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第17話 本当は寂しがりや
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結局、この日はセシルが私の元に来ることは無かった。
そして夕方―。
「え…?フィリップが…?」
「はい、今夜は…本館で食事を取られるそうなので、エルザ様お1人でお食事をするようにとの事でした」
私にその事を伝えに来たフットマンのロビンさんが申し訳無さそうに頭を下げてきた。
「そんな、謝らないで頂戴。何も貴方のせいでは無いのだから。でも…そうなの…。フィリップは本館で食事をするのね…」
家族団欒の食事…。
私がそこに招かれないと言う事は、アンバー家の家族とは認められていない証なのだろう。
と言う事は今夜は私が1人で食事をすることに…。
でもあの広いダイニングルームで1人きりで食事をとらなければならないのは気が滅入ってしまう。
私は本来…寂しがりやだからだ。
「エルザ様?どうかされましたか?」
ロビンさんは怪訝そうな顔で尋ねてきた。
「い、いえ。あの広いダイニングルームで食事をするのは…その、少し寂しいなって思ったのよ」
私の言葉をロビンさんはじっと聞いている。
「あ、ごめんなさい。変な事を言ってしまったわよね?今の話は聞かなかったことにしてくれる?」
「それなら、こちらのお部屋にお食事を運びましょうか?」
「え?いいの?そんな事しても…?」
「ええ、勿論です。このお屋敷では食事はダイニングルームで取らなければならないと言うような決まりはありませんから」
ロビンさんはウィンクしながら話してくれた。
「本当?嬉しいわ。あ…だったら今までの食事をさらに半分減らして貰えないかしら?」
するとロビンさんは眉をしかめた。
「エルザ様。そんなに少ない食事では今に倒れてしまいますよ?」
「でも、本当にお腹が空かないのよ…」
私はこんな環境下に置かれて、平気で食事をする事が出来る程肝が据わっているわけではない。
…せめてもっと、自分の心が強ければ…こんなに食欲が失せる程落ち込むことはなかったかもしれないのに…。
「そうだ、今夜はフィリップ様もおられない事ですし、エルザ様の御好きな料理を提供するように伝えますよ。どのようなお食事が好きですか?」
「私の好きな…料理…?」
そこで少し、考えてみた。
「そうね…。ハーブをふんだんに使った料理が好きだわ。お魚でお肉でも何でもいいから。後は…ホットサンドが好きだわ。チーズやハムを挟んだ…。あ…」
つい、調子に乗って話過ぎてしまった。
「ごめんなさい、今言った…ホットサンドは忘れて頂戴」
顔を赤らめながら取り消すと、ロビンさんはクビを傾げる。
「何故、ホットサンドは取り消すのですか?」
「だ、だって…男爵家の家でホットサンドなんて庶民的な物…作らせたらシェフの人達に悪いでしょう?」
「その様な事は決してありませよ?それに謝る必要など全くありません…と言うか、エルザ様はフィリップ様の奥様ですから我々に頭を下げてはなりません」
「奥様…」
本当に私の様な立場の人間を『奥様』と呼んでいいのだろうか?夫であるフィリップからは2年以内に提出するように手渡された離婚届が引き出しに入っているのに?
「エルザ様?どうかされましたか?」
私が黙ってしまったからだろう。ロビンさんが尋ねて来た。
「いいえ、何でもないわ。それじゃホットサンドもお願い出来る?」
「ええ、勿論です。では18時にお食事をお持ちしますね?」
「お願いするわ」
「はい、承知致しました。では後程伺います」
そしてロビンさんは笑みを浮かべると、部屋から出て行った。
パタン…
扉が閉ざされると、たちまち静寂が部屋を満たす。
「セシルがもう来ないなら…また刺繍の続きでも始めましょう…」
何かをしていないと、辛いことばかり考えてしまう。
溜息一つつくと、再び刺繍の続きを再開した―。
そして夕方―。
「え…?フィリップが…?」
「はい、今夜は…本館で食事を取られるそうなので、エルザ様お1人でお食事をするようにとの事でした」
私にその事を伝えに来たフットマンのロビンさんが申し訳無さそうに頭を下げてきた。
「そんな、謝らないで頂戴。何も貴方のせいでは無いのだから。でも…そうなの…。フィリップは本館で食事をするのね…」
家族団欒の食事…。
私がそこに招かれないと言う事は、アンバー家の家族とは認められていない証なのだろう。
と言う事は今夜は私が1人で食事をすることに…。
でもあの広いダイニングルームで1人きりで食事をとらなければならないのは気が滅入ってしまう。
私は本来…寂しがりやだからだ。
「エルザ様?どうかされましたか?」
ロビンさんは怪訝そうな顔で尋ねてきた。
「い、いえ。あの広いダイニングルームで食事をするのは…その、少し寂しいなって思ったのよ」
私の言葉をロビンさんはじっと聞いている。
「あ、ごめんなさい。変な事を言ってしまったわよね?今の話は聞かなかったことにしてくれる?」
「それなら、こちらのお部屋にお食事を運びましょうか?」
「え?いいの?そんな事しても…?」
「ええ、勿論です。このお屋敷では食事はダイニングルームで取らなければならないと言うような決まりはありませんから」
ロビンさんはウィンクしながら話してくれた。
「本当?嬉しいわ。あ…だったら今までの食事をさらに半分減らして貰えないかしら?」
するとロビンさんは眉をしかめた。
「エルザ様。そんなに少ない食事では今に倒れてしまいますよ?」
「でも、本当にお腹が空かないのよ…」
私はこんな環境下に置かれて、平気で食事をする事が出来る程肝が据わっているわけではない。
…せめてもっと、自分の心が強ければ…こんなに食欲が失せる程落ち込むことはなかったかもしれないのに…。
「そうだ、今夜はフィリップ様もおられない事ですし、エルザ様の御好きな料理を提供するように伝えますよ。どのようなお食事が好きですか?」
「私の好きな…料理…?」
そこで少し、考えてみた。
「そうね…。ハーブをふんだんに使った料理が好きだわ。お魚でお肉でも何でもいいから。後は…ホットサンドが好きだわ。チーズやハムを挟んだ…。あ…」
つい、調子に乗って話過ぎてしまった。
「ごめんなさい、今言った…ホットサンドは忘れて頂戴」
顔を赤らめながら取り消すと、ロビンさんはクビを傾げる。
「何故、ホットサンドは取り消すのですか?」
「だ、だって…男爵家の家でホットサンドなんて庶民的な物…作らせたらシェフの人達に悪いでしょう?」
「その様な事は決してありませよ?それに謝る必要など全くありません…と言うか、エルザ様はフィリップ様の奥様ですから我々に頭を下げてはなりません」
「奥様…」
本当に私の様な立場の人間を『奥様』と呼んでいいのだろうか?夫であるフィリップからは2年以内に提出するように手渡された離婚届が引き出しに入っているのに?
「エルザ様?どうかされましたか?」
私が黙ってしまったからだろう。ロビンさんが尋ねて来た。
「いいえ、何でもないわ。それじゃホットサンドもお願い出来る?」
「ええ、勿論です。では18時にお食事をお持ちしますね?」
「お願いするわ」
「はい、承知致しました。では後程伺います」
そしてロビンさんは笑みを浮かべると、部屋から出て行った。
パタン…
扉が閉ざされると、たちまち静寂が部屋を満たす。
「セシルがもう来ないなら…また刺繍の続きでも始めましょう…」
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溜息一つつくと、再び刺繍の続きを再開した―。
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