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第4章 1 アーベルからの手紙
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王宮でのパーティーは終了し、レイヤー男爵夫妻と共にアーベルも帰っていった。その際、今後はこまめに手紙のやり取りをする約束を交わしたのだった。
そして季節は6月に入った。あのパーティ以来、アリオスと社交場に顔を出すことは一度も無かった。アリオスは忙しい人物であったし、何よりそのような場に出席することを好まない事は周囲の貴族たちには知られていたからである。チェスター家は侯爵家の中でもかなり高い地位にいる。ほとんどの貴族はアリオスの顔色を伺わなければならない立場にあった。唯一、チェスター家に口を挟めるのは皇族のみであったのだ。
****
ここはカールの自室。
今、スカーレットはカールの為に読書の時間を与えていた。そしてスカーレットは真剣な眼差しでアーベルから届いた手紙を目にしていた。
手紙はやはり、シュバルツ家に関する内容であった。今のマゼンダ親子とシュバル家の現状であった。
エーリカの夫となったはずのアンドレアは未だに行方不明。そしてエーリカとアンドレアの離婚はまだされていないということ。それはエーリカが未だに離婚届を役所に提出する事を拒んでいるためだ。そして財産のこと。マゼンダ親子は家計が苦しいにも関わらずドレスや宝石の類を買い集めることをやめられず、派遣されてきた使用人達の給料を支払うことが出来ず、大多数は解雇してしまった。そのせいで屋敷や領地の管理が行き届かず、凄惨な状況になっていた。そしてリヒャルト名義の資産があるにも関わらず、彼が死んでしまった為に預けた銀行の名義書き換えが困難で凍結されてしまい、マゼンダ親子ではどうにも出来ない状況になっている事が綴られている。しかし、実の娘であるスカーレットの名義になら書き換えは出来るが、強欲なアグネスが首を縦に振らず、弁護士は困っているとの内容が記されいる。
そして最後に手紙にはこう記されていた。
『ただいま、ベルンヘルでヴィクトールとグスタフがリヒャルト様の不審死について調査を進めております。何か決定的な事を掴んだそうですが、今はまだ詳細を明かすことが出来ないそうです。しかし良い知らせを届けられそうだとの事でした。それまでお待ち下さい』
それまで曇った顔で手紙を読んでいたスカーレットであったが、アーベルからの最後の文章で少しだけ希望を持つことが出来、無意識に笑みが浮かんでしまった。
「スカーレット様、何かお手紙に良い知らせでも書かれていたのですか?」
突然声をかけられてカールを見ると、彼は嬉しそうな表情を浮かべてスカーレットを見つめていた。
「ええ、そうなのです。でも何故お分かりになったのですか?」
するとカールが言った。
「それはスカーレット様が笑顔を浮かべているからです」
「え?そうなのですか?自分では全く気付きませんでした」
「そう言えば、僕からも良い知らせがあるんです。もうすぐアリオス兄様が仕事の目処がたったので、僕とスカーレット様、そしてブリジットさんと旅行に行けることになったそうです。昨日アリオス兄様が僕にそう話してくれました」
「まあ、そうだったのですね」
スカーレットは返事をしながらアリオスに感謝した。
(アリオス様は約束を守って下さるのね…。これでようやく屋敷を離れてから初めてシュバルツ家の管理している公園の様子見に行けるのね…どうか以前のまま、美しい公園のすがたでありますように…)
スカーレットは願うのだった―。
そして季節は6月に入った。あのパーティ以来、アリオスと社交場に顔を出すことは一度も無かった。アリオスは忙しい人物であったし、何よりそのような場に出席することを好まない事は周囲の貴族たちには知られていたからである。チェスター家は侯爵家の中でもかなり高い地位にいる。ほとんどの貴族はアリオスの顔色を伺わなければならない立場にあった。唯一、チェスター家に口を挟めるのは皇族のみであったのだ。
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ここはカールの自室。
今、スカーレットはカールの為に読書の時間を与えていた。そしてスカーレットは真剣な眼差しでアーベルから届いた手紙を目にしていた。
手紙はやはり、シュバルツ家に関する内容であった。今のマゼンダ親子とシュバル家の現状であった。
エーリカの夫となったはずのアンドレアは未だに行方不明。そしてエーリカとアンドレアの離婚はまだされていないということ。それはエーリカが未だに離婚届を役所に提出する事を拒んでいるためだ。そして財産のこと。マゼンダ親子は家計が苦しいにも関わらずドレスや宝石の類を買い集めることをやめられず、派遣されてきた使用人達の給料を支払うことが出来ず、大多数は解雇してしまった。そのせいで屋敷や領地の管理が行き届かず、凄惨な状況になっていた。そしてリヒャルト名義の資産があるにも関わらず、彼が死んでしまった為に預けた銀行の名義書き換えが困難で凍結されてしまい、マゼンダ親子ではどうにも出来ない状況になっている事が綴られている。しかし、実の娘であるスカーレットの名義になら書き換えは出来るが、強欲なアグネスが首を縦に振らず、弁護士は困っているとの内容が記されいる。
そして最後に手紙にはこう記されていた。
『ただいま、ベルンヘルでヴィクトールとグスタフがリヒャルト様の不審死について調査を進めております。何か決定的な事を掴んだそうですが、今はまだ詳細を明かすことが出来ないそうです。しかし良い知らせを届けられそうだとの事でした。それまでお待ち下さい』
それまで曇った顔で手紙を読んでいたスカーレットであったが、アーベルからの最後の文章で少しだけ希望を持つことが出来、無意識に笑みが浮かんでしまった。
「スカーレット様、何かお手紙に良い知らせでも書かれていたのですか?」
突然声をかけられてカールを見ると、彼は嬉しそうな表情を浮かべてスカーレットを見つめていた。
「ええ、そうなのです。でも何故お分かりになったのですか?」
するとカールが言った。
「それはスカーレット様が笑顔を浮かべているからです」
「え?そうなのですか?自分では全く気付きませんでした」
「そう言えば、僕からも良い知らせがあるんです。もうすぐアリオス兄様が仕事の目処がたったので、僕とスカーレット様、そしてブリジットさんと旅行に行けることになったそうです。昨日アリオス兄様が僕にそう話してくれました」
「まあ、そうだったのですね」
スカーレットは返事をしながらアリオスに感謝した。
(アリオス様は約束を守って下さるのね…。これでようやく屋敷を離れてから初めてシュバルツ家の管理している公園の様子見に行けるのね…どうか以前のまま、美しい公園のすがたでありますように…)
スカーレットは願うのだった―。
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