これで最後ですから覚悟してくださいませ、旦那様!

矢野りと

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4.妻の手の平のうえで、夫はちょっとだけ前進する

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女性達の反応は同じだった。『教わらないと分からないのでは意味がない』と遠回しに言ってくるだけ。


 つまりはどういうことだ?――分からん。


一方で男性達は『…離縁された理由が分からない』と呟く。

 みんな馬鹿なのか……

みんなとは、もちろん男性達のこと。
なんで離縁の理由を聞かれて首を傾げる? 隣の家のことじゃなくて、離縁したのは自分だろうがっ!

騎士達はほとんどが脳筋だが馬鹿ではない。
極稀に正真正銘の馬鹿もいるけど、こんなに高確率で当たるとは思えない。

 はぁ……、なんなんだよっ。



結局、何も得るものがないまま時間ばかりが過ぎていく。


だが気になったことはあった。

離縁は夫婦どちらにとっても重大な決断。その先の人生が不幸になるか、もしくは幸福なものとなるかは可能性としてはどちらも同じはず。

それなのに…明らかに違ったのだ。

生活自体は大変だったとしても、女性達は前を向いていたのに対し、男性達は過去に囚われていた。

元妻達は世間話で『今』を話題にしたが、元夫達は昔のことばかり話し、最後には決まって同じ台詞で締めた。
『何がいけなかったのかな…、はっは…は』

無理して笑っているのは一目瞭然で、その姿に同情を覚えるほどだった。

 俺もこうなるのか……

このままでは、たぶん…なる。

未来の自分を想像しては『どうしよう、どうしよう…』と木を相手に呟く。
ちなみに、俺は友達は木の妖精とか言うヤバい奴では断じてなく、誰かに相談するのは妻との約束に反するからだ。――ずるはしない。



落ち込んで帰宅する毎日だったが、救いは妻と娘だった。


「お疲れ様、リヴァイ。ほらライラと一緒にお風呂でさっぱりして」

娘とお風呂で遊べば重い気分が晴れた。
妻の隣で美味しいご飯を一緒に食べれば、『明日こそっ!』と前向きな気持ちを取り戻せた。


「ねえ、これ美味しいでしょ?リヴァイ」
「初めて食べるけど凄く美味いな。おかわりある?」

パクパク食べる俺を見ながら、カサナはくすくす笑っている。

「…ん?なんかおかしいか?」
「ふふ、それね。実は長葱なの」

長葱は俺の苦手な食べ物で、体に良いから食べてと言われてもずっと避けていた。

「うわぁっ、そうなの?!……でも美味いな」
「ライラ、お父さんの苦手が一個なくなったわ、凄いね~」
「ぱっぱー、ねー」

いつも通りの妻に、元気な娘に、明るい我が家。
執行猶予期間なのに何もかもいつも通り。


きっとカサナだって気になっているはずだ。
でも進展はあった?と聞いてこない。

――ほっとしていた。

何も答えられずにがっかりされたくなかったから。


どうしてカサナは俺の気持ちが分かったんだ?
見栄を張って順調ですって顔で帰って来ているのに。

俺は気になったので聞いてみることにした。

「カサナはどうして何も聞かないんだ?気にならないのか?」
「もちろん、凄く気になっているわよ」

やっぱりそうか、俺が逆ならきっと我慢できずに聞いている。

「ならどうして――」
「でもね、私が逆の立場なら聞かれたくないなと思う。もし話したいことがあれば自分から話す。だから、一週間は何も聞かないでいつも通りって決めてるの」
「いつも通り?」
「リヴァイは我が家が一番っていつも嬉しそうに言ってるから。もしかして違った?」

つまりはすべてが俺への気遣いだった。

もしそれが自分ならと置き換えて考えること自体は普通のこと。
だがそれを実践出来ているかと言われたら、……難しい。

大半の人は出来ると当たり前のように言うだろう。でも実際はどうだ?誰だって自分本位になりがちだ。


一見簡単で、そんなこと当たり前だろって思うようなことが実際は難しかったりするんだよな。


でもカサナは当たり前に自然にやってのける。
さすがは俺の愛する妻だ、見習いたい。


「もちろん、愛する妻と可愛い娘がいる我が家が一番さ。ありがとう、カサナ」
「どういたしまして。これは元気が出るおまじないよ」

チュッとカサナは俺の右頬に口づけを落としてから、抱っこしているライラの口を俺の左頬につける。

左だけよだれつきだが、それでも元気が漲ってくる。最高のおまじないを掛けてくれた。


執行猶予はあと三日、残すは副団長夫婦だけ。
絶対に答えを見つけてみせる!



「うぅ~ん、ぱっぱ」
「応援してくれてるのか、ライラは♪」
「うーん、それは違うかな…」

妻の言う通り、俺は間違っていた。抱っこをしている俺の膝がじんわりと生温かくなる。いつも通りの我が家に笑い声がいつまでも響いていた。


――こんな日々を失うなんて考えられない。

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