一番になれなかった身代わり王女が見つけた幸せ

矢野りと

文字の大きさ
24 / 24
おまけの話

㊗書籍化記念 【おまけの話】微笑ましい日常

しおりを挟む
「母上、プレゼントです!」
「可愛い花ね。ユウサ、ありがとう」

五歳になった息子のユウサが小さな白い花を差し出してきた。庭園のどこからか摘んできたのだろう。しっかりと握っていたから茎が折れてしまっている。これでは花瓶に活けるのは無理だろう。

だから、ユウサの手が届くように私は少し屈んでみせる。

「髪に飾ってくれるかしら?」
「はい、母上!」

小さな手で一生懸命に花を飾ろうとしてくれるけれど、茎が萎れているからなかなか挿せないようだ。
周囲にいる侍女達は手は出すことなく、にこやかに見守っている。ユウサの健気な動作が可愛くて仕方がないといった感じだ。

ユウサは私――カナニーアとタイキの第一子だ。容姿と運動神経は父親譲りだけど、性格は私に似ていると言われていた。
そして、飛狼竜達を恐れることなく平気で接しているから、将来は父親のように飛狼竜騎士として活躍するのではないかと周囲も期待している。

私はなってもならなくとも構わないと思っている。

ユウサは王族として生まれたから、この国を背負って生きていく責任はある。でも、どう生きるかは可能な限りあの子自身に決めさせてあげたいと思っている。

その考えはタイキも同じで、幼少期から王族として厳しい教育はしているが、危険なことがない限りあの子の行動を制限することはない。


「……出来ました、母上」
「ありがとう、ユウサ」

なんとか挿せたようだが、ユウサの声にさきほどの元気はなかった。

鏡を見なくともその理由は分かった。たぶん、花を挿そう四苦八苦している時に私の髪型が崩れてしまったのだ。
でもやっている時は夢中で気づかず、終わってから気づいたのだろう。
侍女が綺麗に結った髪を子供が直すことは難しい。だから、唇を噛みしめて泣くのを堪らえているのだ。

侍女がどうしますかという顔で私を見てくる。ここで手直ししたら、ユウサが傷つくと分かっているからだ。

このあとに誰かに会う公務はないので、このままで構わない。多少崩れていても、我が子が一生懸命に飾ってくれたのだから。

「……ごめんさい、母上」
「なにを謝るの? 可愛い花を飾ってくれたのに」
「でも……」

ユウサは私の頭に手を伸ばして花を取ろうとする。その小さな手を包み込むようにして止めたのは、私ではなかった。

「ユウサ、せっかく母上が気に入っているんだから取るな」
「でも父上、……髪型をぐしゃぐしゃにしてしまいました」


タイキは落ち込んでいるユウサを抱き上げて『ちょっと待ってろ、カナニーア』と告げてから、そのまま庭園の奥へと歩き出す。


暫くすると、また二人で戻ってきた。ユウサの手にはあの白い花がたくさん握られている。
その表情には明るさが戻っている。どうやら、タイキが上手くやってくれたようだ。


「母上、ちょっと屈んでください♪」

言われたままに私が屈むと、ユウサはタイキの指示通りに花を挿していく。それと一緒にタイキは私の崩れた髪をさり気なく手直する。意外にタイキは器用なところがあるのだ。


「うわぁー!凄いです、父上。母上が妖精のお姫様になりました!」
「本当に素敵でございますわ、カナニーア様」
「ユウサ様が御母上様をお姫様になさいましたね」

ユウサは自分でやったことなのに、驚きの声を上げながら喜んでいる。侍女達もお世辞ではなく、感嘆の声を上げていた。

私の崩れた髪はタイキの機転によって生まれ変わったようだ。

ユウサが子供らしく飛び跳ねて喜んでいる。すると、タイキが私の耳元に顔を寄せてくる。

「凄く素敵だ、カナニーア」
「ふふ、ありがとう。妖精のお姫様にしてくれて」
「随分前から俺の女神だけどな」

そう言いながら私の頬にそっと口づけをしてくる。結婚して何年経っても、こういうところは変わらない。
侍女の目があるので恥ずかしいけれど、もう彼女達は心得たもので見ないふりをする。……本当に王太子妃付きの侍女は優秀すぎる。



「父上だけの女神ではありません!母上はみんなのです!」
「はっはは、そうだな」

でも、子供は素直だから見ないふりなんてしない。頬をぷうっと膨らませて可愛らしく抗議してくる。
もちろん、タイキだってそう言う時は笑って聞き流す。決して我が子の言葉を否定はしない。

でも、ユウサが近くからいなくなると決まってこう囁く。

――『俺のカナニーアだからな』

だから私はこう返す。

――『私のタイキよ』



***********************
久々のおまけの話を読んでいただき有り難うございます。

そして、嬉しいご報告がございます。
なんと、こちらの作品の書籍化が決定しましたΣ(゚Д゚)
(レジーナブックスより12月下旬発売です)

たくさんの読者様に読んでいただき、お気に入り登録、温かいお言葉、多くの感想に励まされた結果、最後まで書き上げることができた作品でした。こうして書籍化していただける幸運に恵まれたのも、皆様のおかげです!!

本当に、本当に有り難うございましたヽ(=´▽`=)ノ



【作者のひとり言】
また懲りずに書いてありますが、読まなくとも全然大丈夫なものです。(投稿時に読んでいなかった読者様には分からないかもしれませんので……)

㋗グレゴール(飛狼竜、タイキの相棒)
㋫フロル(飛狼竜、ゾルドの相棒)
㋠チャーリー(年寄り飛狼竜、通称は長老様)
㋐アンドリュー(飛狼竜、真面目)

㋗『やったー! 書籍化だってさ。フロちゃん、ドキドキするね』
㋫『うん、私も今から楽しみよ』
㋠『うっほほ、儂もとうとう紙面デビューじゃな。ファンがこれ以上増えたら困るんじゃがな~。まあ、仕方がないかのー。だって、儂ってイケ飛狼竜じゃから♪』

浮かれまくっている長老様を横目に、フロルとアンドリューはひそひそ話をする。

㋫『?? 確か、長老様って――』
㋐『しっ! 知ったら、心臓が止まっちゃうから黙っていよう』

――……長老様は【作者のひとり言】にしか登場していないので、書籍への友情出演も当然ない。 

㋫『でも、発売されたら分かるわ……』
㋐『大丈夫、長老様は老眼だから小さな文字は読めないし、三日前のことは覚えてないから』

安堵する二人の横でグレゴールが無邪気に尋ねる。

㋗『ねぇねぇ、長老様って本編に出てたっけー?』
㋠『もちろんじゃ! 儂が主役と言っても過言じゃないぞ』

優しい飛狼竜達はぶんぶんと首を縦に振る。……ただし、グレゴールは除く。

㋗『あれ? そうだったかな??』
㋐『……そ、そうだぞ。グレゴール』
㋫『え、ええ、……そうよ』
㋗『うーん、思い出せないな』
㋠『グレゴールは若いのに物忘れが激しいのー。ほれ、これを食べるんじゃ、そうすれば思い出すからの♪』
㋗『うん! 僕、お魚大好き』

優しい飛狼竜達は『どうか思い出さないでくれ……』と願いながら、美味しそうに青魚を食べる二人お馬鹿さんを見ていたのであった……。




【お知らせです】※12月26日追加 

『おかえりなさいと言いたくて……』(作者の他作品)は、『一番になれなかった~』の前日譚となっております。
もしよろしければ、読んでみてくださいませ(〃ω〃)









しおりを挟む
感想 1,000

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1000件)

お祭り気分
2023.12.23 お祭り気分

書籍化おめでとうございます。㊗️💐🎊
大好きな話なので本になったのは嬉しい。
早速買いに行きます。🤗👘

2023.12.23 矢野りと

チョコレート大好き様、お祝いのお言葉有り難うございますヽ(=´▽`=)ノ

大好きなお話と言って頂き、本当に感謝感謝です!。・゚・(ノ∀`)・゚・。←感極まって泣く作者。

そして、チョコレート大好き様、ご購入を決断していただき重ねて感謝申し上げます♪

解除
にゃおん
2023.12.23 にゃおん

書籍化おめでとうございます♪

おまけのお話、幸せいっぱいで可愛いお話が読めて嬉しいです(*ˊ艸ˋ)♬*

気に入っていたお話なので書籍でどんな感じの挿絵になってるかなど楽しみです。

2023.12.23 矢野りと

にゃおん様、お祝いのお言葉有り難うございますヽ(=´▽`=)ノ

【おまけのお話】も気に入っていただけたようで、嬉しい限りです。

素敵な挿絵をご自分でつけている方もいらっしゃいますが(←う、羨ましすぎる…)、作者(私)は描けないので、書籍化され素敵な絵をつけていただけるのは本当に喜びです。
にゃおん様にも楽しんでいただけたら幸いです(〃ω〃)

解除
しろ
2023.12.12 しろ

書籍化おめでとうございます♪
大好きな作品でしたので嬉しいです。

書影を確認したのですが、カナニーアの髪色が茶色……🤔黒目黒髪のはず?
タイキも髪が長髪のはず……。
細かいことが気になってしまい申し訳ありません🙇‍♀️

2023.12.12 矢野りと

しろ様、さっそく書影を見ていただき有り難うございます(*^▽^*)

書籍化にともない変更している点もございます。
投稿時カナニーアは黒目黒髪でしたが、書籍では……(発売前なので詳細は言えませんが書影の通りです)←ほぼ言ってますね(笑)

タイキは投稿時も長髪設定ではありませんでした。ただ赤髪が風になびいている表現がありましたので、長い髪を想像していた読者様もいたかもしれませんね…(・・;)

投稿時いろいろと想像しながら読んでいただき、作者としては嬉しい限りです(*´ω`*) 

解除

あなたにおすすめの小説

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

貴方にはもう何も期待しません〜夫は唯の同居人〜

きんのたまご
恋愛
夫に何かを期待するから裏切られた気持ちになるの。 もう期待しなければ裏切られる事も無い。

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつもりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

ローザリンデの第二の人生

梨丸
恋愛
伯爵令嬢、ローザリンデの夫はいつも彼女より仕事を優先させ、彼女を無碍にしている。 彼には今はもういない想い人がいた。 私と結婚したことにいい思いをしていないことは知っていた。 けれど、私の命が懸かっていた時でさえも、彼の精神は変わらなかった。 あなたが愛してくれないのなら、私は勝手に幸せになります。 吹っ切れたローザリンデは自分自身の幸せのために動くことにした。 ※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。) 1/10 HOTランキング1位、小説、恋愛3位ありがとうございます。

あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します

矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜 言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。 お互いに気持ちは同じだと信じていたから。 それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。 『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』 サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。 愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。