4 / 15
4.妻の手の平のうえで、夫はちょっとだけ前進する
しおりを挟む
女性達の反応は同じだった。『教わらないと分からないのでは意味がない』と遠回しに言ってくるだけ。
つまりはどういうことだ?――分からん。
一方で男性達は『…離縁された理由が分からない』と呟く。
みんな馬鹿なのか……
みんなとは、もちろん男性達のこと。
なんで離縁の理由を聞かれて首を傾げる? 隣の家のことじゃなくて、離縁したのは自分だろうがっ!
騎士達はほとんどが脳筋だが馬鹿ではない。
極稀に正真正銘の馬鹿もいるけど、こんなに高確率で当たるとは思えない。
はぁ……、なんなんだよっ。
結局、何も得るものがないまま時間ばかりが過ぎていく。
だが気になったことはあった。
離縁は夫婦どちらにとっても重大な決断。その先の人生が不幸になるか、もしくは幸福なものとなるかは可能性としてはどちらも同じはず。
それなのに…明らかに違ったのだ。
生活自体は大変だったとしても、女性達は前を向いていたのに対し、男性達は過去に囚われていた。
元妻達は世間話で『今』を話題にしたが、元夫達は昔のことばかり話し、最後には決まって同じ台詞で締めた。
『何がいけなかったのかな…、はっは…は』
無理して笑っているのは一目瞭然で、その姿に同情を覚えるほどだった。
俺もこうなるのか……
このままでは、たぶん…なる。
未来の自分を想像しては『どうしよう、どうしよう…』と木を相手に呟く。
ちなみに、俺は友達は木の妖精とか言うヤバい奴では断じてなく、誰かに相談するのは妻との約束に反するからだ。――ずるはしない。
落ち込んで帰宅する毎日だったが、救いは妻と娘だった。
「お疲れ様、リヴァイ。ほらライラと一緒にお風呂でさっぱりして」
娘とお風呂で遊べば重い気分が晴れた。
妻の隣で美味しいご飯を一緒に食べれば、『明日こそっ!』と前向きな気持ちを取り戻せた。
「ねえ、これ美味しいでしょ?リヴァイ」
「初めて食べるけど凄く美味いな。おかわりある?」
パクパク食べる俺を見ながら、カサナはくすくす笑っている。
「…ん?なんかおかしいか?」
「ふふ、それね。実は長葱なの」
長葱は俺の苦手な食べ物で、体に良いから食べてと言われてもずっと避けていた。
「うわぁっ、そうなの?!……でも美味いな」
「ライラ、お父さんの苦手が一個なくなったわ、凄いね~」
「ぱっぱー、ねー」
いつも通りの妻に、元気な娘に、明るい我が家。
執行猶予期間なのに何もかもいつも通り。
きっとカサナだって気になっているはずだ。
でも進展はあった?と聞いてこない。
――ほっとしていた。
何も答えられずにがっかりされたくなかったから。
どうしてカサナは俺の気持ちが分かったんだ?
見栄を張って順調ですって顔で帰って来ているのに。
俺は気になったので聞いてみることにした。
「カサナはどうして何も聞かないんだ?気にならないのか?」
「もちろん、凄く気になっているわよ」
やっぱりそうか、俺が逆ならきっと我慢できずに聞いている。
「ならどうして――」
「でもね、私が逆の立場なら聞かれたくないなと思う。もし話したいことがあれば自分から話す。だから、一週間は何も聞かないでいつも通りって決めてるの」
「いつも通り?」
「リヴァイは我が家が一番っていつも嬉しそうに言ってるから。もしかして違った?」
つまりはすべてが俺への気遣いだった。
もしそれが自分ならと置き換えて考えること自体は普通のこと。
だがそれを実践出来ているかと言われたら、……難しい。
大半の人は出来ると当たり前のように言うだろう。でも実際はどうだ?誰だって自分本位になりがちだ。
一見簡単で、そんなこと当たり前だろって思うようなことが実際は難しかったりするんだよな。
でもカサナは当たり前に自然にやってのける。
さすがは俺の愛する妻だ、見習いたい。
「もちろん、愛する妻と可愛い娘がいる我が家が一番さ。ありがとう、カサナ」
「どういたしまして。これは元気が出るおまじないよ」
チュッとカサナは俺の右頬に口づけを落としてから、抱っこしているライラの口を俺の左頬につける。
左だけよだれつきだが、それでも元気が漲ってくる。最高のおまじないを掛けてくれた。
執行猶予はあと三日、残すは副団長夫婦だけ。
絶対に答えを見つけてみせる!
「うぅ~ん、ぱっぱ」
「応援してくれてるのか、ライラは♪」
「うーん、それは違うかな…」
妻の言う通り、俺は間違っていた。抱っこをしている俺の膝がじんわりと生温かくなる。いつも通りの我が家に笑い声がいつまでも響いていた。
――こんな日々を失うなんて考えられない。
つまりはどういうことだ?――分からん。
一方で男性達は『…離縁された理由が分からない』と呟く。
みんな馬鹿なのか……
みんなとは、もちろん男性達のこと。
なんで離縁の理由を聞かれて首を傾げる? 隣の家のことじゃなくて、離縁したのは自分だろうがっ!
騎士達はほとんどが脳筋だが馬鹿ではない。
極稀に正真正銘の馬鹿もいるけど、こんなに高確率で当たるとは思えない。
はぁ……、なんなんだよっ。
結局、何も得るものがないまま時間ばかりが過ぎていく。
だが気になったことはあった。
離縁は夫婦どちらにとっても重大な決断。その先の人生が不幸になるか、もしくは幸福なものとなるかは可能性としてはどちらも同じはず。
それなのに…明らかに違ったのだ。
生活自体は大変だったとしても、女性達は前を向いていたのに対し、男性達は過去に囚われていた。
元妻達は世間話で『今』を話題にしたが、元夫達は昔のことばかり話し、最後には決まって同じ台詞で締めた。
『何がいけなかったのかな…、はっは…は』
無理して笑っているのは一目瞭然で、その姿に同情を覚えるほどだった。
俺もこうなるのか……
このままでは、たぶん…なる。
未来の自分を想像しては『どうしよう、どうしよう…』と木を相手に呟く。
ちなみに、俺は友達は木の妖精とか言うヤバい奴では断じてなく、誰かに相談するのは妻との約束に反するからだ。――ずるはしない。
落ち込んで帰宅する毎日だったが、救いは妻と娘だった。
「お疲れ様、リヴァイ。ほらライラと一緒にお風呂でさっぱりして」
娘とお風呂で遊べば重い気分が晴れた。
妻の隣で美味しいご飯を一緒に食べれば、『明日こそっ!』と前向きな気持ちを取り戻せた。
「ねえ、これ美味しいでしょ?リヴァイ」
「初めて食べるけど凄く美味いな。おかわりある?」
パクパク食べる俺を見ながら、カサナはくすくす笑っている。
「…ん?なんかおかしいか?」
「ふふ、それね。実は長葱なの」
長葱は俺の苦手な食べ物で、体に良いから食べてと言われてもずっと避けていた。
「うわぁっ、そうなの?!……でも美味いな」
「ライラ、お父さんの苦手が一個なくなったわ、凄いね~」
「ぱっぱー、ねー」
いつも通りの妻に、元気な娘に、明るい我が家。
執行猶予期間なのに何もかもいつも通り。
きっとカサナだって気になっているはずだ。
でも進展はあった?と聞いてこない。
――ほっとしていた。
何も答えられずにがっかりされたくなかったから。
どうしてカサナは俺の気持ちが分かったんだ?
見栄を張って順調ですって顔で帰って来ているのに。
俺は気になったので聞いてみることにした。
「カサナはどうして何も聞かないんだ?気にならないのか?」
「もちろん、凄く気になっているわよ」
やっぱりそうか、俺が逆ならきっと我慢できずに聞いている。
「ならどうして――」
「でもね、私が逆の立場なら聞かれたくないなと思う。もし話したいことがあれば自分から話す。だから、一週間は何も聞かないでいつも通りって決めてるの」
「いつも通り?」
「リヴァイは我が家が一番っていつも嬉しそうに言ってるから。もしかして違った?」
つまりはすべてが俺への気遣いだった。
もしそれが自分ならと置き換えて考えること自体は普通のこと。
だがそれを実践出来ているかと言われたら、……難しい。
大半の人は出来ると当たり前のように言うだろう。でも実際はどうだ?誰だって自分本位になりがちだ。
一見簡単で、そんなこと当たり前だろって思うようなことが実際は難しかったりするんだよな。
でもカサナは当たり前に自然にやってのける。
さすがは俺の愛する妻だ、見習いたい。
「もちろん、愛する妻と可愛い娘がいる我が家が一番さ。ありがとう、カサナ」
「どういたしまして。これは元気が出るおまじないよ」
チュッとカサナは俺の右頬に口づけを落としてから、抱っこしているライラの口を俺の左頬につける。
左だけよだれつきだが、それでも元気が漲ってくる。最高のおまじないを掛けてくれた。
執行猶予はあと三日、残すは副団長夫婦だけ。
絶対に答えを見つけてみせる!
「うぅ~ん、ぱっぱ」
「応援してくれてるのか、ライラは♪」
「うーん、それは違うかな…」
妻の言う通り、俺は間違っていた。抱っこをしている俺の膝がじんわりと生温かくなる。いつも通りの我が家に笑い声がいつまでも響いていた。
――こんな日々を失うなんて考えられない。
334
あなたにおすすめの小説
痛みは教えてくれない
河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。
マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。
別サイトにも掲載しております。
危ない愛人を持つあなたが王太子でいられるのは、私のおかげです。裏切るのなら容赦しません。
Hibah
恋愛
エリザベスは王妃教育を経て、正式に王太子妃となった。夫である第一王子クリフォードと初めて対面したとき「僕には好きな人がいる。君を王太子妃として迎えるが、僕の生活には極力関わらないでくれ」と告げられる。しかしクリフォードが好きな人というのは、平民だった。もしこの事実が公になれば、クリフォードは廃太子となり、エリザベスは王太子妃でいられなくなってしまう。エリザベスは自分の立場を守るため、平民の愛人を持つ夫の密会を見守るようになる……。
【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?
星野真弓
恋愛
十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。
だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。
そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。
しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
最後に一つだけ。あなたの未来を壊す方法を教えてあげる
椿谷あずる
恋愛
婚約者カインの口から、一方的に別れを告げられたルーミア。
その隣では、彼が庇う女、アメリが怯える素振りを見せながら、こっそりと勝者の微笑みを浮かべていた。
──ああ、なるほど。私は、最初から負ける役だったのね。
全てを悟ったルーミアは、静かに微笑み、淡々と婚約破棄を受け入れる。
だが、その背中を向ける間際、彼女はふと立ち止まり、振り返った。
「……ねえ、最後に一つだけ。教えてあげるわ」
その一言が、すべての運命を覆すとも知らずに。
裏切られた彼女は、微笑みながらすべてを奪い返す──これは、華麗なる逆転劇の始まり。
【完】婚約者に、気になる子ができたと言い渡されましたがお好きにどうぞ
さこの
恋愛
私の婚約者ユリシーズ様は、お互いの事を知らないと愛は芽生えないと言った。
そもそもあなたは私のことを何にも知らないでしょうに……。
二十話ほどのお話です。
ゆる設定の完結保証(執筆済)です( .ˬ.)"
ホットランキング入りありがとうございます
2021/08/08
あなただけが私を信じてくれたから
樹里
恋愛
王太子殿下の婚約者であるアリシア・トラヴィス侯爵令嬢は、茶会において王女殺害を企てたとして冤罪で投獄される。それは王太子殿下と恋仲であるアリシアの妹が彼女を排除するために計画した犯行だと思われた。
一方、自分を信じてくれるシメオン・バーナード卿の調査の甲斐もなく、アリシアは結局そのまま断罪されてしまう。
しかし彼女が次に目を覚ますと、茶会の日に戻っていた。その日を境に、冤罪をかけられ、断罪されるたびに茶会前に回帰するようになってしまった。
処刑を免れようとそのたびに違った行動を起こしてきたアリシアが、最後に下した決断は。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる