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11.終わらせること②
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「オズワルド、…とても…とても素敵な赤い花ね」
小さな声だけれども今度はちゃんと言葉にすることが出来た。
「……あっ…、これはその……。
…すまない、ニーナ」
彼は気まずげな表情を隠すことはなかった。言葉に詰まったあと、私に対して謝罪の言葉を口にする。
それはなんに対する謝罪なのかわざわざ問う必要などなかった。
彼の態度がその表情がすべてを物語っている。
やはり何もかも分かっていて、この色の花だったのだ。
「謝ることなんてないわ。
この花にどれだけの想いが籠もっているか…伝わってくるわ」
私が呟くようにそう言うと、事情を知らない乳母は『こんなにたくさんの赤い花々を贈られるほど愛されているのですね、羨ましいです』と私を見て言ってくる。
乳母は妻である私が好きな色だと疑っていない。
そう思うのも当然のことで、私もこの部屋に入るまでは白い花が飾られているものだと思っていたのだから。
返事をすることなく黙ったまま花を見つめていると、叔母が軽やかな声で言葉を続ける。
「本当に素敵だわ。部屋中に飾られて、愛されている証拠ね」
私の好きな色を知っている叔母の言葉は鋭利な刃物となって容赦なく私を切りつけてくるが、…もう痛くはない。
そう…この色は夫がシャナ・ブラウンを愛している証。
「おい、それ以上はっ、」
叔母の言葉に夫は少しだけ声を荒らげたが、その後は声を落として叔母に向かって何かを話している。
話に夢中になっている彼らはふらふらと窓に向かって歩いていく私に気づかない。
必要でないから気づかない。
愛されていないから気づきもしない。
…私はなんなのだろうか。
カチャリ…。
窓を開けると新鮮な空気が入ってきて、私に纏わりついていた赤い花の薫りを消し去ってくれる。
身を乗り出し深く息を吸い込んでいると後ろから声が掛かる。
「ニーナ、こっちに。窓から離れて、そんなに身を乗り出したら危ないから」
夫は立ち上がり私の方へ近づいてこようとする。
「ふふふ、大丈夫だから心配しないで。
すぐに終わるわ。
もうすぐだから…。
ああ、ごめんなさい。
大切な花が風で散ってしまうわね。
……部屋中が真っ赤だわ。
あなたの愛する人への愛の証で溢れている。
ふふっ、…隠しきれてない」
私の指摘に夫の顔色は悪くなる。
「ち、違うんだ!なんでこんな事になったのか…。
ニーナ、とにかく窓から離れて!」
慌てながらも私を窓から離そうと必死になっている。
まだ妻であるから私のことも少しは気になるのだろうか。
ニュートを抱いたままの叔母も声を震わせながら私に話し掛けてくる。
「ニ…ニー…ナ。ど、どうしたの…。
おかしなことはやめなさい、ねっ?!
これは違うの、ちょっとした手違いだからっ」
叔母も先程までの堂々とした態度は消え去り狼狽えている。
何も違くないのに、今更二人は何を言っているのだろう。
首を傾げながら微笑み、軽く手を降る。
彼らの言葉に耳を傾けることはなかった。
もう私にはその必要はない。
そっと可愛いニュートのほうを見る。
すやすやと眠っている、…私がいなくても。
ごめんなさい、何もしてあげられなくて。
でも弱い母はいなくなるから…。
この子は私のような母は必要としていない。
私がいないほうがいい、だって私みたいになって欲しくない。
花の薫りから遠ざからなくては…。
赤い花は私の居場所ではないもの。
さあ、終わらせよう……。
自分が何を終わらせたかったのかを知る。
終わらせたかったのは自分を憐れむしか出来ない弱く愚かな私自身。
夫に『私をだけを見て!叔母様とはもう会わないで!』とも言えずに、必死に取り繕っているだけの私。
『もう来ないで、オズワルドは私の夫をなのっ』と叔母を拒絶することも出来ず、嘆くだけの私。
弱いことは罪。
強くなりたかった、…でもなれなかった。
向き合いたかった、…でも怖くて目を背けた。
母になって少しだけ変われたと思っても、…結局は変われないままだった。
そんな自分自身がなにより嫌だった。
もう十分…だわ。
私は私であることををやめたい。
さようなら…ニーナ……。
私にとっては終わりでもあり、彼らにとってはこれが始まりでもある。
それが救いでもあった。
私の行為によって、みなの望みが叶うのだから。
「ニーナ!危ないっ、そこに行くから、動かないでくれ」
「やめてニーナ。
ごめんなさい、私が悪かったわ!
あっ、あぁ……そん…な……」
もういいから、優しい嘘はいらない。
微笑みながらその身を宙に投げ出す。
恐怖は感じない、心も身体も軽くて心地よい。
自分を捨てるのはこんなに簡単なことだった。
『ドスンッ!』
鈍い音とともに冷たい地面に抱きしめられる。
意識が薄れてゆくなか誰かが私の身体をそっと抱きしめながら絶叫している。
……悲しんでくれる人なんていたのだろうか。
小さな声だけれども今度はちゃんと言葉にすることが出来た。
「……あっ…、これはその……。
…すまない、ニーナ」
彼は気まずげな表情を隠すことはなかった。言葉に詰まったあと、私に対して謝罪の言葉を口にする。
それはなんに対する謝罪なのかわざわざ問う必要などなかった。
彼の態度がその表情がすべてを物語っている。
やはり何もかも分かっていて、この色の花だったのだ。
「謝ることなんてないわ。
この花にどれだけの想いが籠もっているか…伝わってくるわ」
私が呟くようにそう言うと、事情を知らない乳母は『こんなにたくさんの赤い花々を贈られるほど愛されているのですね、羨ましいです』と私を見て言ってくる。
乳母は妻である私が好きな色だと疑っていない。
そう思うのも当然のことで、私もこの部屋に入るまでは白い花が飾られているものだと思っていたのだから。
返事をすることなく黙ったまま花を見つめていると、叔母が軽やかな声で言葉を続ける。
「本当に素敵だわ。部屋中に飾られて、愛されている証拠ね」
私の好きな色を知っている叔母の言葉は鋭利な刃物となって容赦なく私を切りつけてくるが、…もう痛くはない。
そう…この色は夫がシャナ・ブラウンを愛している証。
「おい、それ以上はっ、」
叔母の言葉に夫は少しだけ声を荒らげたが、その後は声を落として叔母に向かって何かを話している。
話に夢中になっている彼らはふらふらと窓に向かって歩いていく私に気づかない。
必要でないから気づかない。
愛されていないから気づきもしない。
…私はなんなのだろうか。
カチャリ…。
窓を開けると新鮮な空気が入ってきて、私に纏わりついていた赤い花の薫りを消し去ってくれる。
身を乗り出し深く息を吸い込んでいると後ろから声が掛かる。
「ニーナ、こっちに。窓から離れて、そんなに身を乗り出したら危ないから」
夫は立ち上がり私の方へ近づいてこようとする。
「ふふふ、大丈夫だから心配しないで。
すぐに終わるわ。
もうすぐだから…。
ああ、ごめんなさい。
大切な花が風で散ってしまうわね。
……部屋中が真っ赤だわ。
あなたの愛する人への愛の証で溢れている。
ふふっ、…隠しきれてない」
私の指摘に夫の顔色は悪くなる。
「ち、違うんだ!なんでこんな事になったのか…。
ニーナ、とにかく窓から離れて!」
慌てながらも私を窓から離そうと必死になっている。
まだ妻であるから私のことも少しは気になるのだろうか。
ニュートを抱いたままの叔母も声を震わせながら私に話し掛けてくる。
「ニ…ニー…ナ。ど、どうしたの…。
おかしなことはやめなさい、ねっ?!
これは違うの、ちょっとした手違いだからっ」
叔母も先程までの堂々とした態度は消え去り狼狽えている。
何も違くないのに、今更二人は何を言っているのだろう。
首を傾げながら微笑み、軽く手を降る。
彼らの言葉に耳を傾けることはなかった。
もう私にはその必要はない。
そっと可愛いニュートのほうを見る。
すやすやと眠っている、…私がいなくても。
ごめんなさい、何もしてあげられなくて。
でも弱い母はいなくなるから…。
この子は私のような母は必要としていない。
私がいないほうがいい、だって私みたいになって欲しくない。
花の薫りから遠ざからなくては…。
赤い花は私の居場所ではないもの。
さあ、終わらせよう……。
自分が何を終わらせたかったのかを知る。
終わらせたかったのは自分を憐れむしか出来ない弱く愚かな私自身。
夫に『私をだけを見て!叔母様とはもう会わないで!』とも言えずに、必死に取り繕っているだけの私。
『もう来ないで、オズワルドは私の夫をなのっ』と叔母を拒絶することも出来ず、嘆くだけの私。
弱いことは罪。
強くなりたかった、…でもなれなかった。
向き合いたかった、…でも怖くて目を背けた。
母になって少しだけ変われたと思っても、…結局は変われないままだった。
そんな自分自身がなにより嫌だった。
もう十分…だわ。
私は私であることををやめたい。
さようなら…ニーナ……。
私にとっては終わりでもあり、彼らにとってはこれが始まりでもある。
それが救いでもあった。
私の行為によって、みなの望みが叶うのだから。
「ニーナ!危ないっ、そこに行くから、動かないでくれ」
「やめてニーナ。
ごめんなさい、私が悪かったわ!
あっ、あぁ……そん…な……」
もういいから、優しい嘘はいらない。
微笑みながらその身を宙に投げ出す。
恐怖は感じない、心も身体も軽くて心地よい。
自分を捨てるのはこんなに簡単なことだった。
『ドスンッ!』
鈍い音とともに冷たい地面に抱きしめられる。
意識が薄れてゆくなか誰かが私の身体をそっと抱きしめながら絶叫している。
……悲しんでくれる人なんていたのだろうか。
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