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15.後始末②〜夫視点〜
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たった一人を除いてすべての人から話を聞き終えた。そしてニーナがどうしてあんなことをしたのか真の意味で理解した。
辿り着いた答えは想像していた以上のものだった。
いいや…違う。
『扉の前で…』という侍女からの証言を聞いた時から『もしやニーナは聞いていたのか…』と脳裏によぎったが、認めたくなかったのだ。
だから『そんなはずはない』と愚かにも思い込もうとした。
真実を知りたいという思いに嘘はなかった。
だが怖かったのだ、自分が何をしてしまったのか知るのが…。
だから『そんなはずない…そんなはずは…』と自分に言い聞かせ、明らかな悪意にだけ目を向けていた。
罪から逃れたかったのではない。
ただ恐ろしかった、自分の過ちが。
だがすべて繋がった事実に目を背ける訳にはいかない、受け入れなくてはならない。
それが認めたくなかったことだとしても。
怒りと絶望という感情に飲み込まれる。
真実は胸を引き裂き、自分自身に殺意を向ける。
愛する人を守れなかった、それどころか自分が一番傷つけていた。
その事実に呼吸すらできないほど苦しく、涙が頬を濡らしていく。
私が…いけなかったんだ…。
だからニーナがこんなことにっ。
眠ったままのニーナをそっと抱きしめ愛する人の名をただ繰り返す。
「ニーナ、ニーナ…ニーナ…ニー…ナ。
本当にすまない、すま…ない」
今更なにを言っても遅いのは分かっている。
起こったことは変えられないのだから。
自分の罪の重さは自覚している。
どんなに愚かで浅はかだったかも…。
はっ…はは、なんであの時に私は間違った…?
大切なのはニーナだけなのにっ。
シャナと再会した時に間違った選択をしたのは私だ。
全てはあの時から始まっていたのだ。
ブラウン伯爵夫妻から聞いた話やその他のほんの些細な言葉や状況を組み合わせれば、あの時からニーナが私とシャナの過去を知っていたと考えるのが自然だった。
いや、それしか考えられなかった。
ニーナはあの日、何度も私に聞いていたではないか。
『私が席を外している間、二人で何を話していたの?教えて、オズワルド』
『隣国で……、それとも忘れてしまった?』
それに私はどう答えた?
嘘をつき誤魔化したんだ。ニーナは何も知らないと思っていたから、それが最善だと信じてそうしてしまった。
思い返してみれば彼女らしくなかったと思う。
控えめな彼女にしては珍しく問い詰めるような感じでもあった。
だが私は体調が優れないからだろうと思ってしまった。
本当にそうかなのか…?
まだ言い訳をするのか私は…。
彼女の体調を心配していたのは本当だった。
だがそれより嘘をついているという後ろめたさから私は早く話を終わらせてしまいたかったのだ。
自分のことしか考えていなかった。
そして自分が幸せだから彼女も幸せだと信じていた。私の隣で微笑んでくれている妻が心の奥で何を思っているのか気づきもせずに…私は『愛しているニーナ』と囁いていた。
シャナの悪意にも気づきもしなかった。それどころか私の態度こそがシャナの悪意を助長させていたと言っても過言ではない。
壊れかけているとも知らず一人で幸せに酔いしれていたなんて呆れて笑ってしまう。
なんて馬鹿だったんだっ…は、はは…。
愛を伝える言葉はニーナに届いていたのだろうか。
きっと届いてはいなかった。
私にとってシャナはもう妻の叔母でしかなかった、だから普通に会話をするように心掛けていた。
『不自然に思われたくない』という一心で…。
ニーナはそれを見てどう思っていたのだろうか。
考えたくもないが答えは分かり切っていた。
目の前でかつて恋人同士だった夫と叔母が秘密を抱えて笑っているんだ。
ニーナにとっては心を抉られるほどの苦痛だったはずだ。
きっと疑っていただろう。
それに軽蔑していただろう。
もしかしたら嫌悪していたかもしれない私を…。
それが普通の感覚だ。
愛する人の心が自分から離れているかもと考えると吐きそうになる。
自分のせいだと分かっていてもそれだけは認めたくない、ニーナの愛を失っているなんて。
ああ…ニーナもこんな気持だったのか…。
苦しい?違う、そんなものではない。
そんな生易しい…ものではない。
これはまるで…地獄。
こんな思いには耐えられそうにない。
そう思う身勝手な私。
それを私は愛する人に与え続けていたくせに。
……耐えられない?
はっ、何を言ってるんだっ。
そんなことを言う資格なんてない、自業自得でしかないのだから。
ニーナが身を投げる直前まで、私には過ちを正す機会があった。
それなのに私はそれにも気づかずにいたんだ。
…悔やんでも悔やみきれない。
辿り着いた答えは想像していた以上のものだった。
いいや…違う。
『扉の前で…』という侍女からの証言を聞いた時から『もしやニーナは聞いていたのか…』と脳裏によぎったが、認めたくなかったのだ。
だから『そんなはずはない』と愚かにも思い込もうとした。
真実を知りたいという思いに嘘はなかった。
だが怖かったのだ、自分が何をしてしまったのか知るのが…。
だから『そんなはずない…そんなはずは…』と自分に言い聞かせ、明らかな悪意にだけ目を向けていた。
罪から逃れたかったのではない。
ただ恐ろしかった、自分の過ちが。
だがすべて繋がった事実に目を背ける訳にはいかない、受け入れなくてはならない。
それが認めたくなかったことだとしても。
怒りと絶望という感情に飲み込まれる。
真実は胸を引き裂き、自分自身に殺意を向ける。
愛する人を守れなかった、それどころか自分が一番傷つけていた。
その事実に呼吸すらできないほど苦しく、涙が頬を濡らしていく。
私が…いけなかったんだ…。
だからニーナがこんなことにっ。
眠ったままのニーナをそっと抱きしめ愛する人の名をただ繰り返す。
「ニーナ、ニーナ…ニーナ…ニー…ナ。
本当にすまない、すま…ない」
今更なにを言っても遅いのは分かっている。
起こったことは変えられないのだから。
自分の罪の重さは自覚している。
どんなに愚かで浅はかだったかも…。
はっ…はは、なんであの時に私は間違った…?
大切なのはニーナだけなのにっ。
シャナと再会した時に間違った選択をしたのは私だ。
全てはあの時から始まっていたのだ。
ブラウン伯爵夫妻から聞いた話やその他のほんの些細な言葉や状況を組み合わせれば、あの時からニーナが私とシャナの過去を知っていたと考えるのが自然だった。
いや、それしか考えられなかった。
ニーナはあの日、何度も私に聞いていたではないか。
『私が席を外している間、二人で何を話していたの?教えて、オズワルド』
『隣国で……、それとも忘れてしまった?』
それに私はどう答えた?
嘘をつき誤魔化したんだ。ニーナは何も知らないと思っていたから、それが最善だと信じてそうしてしまった。
思い返してみれば彼女らしくなかったと思う。
控えめな彼女にしては珍しく問い詰めるような感じでもあった。
だが私は体調が優れないからだろうと思ってしまった。
本当にそうかなのか…?
まだ言い訳をするのか私は…。
彼女の体調を心配していたのは本当だった。
だがそれより嘘をついているという後ろめたさから私は早く話を終わらせてしまいたかったのだ。
自分のことしか考えていなかった。
そして自分が幸せだから彼女も幸せだと信じていた。私の隣で微笑んでくれている妻が心の奥で何を思っているのか気づきもせずに…私は『愛しているニーナ』と囁いていた。
シャナの悪意にも気づきもしなかった。それどころか私の態度こそがシャナの悪意を助長させていたと言っても過言ではない。
壊れかけているとも知らず一人で幸せに酔いしれていたなんて呆れて笑ってしまう。
なんて馬鹿だったんだっ…は、はは…。
愛を伝える言葉はニーナに届いていたのだろうか。
きっと届いてはいなかった。
私にとってシャナはもう妻の叔母でしかなかった、だから普通に会話をするように心掛けていた。
『不自然に思われたくない』という一心で…。
ニーナはそれを見てどう思っていたのだろうか。
考えたくもないが答えは分かり切っていた。
目の前でかつて恋人同士だった夫と叔母が秘密を抱えて笑っているんだ。
ニーナにとっては心を抉られるほどの苦痛だったはずだ。
きっと疑っていただろう。
それに軽蔑していただろう。
もしかしたら嫌悪していたかもしれない私を…。
それが普通の感覚だ。
愛する人の心が自分から離れているかもと考えると吐きそうになる。
自分のせいだと分かっていてもそれだけは認めたくない、ニーナの愛を失っているなんて。
ああ…ニーナもこんな気持だったのか…。
苦しい?違う、そんなものではない。
そんな生易しい…ものではない。
これはまるで…地獄。
こんな思いには耐えられそうにない。
そう思う身勝手な私。
それを私は愛する人に与え続けていたくせに。
……耐えられない?
はっ、何を言ってるんだっ。
そんなことを言う資格なんてない、自業自得でしかないのだから。
ニーナが身を投げる直前まで、私には過ちを正す機会があった。
それなのに私はそれにも気づかずにいたんだ。
…悔やんでも悔やみきれない。
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