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9-19 水族館で
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高速道路を使って2時間程車を走らせ、朱莉と航は美ら海水族館のある海洋博公園へと到着した。
「朱莉、ほら行くぞ。」
駐車場を出ると航は後ろを歩く朱莉に振り向いて声を掛けた。
「うん。」
朱莉は人混みの間を縫うようにして航の隣にやって来ると言った。
「それにしてもすごい人混みだね。平日なのに・・・。」
「ああ、そうだな。この間は水族館の中には入らなかったけど、まさかこんなに人が来ているとは思わなかった。もうすぐ夏休みだって言うのにこの人混みじゃ・・夏休みになったらもっと混むかもな。」
「うん。駐車場も結構混んでいたものね。」
「よし、それじゃ行くぞ。朱莉、はぐれないようにな。」
言いながら航は思った。
(朱莉が彼女だったら・・・はぐれないように手を繋いで歩くことも出来るんだけどな・・・。しかし・・朱莉は書類上人妻だ。そんな真似出来る訳ないか。)
等と考え事をしていたら、再び朱莉を見失ってしまった。
「朱莉っ?何所だっ?!」
航はキョロキョロ辺りを見渡すと、航のスマホに着信が入って来た。着信相手は朱莉からであった。
「もしもし、朱莉っ?今何所にいるんだっ?!」
『あ、航君?今ね1Fのエスカレーターの前にいるの。』
「エスカレーター前だな?よし、分かったっ!すぐ行くから朱莉、絶対にそこを動くなよっ!」
航は電話を切ると、急いで朱莉の元へと向かった。
「朱莉っ!」
「あ、航君。」
朱莉がほっとした表情を顔に浮かべた。
「すまなかった、朱莉。まさか本当にはぐれてしまうとは思わなかった。」
航は申し訳なさそうに言う。
「うううん、いいの。こんなに混んでいれば仕方ないよ。私、それにあんまり出歩かないから人混みに慣れていなくて。」
「だったら・・・。」
航はそこまで言いかけて、言葉を切った。
(駄目だ・・・手を繋ごうか・・・なんてとても朱莉に言える訳ない。)
「どうしたの?航君?」
朱莉は不思議そうな顔で航を見た。
「い、いや。それじゃ・・・なるべく壁側を歩くか。」
「うん、そうだね。」
そして2人は壁側を歩き、順番に展示コーナーを見て回った。
「うわあああ~すごーい・・・。」
朱莉が目を見開いて、声を上げた。
「ああ・・・本当にすごいな。水族館は何回か行ったことがあるけど・・・こんな巨大水槽を見るのは初めてだ。」
航も感嘆の声を上げた。
朱莉と航は今、巨大水槽『アクアルーム』で巨大ジンベイザメや巨大なマンタなどが泳ぐ姿を眺めている。
それはまさに目を見張るような光景で、朱莉はすっかり見惚れていた。
そんな嬉しそうに魚の群れを眺める朱莉を見て航は思った。
(良かった・・・楽しそうで。ここへ一緒に来た甲斐があったな・・・。)
そして改めて感じたのである。
もっと早くに朱莉と出会えていたら―と。
その後、2人は全ての階の展示物を見て回ると水族館を出た。
そして今度はイルカショーを見る事が出来る施設へと2人は向かった。
朱莉は初めて見るイルカショーを手を叩いてまるで子供の様に喜んで観ている。
(へえ~朱莉って・・・意外と子供っぽいところがあるんだな・・・。)
そんな朱莉を航はじっと見つめていると、突然朱莉がこちらを向いた。
「どうしたの?航君?」
「い、いやっ!あ、朱莉って・・・こんなに喜んでイルカショーを観て・・・何だか子供っぽいなって思っただけさ。」
航は慌てていたので、つい思った事をそのまま口走ってしまった。
すると朱莉が頬を赤くすると言った。
「え・・?そ、そんなに・・・はしゃいでた・・?は・恥ずかしい・・・。」
「いいって、俺の前ではそんな事気にするなよ?何せ朱莉にとって俺は弟なんだろう?」
航は笑いながら朱莉に言ったが、内心自分の発した言葉に傷付いていた。
「そ、そうだよね?きっと航君の前だから私も・・素直な気持ちになれるのかも・・・。これがきっと他の人だったら・・・。」
そこまで言いかけて朱莉は口を閉ざした。
朱莉の事を顧みず、自分達だけの事を考えて優先する翔、丁寧な物腰の下に何を考えているのか分からない謎の京極、そして・・・突然朱莉の前から姿を消してしまった琢磨。
よくよく考えてみれば・・・朱莉は彼等の前では常に引け目を感じていた。
全員エリート階級に属する人物なのに、朱莉は高校すら卒業していないのだ。
だから・・・気を遣い・・今迄素の自分をだせないでいたのかもしれない。
「朱莉?どうした?」
航は急に黙ってしまった朱莉を気にして声を掛けた。
「あ、あのね・・・。きっと今私がこんなに楽しく感じてるのは隣にいるのが航君だからだよ。」
笑顔で言う朱莉に航は一気に心臓の音が高まった。
(え・・?あ、朱莉・・・。それは・・・一体どういう意味なんだ・・?!)
「あ、朱莉。何故俺だと楽しく感じるんだ?」
航は次の朱莉の台詞に期待しながら尋ねた。
「うん。それはね・・・。航君だと気を遣わなくて済むって言うか・・・一緒にいて楽な人・・だからかなあ・・・?」
「あ、朱莉・・・・。」
(え・・・・?こ、こういう場合・・俺はどう解釈するべきなんだ?喜ぶべきなのか?それともがっくりするべきなのか・・?わ、分からねえ・・やっぱり朱莉の気持ちが俺には分からねえ・・・・。)
朱莉の発言に航は頭を抱えてしまうのだった—。
「朱莉・・残念だったな。あの水族館で食事出来なくて・・・。」
駐車場に向って歩きながら航が残念そうに言う。
「うん・・・でも仕方が無いよ。だってあんなに大きな水槽を観ながら食事が出来るお店だよ?誰だって行ってみたいと思うもの。でも・・・私は大丈夫。だってもう十分過ぎる位水族館を楽しんだから。」
朱莉は笑顔で答える。
「朱莉・・・。また・・きっといつか来れるさ。」
「そうだね・・・。私は・・・多分このまま明日香さんが赤ちゃんを産んで帰国する直前までは・・・沖縄に居る事になりそうだから。」
「朱莉・・。」
朱莉の言葉に航は胸が詰まりそうになった。
(そうだ・・。俺は2週間後には東京へ帰らなくてはならない。いや・・それどころか、大方依頼主の提示して来た証拠はもう殆ど手に入れたんだ。だからその気になれば明日東京に帰っても何の問題も無い・・・・。)
だが、航は当初の予定通り3週間は沖縄に滞在しようと考えていた。
それは朱莉を1人沖縄に置いておくのが心配だからだ。
(いや・・・違うな・・。本当は・・俺が朱莉から離れたくないだけなんだ。朱莉に取って、俺は弟のような存在でしか無いのかもしれない。でも・・それでもいいから・・ギリギリまでは朱莉の側に・・・。)
例え4カ月後に朱莉が東京に戻って来れたとしても、その時の朱莉は鳴海翔と明日香の間に出来た子供を育てていく事になるのだ。そうなると、もう航は子育てに追われる朱莉と会う事が叶わなくなるだろう。
だから、それまでの間は・・・出来るだけ東京行を引き延ばして、沖縄で朱莉との思い出を沢山作りたいと航は願っていた。
「・・・・。」
航は隣を歩く朱莉をチラリと見た。朱莉は周りの美しい風景を眺めながら歩いている。
そんな朱莉を見ながら航が言った。
「よし、朱莉。それじゃちょっと遅くなったけど、何処かで飯食って行こう!」
「うん、そうだね。何処で食べようか?」
「ああ、やっぱりここは沖縄だから、沖縄らしい食事をしないとな?実はな、朱莉と行ってみたい沖縄の郷土料理を出している店があるんだが・・・そこに行ってみないか?」
実は航は前日に既に沖縄の郷土料理を提供する店をネットで検索していたのである。
「うん、行ってみたい。連れて行って?」
「よし、決まりだ。それじゃ行こうぜ。」
そして2人は車に乗り込むと、航の運転で郷土料理の店へ向かった
「航君。あの店の料理・・・とっても美味しかったね?」
帰りの車内で朱莉が嬉しそうに航に声を掛ける。
「ああ、美味かった。ゴーヤチャンプルー定食・・・最高だったな?」
「うん。航君も気に入ったんだね?今度ネットで作り方調べたら、家で作るね?」
「おう!楽しみにしてるぜっ?」
航は笑顔で答える。
(そう、例え恋人同士にはなれなくても・・・こうして朱莉の側にいられるだけで俺はいいんだ・・・・。)
朱莉と会話をしながら、航は心の中で思うのだった—。
「朱莉、ほら行くぞ。」
駐車場を出ると航は後ろを歩く朱莉に振り向いて声を掛けた。
「うん。」
朱莉は人混みの間を縫うようにして航の隣にやって来ると言った。
「それにしてもすごい人混みだね。平日なのに・・・。」
「ああ、そうだな。この間は水族館の中には入らなかったけど、まさかこんなに人が来ているとは思わなかった。もうすぐ夏休みだって言うのにこの人混みじゃ・・夏休みになったらもっと混むかもな。」
「うん。駐車場も結構混んでいたものね。」
「よし、それじゃ行くぞ。朱莉、はぐれないようにな。」
言いながら航は思った。
(朱莉が彼女だったら・・・はぐれないように手を繋いで歩くことも出来るんだけどな・・・。しかし・・朱莉は書類上人妻だ。そんな真似出来る訳ないか。)
等と考え事をしていたら、再び朱莉を見失ってしまった。
「朱莉っ?何所だっ?!」
航はキョロキョロ辺りを見渡すと、航のスマホに着信が入って来た。着信相手は朱莉からであった。
「もしもし、朱莉っ?今何所にいるんだっ?!」
『あ、航君?今ね1Fのエスカレーターの前にいるの。』
「エスカレーター前だな?よし、分かったっ!すぐ行くから朱莉、絶対にそこを動くなよっ!」
航は電話を切ると、急いで朱莉の元へと向かった。
「朱莉っ!」
「あ、航君。」
朱莉がほっとした表情を顔に浮かべた。
「すまなかった、朱莉。まさか本当にはぐれてしまうとは思わなかった。」
航は申し訳なさそうに言う。
「うううん、いいの。こんなに混んでいれば仕方ないよ。私、それにあんまり出歩かないから人混みに慣れていなくて。」
「だったら・・・。」
航はそこまで言いかけて、言葉を切った。
(駄目だ・・・手を繋ごうか・・・なんてとても朱莉に言える訳ない。)
「どうしたの?航君?」
朱莉は不思議そうな顔で航を見た。
「い、いや。それじゃ・・・なるべく壁側を歩くか。」
「うん、そうだね。」
そして2人は壁側を歩き、順番に展示コーナーを見て回った。
「うわあああ~すごーい・・・。」
朱莉が目を見開いて、声を上げた。
「ああ・・・本当にすごいな。水族館は何回か行ったことがあるけど・・・こんな巨大水槽を見るのは初めてだ。」
航も感嘆の声を上げた。
朱莉と航は今、巨大水槽『アクアルーム』で巨大ジンベイザメや巨大なマンタなどが泳ぐ姿を眺めている。
それはまさに目を見張るような光景で、朱莉はすっかり見惚れていた。
そんな嬉しそうに魚の群れを眺める朱莉を見て航は思った。
(良かった・・・楽しそうで。ここへ一緒に来た甲斐があったな・・・。)
そして改めて感じたのである。
もっと早くに朱莉と出会えていたら―と。
その後、2人は全ての階の展示物を見て回ると水族館を出た。
そして今度はイルカショーを見る事が出来る施設へと2人は向かった。
朱莉は初めて見るイルカショーを手を叩いてまるで子供の様に喜んで観ている。
(へえ~朱莉って・・・意外と子供っぽいところがあるんだな・・・。)
そんな朱莉を航はじっと見つめていると、突然朱莉がこちらを向いた。
「どうしたの?航君?」
「い、いやっ!あ、朱莉って・・・こんなに喜んでイルカショーを観て・・・何だか子供っぽいなって思っただけさ。」
航は慌てていたので、つい思った事をそのまま口走ってしまった。
すると朱莉が頬を赤くすると言った。
「え・・?そ、そんなに・・・はしゃいでた・・?は・恥ずかしい・・・。」
「いいって、俺の前ではそんな事気にするなよ?何せ朱莉にとって俺は弟なんだろう?」
航は笑いながら朱莉に言ったが、内心自分の発した言葉に傷付いていた。
「そ、そうだよね?きっと航君の前だから私も・・素直な気持ちになれるのかも・・・。これがきっと他の人だったら・・・。」
そこまで言いかけて朱莉は口を閉ざした。
朱莉の事を顧みず、自分達だけの事を考えて優先する翔、丁寧な物腰の下に何を考えているのか分からない謎の京極、そして・・・突然朱莉の前から姿を消してしまった琢磨。
よくよく考えてみれば・・・朱莉は彼等の前では常に引け目を感じていた。
全員エリート階級に属する人物なのに、朱莉は高校すら卒業していないのだ。
だから・・・気を遣い・・今迄素の自分をだせないでいたのかもしれない。
「朱莉?どうした?」
航は急に黙ってしまった朱莉を気にして声を掛けた。
「あ、あのね・・・。きっと今私がこんなに楽しく感じてるのは隣にいるのが航君だからだよ。」
笑顔で言う朱莉に航は一気に心臓の音が高まった。
(え・・?あ、朱莉・・・。それは・・・一体どういう意味なんだ・・?!)
「あ、朱莉。何故俺だと楽しく感じるんだ?」
航は次の朱莉の台詞に期待しながら尋ねた。
「うん。それはね・・・。航君だと気を遣わなくて済むって言うか・・・一緒にいて楽な人・・だからかなあ・・・?」
「あ、朱莉・・・・。」
(え・・・・?こ、こういう場合・・俺はどう解釈するべきなんだ?喜ぶべきなのか?それともがっくりするべきなのか・・?わ、分からねえ・・やっぱり朱莉の気持ちが俺には分からねえ・・・・。)
朱莉の発言に航は頭を抱えてしまうのだった—。
「朱莉・・残念だったな。あの水族館で食事出来なくて・・・。」
駐車場に向って歩きながら航が残念そうに言う。
「うん・・・でも仕方が無いよ。だってあんなに大きな水槽を観ながら食事が出来るお店だよ?誰だって行ってみたいと思うもの。でも・・・私は大丈夫。だってもう十分過ぎる位水族館を楽しんだから。」
朱莉は笑顔で答える。
「朱莉・・・。また・・きっといつか来れるさ。」
「そうだね・・・。私は・・・多分このまま明日香さんが赤ちゃんを産んで帰国する直前までは・・・沖縄に居る事になりそうだから。」
「朱莉・・。」
朱莉の言葉に航は胸が詰まりそうになった。
(そうだ・・。俺は2週間後には東京へ帰らなくてはならない。いや・・それどころか、大方依頼主の提示して来た証拠はもう殆ど手に入れたんだ。だからその気になれば明日東京に帰っても何の問題も無い・・・・。)
だが、航は当初の予定通り3週間は沖縄に滞在しようと考えていた。
それは朱莉を1人沖縄に置いておくのが心配だからだ。
(いや・・・違うな・・。本当は・・俺が朱莉から離れたくないだけなんだ。朱莉に取って、俺は弟のような存在でしか無いのかもしれない。でも・・それでもいいから・・ギリギリまでは朱莉の側に・・・。)
例え4カ月後に朱莉が東京に戻って来れたとしても、その時の朱莉は鳴海翔と明日香の間に出来た子供を育てていく事になるのだ。そうなると、もう航は子育てに追われる朱莉と会う事が叶わなくなるだろう。
だから、それまでの間は・・・出来るだけ東京行を引き延ばして、沖縄で朱莉との思い出を沢山作りたいと航は願っていた。
「・・・・。」
航は隣を歩く朱莉をチラリと見た。朱莉は周りの美しい風景を眺めながら歩いている。
そんな朱莉を見ながら航が言った。
「よし、朱莉。それじゃちょっと遅くなったけど、何処かで飯食って行こう!」
「うん、そうだね。何処で食べようか?」
「ああ、やっぱりここは沖縄だから、沖縄らしい食事をしないとな?実はな、朱莉と行ってみたい沖縄の郷土料理を出している店があるんだが・・・そこに行ってみないか?」
実は航は前日に既に沖縄の郷土料理を提供する店をネットで検索していたのである。
「うん、行ってみたい。連れて行って?」
「よし、決まりだ。それじゃ行こうぜ。」
そして2人は車に乗り込むと、航の運転で郷土料理の店へ向かった
「航君。あの店の料理・・・とっても美味しかったね?」
帰りの車内で朱莉が嬉しそうに航に声を掛ける。
「ああ、美味かった。ゴーヤチャンプルー定食・・・最高だったな?」
「うん。航君も気に入ったんだね?今度ネットで作り方調べたら、家で作るね?」
「おう!楽しみにしてるぜっ?」
航は笑顔で答える。
(そう、例え恋人同士にはなれなくても・・・こうして朱莉の側にいられるだけで俺はいいんだ・・・・。)
朱莉と会話をしながら、航は心の中で思うのだった—。
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