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【おまけの話】悪夢……?(トウヤ視点)
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いつの間に眠っていたのだろうか。
私――トウヤは軽く擦ってから目を開けると、夕日が差し込む執務室にいた。どうやら椅子に座ったまま、うたた寝してしまったようだ。
見慣れた机の上には必要なもの以外はなにも置かれていない。二本のペンだけが平行に揃えて左側に並んでいる、味気ない机。
これは幼い頃から変わらないルールだ。こだわりがあったわけではないが、変えるきっかけがなかったのだ。
ああ、そうか、全部夢だったのか……
――幸せな夢を見ていた。
長年ずっと見守ってきた人と結ばれて、子供にも恵まれた。そんなあり得ない夢を。
世の中は平等なんかではなくて、頑張った分だけ幸せが手に入るなんていうのは嘘だ。そして、嘘だと分かっていながら、殆どの人はそれに縋って必死に生きている。
いつか報われると思うほうが生きやすいからだ。
私はそんな人達を冷めた目で見ていたはずなのに、どうやら自分もそっち側の人間だったようだ。
だから、こんな夢を……
私は髪を掻き上げながら、夢の中で机の上にあった妻と息子の絵姿を思い浮かべ、『はっは……は、』と乾いた声を漏らした。
◆ ◆ ◆
「……なた、あなた。ねえ、起きてくださいませ」
私の髪を優しく撫でながら、誰かが声を掛けてくる。
自分の頭が柔らかいものの上にあることに気づく。羽毛を詰めた枕よりは硬いけれど、とても心地よい感触だ。
「レティシア?」
「ごめんなさい、トウヤ。うなされていたから、起こしたほうがいいかと」
彼女の手を自分の方に引き寄せて、その掌に口づけると、何度も味わった感触だと安堵する。
……夢ではなかったんだな。
私は器用なことに、夢の中で悪夢を見ていたようだ。
今日は天気が良かったので、屋敷の庭に敷物を敷いて彼女に膝枕をしてもらっていた。寝るつもりはなかったが、彼女から伝わってくる体温が気持ち良くて、眠りに誘われてしまったようだ。
なかったはずのブランケットが掛けられていて、彼女の気遣いが伝わってくる。
「起こしてくれて有り難う、レティシア」
「どんな夢を見ていたの?」
「……さあ、どんな夢だったかな」
しっかりと覚えていたが忘れたふりをする。心配を掛けたくないからではなく、それを言葉にしたくなかったからだ。
言霊なんて信じてはいない。……が、念の為だ。
たいがい夢は起きると忘れてしまうものだから、彼女は私の言葉を信じたようだ。
夢見が悪かった私を労るように、私の髪を手でそっと梳き続けている。
すると、小さな顔がひょこっとを私を覗き込んだ。
「とーさま、いたいの?」
来月で三歳になる息子――ジェセルが舌っ足らずな声で聞いてくる。年齢のわりに賢い子だが、話し方はまだ子供らしい。
母の真似をしているのだろう、小さな手で私の頭をぽんぽんと触ってくる。
――私達の天使。これが夢なんてあってたまるか。
妻と息子の絵姿が私の机には飾ってある。
そう、もうあのルールはとっくに変わっていたのだ。たまにジェセルが粘土や土で作った何かを置いたりしていて、味気ないとは程遠い机になっている。
「いや、大丈夫だ、ジェセル。ちょっとだけ悪い夢を見ただけだから、全然痛くはないよ」
「とーさま、お夢見たの? ねんねして?」
彼は目をぱちぱちとさせて、不思議そうな顔をしている。昼寝は子供だけがするものだと思っているのだろう。
「そう、父様は少しだけ寝てしまったんだ。でも、もう起きたから平気だよ。有り難う、ジェセル」
ジェセルはこくりと頷くと、元気よく駆け出した。そして、離れたところで控えている侍女と一緒に屋敷の中に戻っていく。遊びに戻ったのだろう。あの子にとっては屋敷の探検は、今一番のお気に入りの遊びだ。
呆気なく離れていってしまい、少し淋しい気持ちになる。だが、これも成長した証だ。
私が上半身を起こそうとすると、彼女は優しく私の肩を押し戻した。
「お疲れなんですよ、きっと。もう少し休んでくださいね、トウヤ」
眠くはないが、目を閉じて彼女に甘えることにした。何度なく二人でこういう時間を過ごしているが、飽きることなどない。
誰にも邪魔されることなく、まったりと時間が過ぎていく。
と思っていたら、いきなり私の髪を梳いていたレティシアの手の動きが消えてしまった。代わりに、小さな手が私の髪をむんずと掴む。
目を開けると、丸い頬を赤く染めたジェセルがいた。
「はい、あーんしてくださいね。よくかんでから、ごっくんですよ」
「ジェセル?」
「バクちゃんが食べてくれます、とーさまのこわいお夢。ね? かあさま」
「ええ、そうね。ジェセル」
ジェセルは何度も私の頭のうえ辺りを掴んでは――そのついでに髪も巻き込まれているが――その手を絵本なかにいるバクの上でパッと開く。
『好き嫌いはめっですよ』と可愛く言いながら。バクに悪い夢を食べさせているつもりなのだろう。
その絵本は寝る前に一度読んであげた記憶があるものだった。
『とーさま、バクちゃんってすごいね。お夢を食べるなんて』
『もし怖い夢を見たとしても、バクが食べてくれる。だから、安心して眠っていいんだよ、ジェセル』
この子は私のためにこの絵本を自分の部屋の本棚から取って、急いで戻ってきたのだ。
「とーさま、もう平気です! バクちゃん、ぜんぶ食べました」
いい子、いい子と言いながら、ジェセルは一生懸命にバクの絵を撫でている。私とレティシアは二人で顔を見合わせてから、我が子のその優しい行動に頬を緩ませる。
――悪夢は私達の天使によって浄化された。
********************
ずいぶんと遅くなってしまいました(_ _;)
それなのに、気づいて読んでいただき有り難うございます。
この下の方に【作者のひとりごと】があります。
作品とは無関係という設定ですので、読んでもいいぞという寛大な読者様はどうぞ^_^
【作者のひとりごと】バ=バク ト=トウヤ
バ『おい、起きろよ。トウヤ・マール』
ト『なんで私の夢の中で、バクが仁王立ちしてるんだ?』
バ『なんでって、この前の支払いが滞ってるからだよ! 請求書送ったのに無視すんな。子供のツケは親が払う。それが筋ってもんだろーがっ』
トウヤは意味不明な手紙を思い出す。
【芋千本送れ。 バクより】
だが、あれは夢ではなく現実世界でのことだ。てっきり嫌がらせだと思って暖炉に放り込んだのだが。
バ『その顔、まさか知らないの?! バクは夢の世界で働いて、給金は現実世界で受け取るシステムなんよー』
ト『そうだとしても、完全にぼったくりでは?』
バ『うん、そう。だって、そのほうが効率いいじゃーん』
ト『……』
どこの世界にも悪徳商法はある……らしい。
私――トウヤは軽く擦ってから目を開けると、夕日が差し込む執務室にいた。どうやら椅子に座ったまま、うたた寝してしまったようだ。
見慣れた机の上には必要なもの以外はなにも置かれていない。二本のペンだけが平行に揃えて左側に並んでいる、味気ない机。
これは幼い頃から変わらないルールだ。こだわりがあったわけではないが、変えるきっかけがなかったのだ。
ああ、そうか、全部夢だったのか……
――幸せな夢を見ていた。
長年ずっと見守ってきた人と結ばれて、子供にも恵まれた。そんなあり得ない夢を。
世の中は平等なんかではなくて、頑張った分だけ幸せが手に入るなんていうのは嘘だ。そして、嘘だと分かっていながら、殆どの人はそれに縋って必死に生きている。
いつか報われると思うほうが生きやすいからだ。
私はそんな人達を冷めた目で見ていたはずなのに、どうやら自分もそっち側の人間だったようだ。
だから、こんな夢を……
私は髪を掻き上げながら、夢の中で机の上にあった妻と息子の絵姿を思い浮かべ、『はっは……は、』と乾いた声を漏らした。
◆ ◆ ◆
「……なた、あなた。ねえ、起きてくださいませ」
私の髪を優しく撫でながら、誰かが声を掛けてくる。
自分の頭が柔らかいものの上にあることに気づく。羽毛を詰めた枕よりは硬いけれど、とても心地よい感触だ。
「レティシア?」
「ごめんなさい、トウヤ。うなされていたから、起こしたほうがいいかと」
彼女の手を自分の方に引き寄せて、その掌に口づけると、何度も味わった感触だと安堵する。
……夢ではなかったんだな。
私は器用なことに、夢の中で悪夢を見ていたようだ。
今日は天気が良かったので、屋敷の庭に敷物を敷いて彼女に膝枕をしてもらっていた。寝るつもりはなかったが、彼女から伝わってくる体温が気持ち良くて、眠りに誘われてしまったようだ。
なかったはずのブランケットが掛けられていて、彼女の気遣いが伝わってくる。
「起こしてくれて有り難う、レティシア」
「どんな夢を見ていたの?」
「……さあ、どんな夢だったかな」
しっかりと覚えていたが忘れたふりをする。心配を掛けたくないからではなく、それを言葉にしたくなかったからだ。
言霊なんて信じてはいない。……が、念の為だ。
たいがい夢は起きると忘れてしまうものだから、彼女は私の言葉を信じたようだ。
夢見が悪かった私を労るように、私の髪を手でそっと梳き続けている。
すると、小さな顔がひょこっとを私を覗き込んだ。
「とーさま、いたいの?」
来月で三歳になる息子――ジェセルが舌っ足らずな声で聞いてくる。年齢のわりに賢い子だが、話し方はまだ子供らしい。
母の真似をしているのだろう、小さな手で私の頭をぽんぽんと触ってくる。
――私達の天使。これが夢なんてあってたまるか。
妻と息子の絵姿が私の机には飾ってある。
そう、もうあのルールはとっくに変わっていたのだ。たまにジェセルが粘土や土で作った何かを置いたりしていて、味気ないとは程遠い机になっている。
「いや、大丈夫だ、ジェセル。ちょっとだけ悪い夢を見ただけだから、全然痛くはないよ」
「とーさま、お夢見たの? ねんねして?」
彼は目をぱちぱちとさせて、不思議そうな顔をしている。昼寝は子供だけがするものだと思っているのだろう。
「そう、父様は少しだけ寝てしまったんだ。でも、もう起きたから平気だよ。有り難う、ジェセル」
ジェセルはこくりと頷くと、元気よく駆け出した。そして、離れたところで控えている侍女と一緒に屋敷の中に戻っていく。遊びに戻ったのだろう。あの子にとっては屋敷の探検は、今一番のお気に入りの遊びだ。
呆気なく離れていってしまい、少し淋しい気持ちになる。だが、これも成長した証だ。
私が上半身を起こそうとすると、彼女は優しく私の肩を押し戻した。
「お疲れなんですよ、きっと。もう少し休んでくださいね、トウヤ」
眠くはないが、目を閉じて彼女に甘えることにした。何度なく二人でこういう時間を過ごしているが、飽きることなどない。
誰にも邪魔されることなく、まったりと時間が過ぎていく。
と思っていたら、いきなり私の髪を梳いていたレティシアの手の動きが消えてしまった。代わりに、小さな手が私の髪をむんずと掴む。
目を開けると、丸い頬を赤く染めたジェセルがいた。
「はい、あーんしてくださいね。よくかんでから、ごっくんですよ」
「ジェセル?」
「バクちゃんが食べてくれます、とーさまのこわいお夢。ね? かあさま」
「ええ、そうね。ジェセル」
ジェセルは何度も私の頭のうえ辺りを掴んでは――そのついでに髪も巻き込まれているが――その手を絵本なかにいるバクの上でパッと開く。
『好き嫌いはめっですよ』と可愛く言いながら。バクに悪い夢を食べさせているつもりなのだろう。
その絵本は寝る前に一度読んであげた記憶があるものだった。
『とーさま、バクちゃんってすごいね。お夢を食べるなんて』
『もし怖い夢を見たとしても、バクが食べてくれる。だから、安心して眠っていいんだよ、ジェセル』
この子は私のためにこの絵本を自分の部屋の本棚から取って、急いで戻ってきたのだ。
「とーさま、もう平気です! バクちゃん、ぜんぶ食べました」
いい子、いい子と言いながら、ジェセルは一生懸命にバクの絵を撫でている。私とレティシアは二人で顔を見合わせてから、我が子のその優しい行動に頬を緩ませる。
――悪夢は私達の天使によって浄化された。
********************
ずいぶんと遅くなってしまいました(_ _;)
それなのに、気づいて読んでいただき有り難うございます。
この下の方に【作者のひとりごと】があります。
作品とは無関係という設定ですので、読んでもいいぞという寛大な読者様はどうぞ^_^
【作者のひとりごと】バ=バク ト=トウヤ
バ『おい、起きろよ。トウヤ・マール』
ト『なんで私の夢の中で、バクが仁王立ちしてるんだ?』
バ『なんでって、この前の支払いが滞ってるからだよ! 請求書送ったのに無視すんな。子供のツケは親が払う。それが筋ってもんだろーがっ』
トウヤは意味不明な手紙を思い出す。
【芋千本送れ。 バクより】
だが、あれは夢ではなく現実世界でのことだ。てっきり嫌がらせだと思って暖炉に放り込んだのだが。
バ『その顔、まさか知らないの?! バクは夢の世界で働いて、給金は現実世界で受け取るシステムなんよー』
ト『そうだとしても、完全にぼったくりでは?』
バ『うん、そう。だって、そのほうが効率いいじゃーん』
ト『……』
どこの世界にも悪徳商法はある……らしい。
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