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三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい

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三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい

下関の裏町、石畳に覆われた小さな路地。夕暮れ時、古風な灯りが街を照らし、柔らかな光が建物の壁に揺れます。谷梅処の住む花街は、まるで幻想的な絵画のような美しさが漂っています。

花街の中心には小さな茶屋があり、その前には青々とした竹が植えられた小さな庭が広がっています。竹の葉は風に揺れ、微かなざわめきを街に響かせます。庭には石灯籠が置かれ、夜になると幻想的な光景が広がります。

路地を歩く人々は、風情のある着物姿で、足音が石畳に響きます。彼らは静かに街を彩り、時折り笑い声や会話が聞こえてきますが、それも柔らかく、街の静寂を壊しません。

谷梅処の住む家は花街の中心にあり、その建物は木々や蔦に覆われ、古びた風情を醸し出しています。夜になると灯りがともり、窓からは暖かな光が漏れ出し、周囲に穏やかな雰囲気をもたらします。

そして、その家の前で晋作と谷梅処は時折手を取り合い、花街の静かな夜を共に過ごします。二人の姿はまるで夢の中のようであり、彼らの愛はこの美しい街に深く根付いているかのように思えます。


下関の裏町、静かな花街に住む美しい芸妓、谷梅処。彼女はこの小さな町で、優雅で魅力的な女性として知られていました。天保の世、その時代に生まれた彼女は、繊細で芯の強い心を持ち、幕末の動乱の中で生きることとなりました。

ある晩、下関の花街に一人の若き志士が現れました。その若者こそ、後に幕末の志士として名を馳せる高杉晋作でした。晋作は彼女の美しさに心を奪われ、その日から彼女との交流が始まります。彼女は源氏名を「此の糸(このいと)」といいましたが、晋作は彼女を「おうの」と呼び、その名前で彼女を覚えることとなりました。

彼らの出会いは偶然ではなく、運命によって繋がれたものだったかもしれません。晋作は彼女の美しさに心を打たれ、彼女もまた晋作の情熱的な志に惹かれていきます。彼らの間には深い愛情が芽生え、やがて愛妾としての関係を築いていくことになります。

しかし、幕末の動乱は彼らの幸せな時間を脅かし始めます。晋作は志を貫き、国のために戦う決意を固めます。彼は彼女に対し、自らの使命を果たすために離れることを告げますが、彼女は彼の決断を理解し、彼を支える決意を示します。

時代の流れは容赦なく、晋作は戦乱の中で命を落とすこととなります。彼の最期の瞬間には、彼女の思いが彼を包み込んでいたことでしょう。彼女は晋作の死を悼み、その後も彼の名を語り継ぎ、彼の志を胸に生涯を送ることとなりました。

谷梅処、通称「おうの」。彼女は幕末の志士、高杉晋作の恋人として知られ、その美しさと強さで多くの人々の心を打ちました。彼女の愛は時を超え、今もなお語り継がれています。


晋作は、谷梅処と共に過ごす夜の静けさを感じながら、心の中に静かな幸福感が広がっていきます。彼は彼女の手を取り、その温もりに包まれながら、心からの安らぎを感じます。

一方の谷梅処も、晋作の優しい手つきや心遣いに対して深い愛情を抱いています。彼女の目には、晋作への深い信頼と尊敬が宿り、彼と共に過ごす幸せな瞬間を噛み締めています。

二人の間には、お互いを思いやる深い愛情が存在し、それが彼らの心を満たし、幸せなひとときを作り出しています。彼らの間には言葉にできない絆があり、その絆が二人をさらに結びつけていきます。

「三千世界の烏を殺し、主と朝寝がしてみたい」

今でも高杉晋作の都都逸が聞こえてきそうですね。




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