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閑話~闇~ 皇帝ハヤン視点
俺の母は父である皇帝の正妃だった。
家柄も良く教養もあり、民や家臣達から愛され尊敬される公明正大な立派な正妃。
でも皇帝である夫からはそれほど愛されていなかった。
だから俺が生まれた後の関係は夫と妻ではなく、皇帝と正妃だった。
それでも母はそんな状況を嘆く事なく皇帝を支え続けた。
いつも微笑みを絶やさない優しい人、大好きな母。
皇帝は後宮を持つことが許される存在。
父は皇帝としては優秀だったが、無類の女好きで気に入った女を次から次へと後宮に入れるものだから女同士の争いが絶えなかった。
そして当然、俺の異母兄弟や異母姉妹も後宮に10人以上いたらしい。
普通なら父が自分で蒔いた種なのだから後宮の揉め事を収める努力をすれば良いのに、後宮は正妃の仕事だと母に丸投げしていた。そんな状況でも母は大勢いる側妃全員に慈悲の心で接していた。
年頃になった俺はある日、母に訊ねた。
『どうして母上がそんな事をするのですか?
父上の後宮など放っておけばいいではないですかっ!
母上が尻拭いする必要はありません』
すると母は、
『ハヤンは優しい子ね。有り難う、でもこれも正妃の仕事だから大丈夫よ』
と優しく微笑んだ。
その答えにもちろん納得はしていなかった。
だが子供の俺にはまだ力がないので、出来ることなど何もないのが現実。
父を諫める事も出来ないし、母を助ける事も出来ない。
悔しかった‥‥。
だから大人になったら優しい母を守れるようになろうと誓い、より一層帝王学に精進するようになった。
数年後まだ青年だった俺は後宮にいる異母兄弟や異母姉妹が次々に病死や事故死をしていることに疑問を持ち始めた。
側妃の子とはいえ、平民よりは手厚く保護されているはずなのに後宮では異常に死亡率が高いのだ。
なにかある…。
そして影を使って調べるとすぐに真実が分かった。
みんな殺されているのだ。特に優秀とされた子ほど早くに殺され、まだ存命しているのは政略結婚の手駒として使える異母姉妹数人とまだ幼い異母弟一人だけだった。
そして黒幕は正妃である母だった。
『母上!なぜ俺の弟や妹を殺しているのですかっ!
あれらは何の罪もない子供ではないですか!』
『罪?あれらの罪は生まれてきたことよ。
何の罪もない?
いいえ、正妃である私から幸せを奪った側妃を母に持ったのが罪。
そして私の大切なハヤンの地位を脅かす可能性を持っているのも罪。
彼らほど罪深い存在はいないのよ』
『母上、貴女は間違っています』
(母上、貴女は狂っている!)
『私は正妃として仕事をしているだけよ。
だから間違っていません。
間違っているというなら、後宮の平穏を一方的に押し付けてきた皇帝陛下でしょう。
私ではないわ』
怒るのでもなく叫ぶのでもなく微笑みながら淡々と話す正妃。
目の前にいるのは優しかった母ではなく、妬みや嫉妬に晒され狂ってしまった憐れな女性だった。
その数日後、母はひっそりと死んだ。
表向きは病死とされていたが、本当は自害だった。
遺書もなく死を選んだ母の気持ちを知る事は出来なかった。
だが俺は心底怖いと思った。
後宮という存在があの母を狂わせ、多くの死をもたらした…。
俺が後宮を持ったらこうなるのか?
そんな後宮はいらないだろう。
そもそも愛とはなんだ…。
…分からない。
その後、父が崩御し俺は23歳で皇帝になった。
以前から正妃をと言われていたが、群がってくるハイエナのような女達には嫌悪しか感じなかった。
いつまでも正妃を迎えない俺に痺れを切らした臣下達は『伝統だから』『世継ぎが必要だから』と新たな女達を集め俺の為の後宮を作った。
チッ、勝手なことをしやがって。
後宮?俺には必要がないものだ。
世継ぎ?そんなもの、適当に親戚から見繕うまでだ。
家柄も良く教養もあり、民や家臣達から愛され尊敬される公明正大な立派な正妃。
でも皇帝である夫からはそれほど愛されていなかった。
だから俺が生まれた後の関係は夫と妻ではなく、皇帝と正妃だった。
それでも母はそんな状況を嘆く事なく皇帝を支え続けた。
いつも微笑みを絶やさない優しい人、大好きな母。
皇帝は後宮を持つことが許される存在。
父は皇帝としては優秀だったが、無類の女好きで気に入った女を次から次へと後宮に入れるものだから女同士の争いが絶えなかった。
そして当然、俺の異母兄弟や異母姉妹も後宮に10人以上いたらしい。
普通なら父が自分で蒔いた種なのだから後宮の揉め事を収める努力をすれば良いのに、後宮は正妃の仕事だと母に丸投げしていた。そんな状況でも母は大勢いる側妃全員に慈悲の心で接していた。
年頃になった俺はある日、母に訊ねた。
『どうして母上がそんな事をするのですか?
父上の後宮など放っておけばいいではないですかっ!
母上が尻拭いする必要はありません』
すると母は、
『ハヤンは優しい子ね。有り難う、でもこれも正妃の仕事だから大丈夫よ』
と優しく微笑んだ。
その答えにもちろん納得はしていなかった。
だが子供の俺にはまだ力がないので、出来ることなど何もないのが現実。
父を諫める事も出来ないし、母を助ける事も出来ない。
悔しかった‥‥。
だから大人になったら優しい母を守れるようになろうと誓い、より一層帝王学に精進するようになった。
数年後まだ青年だった俺は後宮にいる異母兄弟や異母姉妹が次々に病死や事故死をしていることに疑問を持ち始めた。
側妃の子とはいえ、平民よりは手厚く保護されているはずなのに後宮では異常に死亡率が高いのだ。
なにかある…。
そして影を使って調べるとすぐに真実が分かった。
みんな殺されているのだ。特に優秀とされた子ほど早くに殺され、まだ存命しているのは政略結婚の手駒として使える異母姉妹数人とまだ幼い異母弟一人だけだった。
そして黒幕は正妃である母だった。
『母上!なぜ俺の弟や妹を殺しているのですかっ!
あれらは何の罪もない子供ではないですか!』
『罪?あれらの罪は生まれてきたことよ。
何の罪もない?
いいえ、正妃である私から幸せを奪った側妃を母に持ったのが罪。
そして私の大切なハヤンの地位を脅かす可能性を持っているのも罪。
彼らほど罪深い存在はいないのよ』
『母上、貴女は間違っています』
(母上、貴女は狂っている!)
『私は正妃として仕事をしているだけよ。
だから間違っていません。
間違っているというなら、後宮の平穏を一方的に押し付けてきた皇帝陛下でしょう。
私ではないわ』
怒るのでもなく叫ぶのでもなく微笑みながら淡々と話す正妃。
目の前にいるのは優しかった母ではなく、妬みや嫉妬に晒され狂ってしまった憐れな女性だった。
その数日後、母はひっそりと死んだ。
表向きは病死とされていたが、本当は自害だった。
遺書もなく死を選んだ母の気持ちを知る事は出来なかった。
だが俺は心底怖いと思った。
後宮という存在があの母を狂わせ、多くの死をもたらした…。
俺が後宮を持ったらこうなるのか?
そんな後宮はいらないだろう。
そもそも愛とはなんだ…。
…分からない。
その後、父が崩御し俺は23歳で皇帝になった。
以前から正妃をと言われていたが、群がってくるハイエナのような女達には嫌悪しか感じなかった。
いつまでも正妃を迎えない俺に痺れを切らした臣下達は『伝統だから』『世継ぎが必要だから』と新たな女達を集め俺の為の後宮を作った。
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