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58.踏み出せない一歩③〜ジェイク・ボーン視点〜
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「殿下は愛する人に気持ちを一方的に押し付けたりはしません。もし彼女が困っていると感じたら、その優秀な頭脳を限界まで働かせて彼女が困らない状況を作るはずです。
私が仕えているルカディオ殿下はそういう人です。
だから安心してご自分の気持ちを明確に伝えてください。伝わっているかも?とか伝わっているはず?とか曖昧な感じはなしでお願いします」
殿下の目を見てはっきりとそう伝える。
本心からそう思っているのだ、王族だからと媚びているわけではないと胸を張っていえる。
殿下は『はっはは…』と苦笑いしながらも、嬉しそうな表情になる。
少しは俺の言葉は役に立っただろうか。
「ありがとう、ジェイク。
お前の言う通りだ。今度ははっきりと伝えることにするよ」
殿下がこう言うからには、きっと近いうちに何らかの進展があるかもしれない。
俺も殿下の幼馴染としてにっこりと笑顔を返す。
「美味い酒を用意して報告をお待ちしています」
『良い報告を』とはあえて言わなかった。
シシリア嬢が殿下のことを信頼しているのは分かっている。だが現時点で殿下のことを異性として見ているのか…それは俺にも分からない。
殿下は俺のこの言葉の意味を的確に読み取ってくる。
流石だが、ここは気づかなくてもいいところだと思ってしまう。
「そこは嘘でもいいから『絶対に上手くいきます、俺が保証します』とか言ってくれ、ジェイク」
いやいや、嘘は極力吐かない主義ですから。
ここは主義を通させてもらいますよ、殿下。
「素晴らしい報告を期待しています、殿下」
上手くいくことを祈っているのは本当だ。
だが若干台詞は棒読みになってしまったのは仕方がないだろう。
「…なんか言い方が微妙だな」
嘘でも良いからと言ったくせに、これくらいで本気で落ち込まないで欲しい。
シシリア嬢の返事次第で更に落ち込む事が待っているかもしれないのだから…。
兎に角、この件で俺にできる事はここまでだ、あとは殿下を信じて任せよう。
「さあ、仕事を終わらせましょう殿下」
明るい口調でそう声を掛けると、殿下の表情も一瞬で仕事のものへと戻っている。
さっきまでとは雰囲気からして違う。
厳しい感じではないが、良い意味で隙がなくなっているのだ。
こういう切り替えの速さは尊敬に値する。
「ジェイク、あの報告を頼む」
簡潔な指示が殿下の口から出てくる。
あの報告とはシシリア嬢が守りたかった大切な人達についての報告を指している。
この5年間、定期報告とは別に俺から直接伝えていることだ。
このことは一部の者しか知らないし、そこにシシリア嬢はもちろん入っていない。
「はい、承知しました」
俺は書類を見ることなく、いつものように彼らの近況についての報告を始めた。
私が仕えているルカディオ殿下はそういう人です。
だから安心してご自分の気持ちを明確に伝えてください。伝わっているかも?とか伝わっているはず?とか曖昧な感じはなしでお願いします」
殿下の目を見てはっきりとそう伝える。
本心からそう思っているのだ、王族だからと媚びているわけではないと胸を張っていえる。
殿下は『はっはは…』と苦笑いしながらも、嬉しそうな表情になる。
少しは俺の言葉は役に立っただろうか。
「ありがとう、ジェイク。
お前の言う通りだ。今度ははっきりと伝えることにするよ」
殿下がこう言うからには、きっと近いうちに何らかの進展があるかもしれない。
俺も殿下の幼馴染としてにっこりと笑顔を返す。
「美味い酒を用意して報告をお待ちしています」
『良い報告を』とはあえて言わなかった。
シシリア嬢が殿下のことを信頼しているのは分かっている。だが現時点で殿下のことを異性として見ているのか…それは俺にも分からない。
殿下は俺のこの言葉の意味を的確に読み取ってくる。
流石だが、ここは気づかなくてもいいところだと思ってしまう。
「そこは嘘でもいいから『絶対に上手くいきます、俺が保証します』とか言ってくれ、ジェイク」
いやいや、嘘は極力吐かない主義ですから。
ここは主義を通させてもらいますよ、殿下。
「素晴らしい報告を期待しています、殿下」
上手くいくことを祈っているのは本当だ。
だが若干台詞は棒読みになってしまったのは仕方がないだろう。
「…なんか言い方が微妙だな」
嘘でも良いからと言ったくせに、これくらいで本気で落ち込まないで欲しい。
シシリア嬢の返事次第で更に落ち込む事が待っているかもしれないのだから…。
兎に角、この件で俺にできる事はここまでだ、あとは殿下を信じて任せよう。
「さあ、仕事を終わらせましょう殿下」
明るい口調でそう声を掛けると、殿下の表情も一瞬で仕事のものへと戻っている。
さっきまでとは雰囲気からして違う。
厳しい感じではないが、良い意味で隙がなくなっているのだ。
こういう切り替えの速さは尊敬に値する。
「ジェイク、あの報告を頼む」
簡潔な指示が殿下の口から出てくる。
あの報告とはシシリア嬢が守りたかった大切な人達についての報告を指している。
この5年間、定期報告とは別に俺から直接伝えていることだ。
このことは一部の者しか知らないし、そこにシシリア嬢はもちろん入っていない。
「はい、承知しました」
俺は書類を見ることなく、いつものように彼らの近況についての報告を始めた。
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