、軽度認知症であることが判明した。

それからは、私が母の生活をサポートするようになった。買い物や家事、金銭管理など、様々なことに気を配らなければいけない。正直、負担は大きい。

それでも、私は母を責めることはできない。認知症は、誰にでも起こり得る病気だからだ。

今は、母と父、そして私の三人で、この病と向き合っていくしかない。

この経験を通して、私は家族の大切さを改めて実感した。どんなに腹立たしいことがあっても、支え合っていくしかないのだ。

そして、いつかこの病を克服し、再び笑顔溢れる家族生活を送りたいと願っている。

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