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婚約破棄は思ったより簡単だったが、実はその後が私にとって大変だった。
私は婚約前と考え方も変わったし、なによりもっと自分を成長させるために働きたかった。その話を両親にすると、母は賛成してくれたが父には猛反対された。
なんでも『世間には悪い奴らもいるのだから無理して働かずに家でゆっくりしながらお見合いでもすればいい』と古臭い事を真顔で言うのだ。確かに我が家は裕福なので娘の私が働く必要もないし、世間的にもそれはおかしなことではない。
だがロイアン商会で仕事を手伝った時の達成感は素晴らしい経験だった。そんな世界で自分を試してみたいという気持ちを抑えることが出来なかった。
---私に出来るか分からないけど、諦めたくない。挑戦してみたい。
なんか私はリチャードさんと話してから変わった。
引き算の幸せではなく、諦めない前向きな幸せを自分から求めるようになっていた。女性が男性に従い養ってもらうのが当たり前の世の中ではちょっと浮いてしまうかもしれないけど、それでも構わないと思うようになっていた。
---新しい価値観を知ることが出来てリチャードさんには感謝しかないわ。
私は我が家を裏で仕切っている母に父の説得を頼んでみることにした。
母は働くことに賛成してくれているので断られる事はないと思っていたが、答えは否だった。
「カリナ、あなたは働きたいんでしょう?それなら父親ぐらい説得できないでどうするの。自分の道は自分で開きなさい。それをあなたは望んでいるのでしょう?」
母の一言は私の目を覚まさせた。
---そうだわ、最初の一歩から他力本願では意味がないわ。自分で何とかしよう!
それからの私は父の説得と並行して働き口を自ら探し回った。ちゃんと働いた経験もない女性の私にチャンスを与えてくれる商会はなかなか見つからず、苦戦を強いられたが諦めはしなかった。
なんとか見習いという形で雇ってくれる所を見つけた時には、父も私の本気を認めて応援してくれるようになっていた。
それから三年、私は必死になって働き周りからもなんとか認められるようになった。商会という狭い世界で働いているのでロイアン商会との関わり合いも続いていたが問題はなかった。それどころか、私がこの世界に入ったばかりの時は何かと優遇してくれることもあった。
それもこれも母が円満破棄に拘ってくれたお陰だった。ロイアン家もそのことに心から感謝をしていて『残念なことに縁はなかったが、素晴らしい女性商人だ』と周りにアピールしながら付き合いを続けてくれたので、周りも婚約破棄を必要以上にマイナスに捉えずにいてくれたのだ。
---本当にお母さんに感謝だわ!
私は商会で働き始めて暫くした時に、母に訊ねてみたことがある。
「お母さん、婚約を破棄する時に円満にしたのは、こうなる事が分かっていたの?」
「そうよ。婚約破棄なんて、どんなに男性側に落ち度があったとしても女性の方が不利になるものよ。『円満』という恩をあちらに売っておけば、ロイアン家もこちらに頭が上がらないだろうし、なによりカリナを無下には出来ないでしょう。まあ何かあちらが仕掛けてきたらその時は積極的に動く用意はあったけど、ロイアン家当主もそこまで馬鹿ではなかったわね」
優しく微笑む母の横顔が、なんだかやり手の商人のように見えてきた。
「恐ろしいほど手腕だわ、凄すぎる…」
「あら褒めてくれて有り難う。ふふふ、まぁ情けは人の為ならずってことかしら」
母の答えは『流石、我が家の影の司令塔』といえる内容だった。
母が婚約破棄の時から娘の将来を見据えて布石を打っていたとは、ロイアン家も考えてもいなかっただろう。
まさに母の作戦勝ちといえる。
そして私は今、働きながら充実した毎日を送っている。三年前はこんな自分を想像する事なんてなかったが、やれば出来るものである。
私は婚約前と考え方も変わったし、なによりもっと自分を成長させるために働きたかった。その話を両親にすると、母は賛成してくれたが父には猛反対された。
なんでも『世間には悪い奴らもいるのだから無理して働かずに家でゆっくりしながらお見合いでもすればいい』と古臭い事を真顔で言うのだ。確かに我が家は裕福なので娘の私が働く必要もないし、世間的にもそれはおかしなことではない。
だがロイアン商会で仕事を手伝った時の達成感は素晴らしい経験だった。そんな世界で自分を試してみたいという気持ちを抑えることが出来なかった。
---私に出来るか分からないけど、諦めたくない。挑戦してみたい。
なんか私はリチャードさんと話してから変わった。
引き算の幸せではなく、諦めない前向きな幸せを自分から求めるようになっていた。女性が男性に従い養ってもらうのが当たり前の世の中ではちょっと浮いてしまうかもしれないけど、それでも構わないと思うようになっていた。
---新しい価値観を知ることが出来てリチャードさんには感謝しかないわ。
私は我が家を裏で仕切っている母に父の説得を頼んでみることにした。
母は働くことに賛成してくれているので断られる事はないと思っていたが、答えは否だった。
「カリナ、あなたは働きたいんでしょう?それなら父親ぐらい説得できないでどうするの。自分の道は自分で開きなさい。それをあなたは望んでいるのでしょう?」
母の一言は私の目を覚まさせた。
---そうだわ、最初の一歩から他力本願では意味がないわ。自分で何とかしよう!
それからの私は父の説得と並行して働き口を自ら探し回った。ちゃんと働いた経験もない女性の私にチャンスを与えてくれる商会はなかなか見つからず、苦戦を強いられたが諦めはしなかった。
なんとか見習いという形で雇ってくれる所を見つけた時には、父も私の本気を認めて応援してくれるようになっていた。
それから三年、私は必死になって働き周りからもなんとか認められるようになった。商会という狭い世界で働いているのでロイアン商会との関わり合いも続いていたが問題はなかった。それどころか、私がこの世界に入ったばかりの時は何かと優遇してくれることもあった。
それもこれも母が円満破棄に拘ってくれたお陰だった。ロイアン家もそのことに心から感謝をしていて『残念なことに縁はなかったが、素晴らしい女性商人だ』と周りにアピールしながら付き合いを続けてくれたので、周りも婚約破棄を必要以上にマイナスに捉えずにいてくれたのだ。
---本当にお母さんに感謝だわ!
私は商会で働き始めて暫くした時に、母に訊ねてみたことがある。
「お母さん、婚約を破棄する時に円満にしたのは、こうなる事が分かっていたの?」
「そうよ。婚約破棄なんて、どんなに男性側に落ち度があったとしても女性の方が不利になるものよ。『円満』という恩をあちらに売っておけば、ロイアン家もこちらに頭が上がらないだろうし、なによりカリナを無下には出来ないでしょう。まあ何かあちらが仕掛けてきたらその時は積極的に動く用意はあったけど、ロイアン家当主もそこまで馬鹿ではなかったわね」
優しく微笑む母の横顔が、なんだかやり手の商人のように見えてきた。
「恐ろしいほど手腕だわ、凄すぎる…」
「あら褒めてくれて有り難う。ふふふ、まぁ情けは人の為ならずってことかしら」
母の答えは『流石、我が家の影の司令塔』といえる内容だった。
母が婚約破棄の時から娘の将来を見据えて布石を打っていたとは、ロイアン家も考えてもいなかっただろう。
まさに母の作戦勝ちといえる。
そして私は今、働きながら充実した毎日を送っている。三年前はこんな自分を想像する事なんてなかったが、やれば出来るものである。
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