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徒然草 第八十七段
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徒然草 第八十七段
原文
下部 しもべ に酒飲まする事は、心すべきことなり。 宇治 うぢ に住み 侍 はべ りけるをのこ、京に、 具覚房 ぐかくばう とて、なまめきたる 遁世 とんぜい の僧を、こじうとなりければ、常に申し 睦 むつ びけり。 或時 あるとき 、 迎 むか へに馬を 遣 つかは したりければ、「 遥 はる かなるほどなり。 口づきのをのこに、先づ一度せさせよ」とて、酒を出したれば、さしうけさしうけよよと飲みぬ。
具覚房 ぐかくばう は、馬に乗っていざんとしければ、をのこ、具覚房 ぐかくばう に、「御房は、御馬に乗っていざんとせらるるは、いみじきことなり。 馬の背は狭く、道は遠し。御酒は酔ひて、御足は弱り給はん。御輿 こし を用意せられて、輿に乗っていざんずるこそ、御心安けれ」といひければ、具覚房 ぐかくばう は、「馬に乗るこそ、いと心やすけれ。輿には乗らんず」といひければ、をのこ、具覚房 ぐかくばう に、「御房は、風流の御人なり。風流の御人には、輿こそふさわしけれ。馬は武人の乗り物なり。御房は武人の御心にはあらざれば、馬に乗るべきにあらず」といひければ、具覚房 ぐかくばう は、「馬に乗るこそ、風流なれ。輿に乗るは、風流にあらず」といひければ、をのこ、具覚房 ぐかくばう の手をとって、輿に乗せたりければ、具覚房 ぐかくばう は、輿の中に坐して、「をのこめ、我は汝に負けて候ぞ」といひければ、をのこ、「御房は、風流の御人なり。風流の御人には、負けて候ふべきにあらず」といひければ、具覚房 ぐかくばう は、「風流の御人とは、負けて候ふべきものか」といひければ、をのこ、「風流の御人とは、負けて候ふべきものなり。負けて候ふこそ、風流なれ」といひければ、具覚房 ぐかくばう は、「負けて候ふこそ、風流なれ」といひて、笑ひけれ。
現代語訳
宇治に住む男が、京にいる具覚房という風流な僧侶を舅にして、いつも仲良くしていました。ある時、男が具覚房を迎えに行くために馬を遣わせると、具覚房は「遠いので、馬に乗る前に、下人に一杯酒を飲ませてください」と言いました。そして、男が酒を出したところ、具覚房はそれを一気に飲み干しました。
具覚房が馬に乗ろうとすると、男は「御坊は馬に乗っていくのは大変です。馬の背中は狭く、道も遠いです。お酒も飲んで酔っているので、足も弱ってしまいます。輿を用意して輿に乗っていく方が、楽ですよ」と言いました。しかし、具覚房は「馬に乗っていく方が、ずっと楽だ。輿には乗らない」と言いました。
そこで、男は「御坊は風流な方です。風流な方なら、輿に乗っていくのがふさわしいでしょう。馬は武人の乗り物です。御坊は武人の心をお持ちではないので、馬に乗っていくべきではありません」と言いました。すると、具覚房は「馬に乗っていく方が風流だ。輿に乗っていくのは風流ではない」と言いました。
そこで、男は具覚房の手を取って輿に乗せると、具覚房は輿の中に座って「私はあなたに負けてしまったようだな」と言いました。男は「御坊は風流な方です。風流な方なら、負けてしまうようなことはないでしょう」と言いました。すると、具覚房は「風流な人とは、負けてしまうようなものなのか」と言いました。男は「風流な人とは、負けてしまうようなものです。負けてしまうことこそが風流なのです」と言いました。すると、具覚房は「負けてしまうことこそが風流なのか」と言って、笑いました。
解釈
この段は、風流とは何かについてユーモラスなやり取りを通して考察している内容です。
宇治に住む男と京にいる具覚房という風流な僧侶のやり取りを通して、風流とは
ソース
tsurezuregusa.com/087dan/
原文
下部 しもべ に酒飲まする事は、心すべきことなり。 宇治 うぢ に住み 侍 はべ りけるをのこ、京に、 具覚房 ぐかくばう とて、なまめきたる 遁世 とんぜい の僧を、こじうとなりければ、常に申し 睦 むつ びけり。 或時 あるとき 、 迎 むか へに馬を 遣 つかは したりければ、「 遥 はる かなるほどなり。 口づきのをのこに、先づ一度せさせよ」とて、酒を出したれば、さしうけさしうけよよと飲みぬ。
具覚房 ぐかくばう は、馬に乗っていざんとしければ、をのこ、具覚房 ぐかくばう に、「御房は、御馬に乗っていざんとせらるるは、いみじきことなり。 馬の背は狭く、道は遠し。御酒は酔ひて、御足は弱り給はん。御輿 こし を用意せられて、輿に乗っていざんずるこそ、御心安けれ」といひければ、具覚房 ぐかくばう は、「馬に乗るこそ、いと心やすけれ。輿には乗らんず」といひければ、をのこ、具覚房 ぐかくばう に、「御房は、風流の御人なり。風流の御人には、輿こそふさわしけれ。馬は武人の乗り物なり。御房は武人の御心にはあらざれば、馬に乗るべきにあらず」といひければ、具覚房 ぐかくばう は、「馬に乗るこそ、風流なれ。輿に乗るは、風流にあらず」といひければ、をのこ、具覚房 ぐかくばう の手をとって、輿に乗せたりければ、具覚房 ぐかくばう は、輿の中に坐して、「をのこめ、我は汝に負けて候ぞ」といひければ、をのこ、「御房は、風流の御人なり。風流の御人には、負けて候ふべきにあらず」といひければ、具覚房 ぐかくばう は、「風流の御人とは、負けて候ふべきものか」といひければ、をのこ、「風流の御人とは、負けて候ふべきものなり。負けて候ふこそ、風流なれ」といひければ、具覚房 ぐかくばう は、「負けて候ふこそ、風流なれ」といひて、笑ひけれ。
現代語訳
宇治に住む男が、京にいる具覚房という風流な僧侶を舅にして、いつも仲良くしていました。ある時、男が具覚房を迎えに行くために馬を遣わせると、具覚房は「遠いので、馬に乗る前に、下人に一杯酒を飲ませてください」と言いました。そして、男が酒を出したところ、具覚房はそれを一気に飲み干しました。
具覚房が馬に乗ろうとすると、男は「御坊は馬に乗っていくのは大変です。馬の背中は狭く、道も遠いです。お酒も飲んで酔っているので、足も弱ってしまいます。輿を用意して輿に乗っていく方が、楽ですよ」と言いました。しかし、具覚房は「馬に乗っていく方が、ずっと楽だ。輿には乗らない」と言いました。
そこで、男は「御坊は風流な方です。風流な方なら、輿に乗っていくのがふさわしいでしょう。馬は武人の乗り物です。御坊は武人の心をお持ちではないので、馬に乗っていくべきではありません」と言いました。すると、具覚房は「馬に乗っていく方が風流だ。輿に乗っていくのは風流ではない」と言いました。
そこで、男は具覚房の手を取って輿に乗せると、具覚房は輿の中に座って「私はあなたに負けてしまったようだな」と言いました。男は「御坊は風流な方です。風流な方なら、負けてしまうようなことはないでしょう」と言いました。すると、具覚房は「風流な人とは、負けてしまうようなものなのか」と言いました。男は「風流な人とは、負けてしまうようなものです。負けてしまうことこそが風流なのです」と言いました。すると、具覚房は「負けてしまうことこそが風流なのか」と言って、笑いました。
解釈
この段は、風流とは何かについてユーモラスなやり取りを通して考察している内容です。
宇治に住む男と京にいる具覚房という風流な僧侶のやり取りを通して、風流とは
ソース
tsurezuregusa.com/087dan/
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