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第27話 部屋を訪れた人は
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「エルザ様、お顔の色が優れないようなのでお部屋に戻りましょう」
デイブに声を掛けられて、我に返った。
「え、ええ。そうね…」
「実は今夜はエルザ様の為に特別料理を作ったのですよ」
私の前に立って歩くデイブが声を掛けてきた。
「私の好きな料理…?」
「はい、エルザ様はスフレオムレツにエンドウ豆のスープがお好きなのですよね?」
その言葉に思わず頬が赤くなる。
「え、ええ。庶民的な料理が好きで…恥ずかしいわ。でもまさか…それを用意してくれたの?」
「はい。デザートにはチェリータルトをご用意させて頂きました。お好きな料理でしたら、たとえ食欲が無くともお召し上がりになれますよね?」
デイブが笑顔を向けてきた。
「そうね…それなら食べられそうだわ。でも悪いわ。腕の良い料理人の人達にそんな庶民派の料理を用意してもらうなんて。けど…私、その料理が好きだと話したことあるかしら?」
「い、いえ…あ、あのですね…そう。実はエルザ様のお好きな料理は嫁がれる前に頂いていた釣書きに書かれておりましたので、それを元にお料理を作らせて頂いたのです」
「そうだったの?釣書きに…」
知らなかった…と言うか、私とフィリップの間に釣書きが交わされていただろうか?何しろ私は姉が駆け落ちした、後始末的な要員?でフィリップと結婚することになったのに?
「ええ、ですからこちらでエルザ様のお好きな料理を用意することが出来たのです。なので今後も食べたいメニューがありましたら、いつでも我々に教えて頂けますか?」
「ええ…でも本当にいいのかしら…?アンバー家に相応しい料理ではないかもしれないのに…」
「何をおっしゃられているのですか?エルザ様はフィリップ様の奥様なのですから、遠慮される必要はありませんからね?」
「そうね…」
けれど、私はフィリップに妻として認められていない。その事を言われる度に、胸は締め付けられ…私の胃はキリキリと痛んだ。
「エルザ様?」
私の異変に気付いたのか、デイブが立ち止まって振り向いた。もう目の前の扉は私の自室だった。
「だ、大丈夫…何ともないから…」
「何を仰るのですか?顔色が悪いですよ?すぐに主治医を呼んで参りますので、お部屋で横になってお待ち下さい」
「あ…ありがとう」
デイブの肩を借りて私は長椅子に横たわるとブランケットを掛けてくれた。
「ふぅ…」
横になると少し胃の痛みが治まった。
「でも…主治医の方ってすぐに来て下さるの?」
「ええ。実は主治医はアンバー家のすぐ近くにお住まいなのです。今から伝えに行けば15分以内にいらして頂けると思います」
「そうなの…?何だか申し訳ないわ。私の為にわざわざ来て頂くなんて。それに貴方だって色々忙しいでしょうに」
「…お気になさらないで下さい。すぐに呼んで参りますので」
それだけ告げるとデイブは急ぎ足で部屋を出て行った。
1人きりになると、私は呟いた。
「…私…少しもこの屋敷で役立っていないわね…」
ポツリと言うと、目を閉じてデイブが主治医を連れてくるのをじっと待った。
「…」
時計が規則的に時を刻む音を聞いていると何だか眠くなってきた。
そして…ウトウト仕掛けていた時、誰かが部屋に入ってくる気配を感じた。主治医の先生だろうか?
目を開けようとしたと時…。
「エルザ?」
フィリップの声が聞こえた。
「!」
私の身体に緊張が走る。どうすればよいか分からず、目を閉じて眠ったフリをしていると、足音がこちらに近付いてくる。
ど、どうして…?
フィリップの足音はすぐ側で止まった。
「エルザ…」
ポツリと私の名を呟くフィリップ。ここで目を開けようものなら、お互い気まずくなりそうだったので、私は必死で寝たフリを続けた。
すると―。
「どうして…君は…そんなに…」
絞り出すような、苦しげな声がフィリップの口から漏れている。
え…?一体フィリップは何を言おうとしているの…?
その時、私の髪にそっとフィリップが触れる気配を感じた。思わず反射で身体を動かしそうになるのを必死でこらえる。
「…」
フィリップの小さなため息が聞こえた。そして私の髪に触れていた手が離れ、更に辺りの空気が揺れ…フィリップが私から離れた気配を感じ取った。
コツコツコツ…
やがて、足音が遠ざかっていき…。
パタン…
扉が閉じる音が部屋に響き渡った―。
デイブに声を掛けられて、我に返った。
「え、ええ。そうね…」
「実は今夜はエルザ様の為に特別料理を作ったのですよ」
私の前に立って歩くデイブが声を掛けてきた。
「私の好きな料理…?」
「はい、エルザ様はスフレオムレツにエンドウ豆のスープがお好きなのですよね?」
その言葉に思わず頬が赤くなる。
「え、ええ。庶民的な料理が好きで…恥ずかしいわ。でもまさか…それを用意してくれたの?」
「はい。デザートにはチェリータルトをご用意させて頂きました。お好きな料理でしたら、たとえ食欲が無くともお召し上がりになれますよね?」
デイブが笑顔を向けてきた。
「そうね…それなら食べられそうだわ。でも悪いわ。腕の良い料理人の人達にそんな庶民派の料理を用意してもらうなんて。けど…私、その料理が好きだと話したことあるかしら?」
「い、いえ…あ、あのですね…そう。実はエルザ様のお好きな料理は嫁がれる前に頂いていた釣書きに書かれておりましたので、それを元にお料理を作らせて頂いたのです」
「そうだったの?釣書きに…」
知らなかった…と言うか、私とフィリップの間に釣書きが交わされていただろうか?何しろ私は姉が駆け落ちした、後始末的な要員?でフィリップと結婚することになったのに?
「ええ、ですからこちらでエルザ様のお好きな料理を用意することが出来たのです。なので今後も食べたいメニューがありましたら、いつでも我々に教えて頂けますか?」
「ええ…でも本当にいいのかしら…?アンバー家に相応しい料理ではないかもしれないのに…」
「何をおっしゃられているのですか?エルザ様はフィリップ様の奥様なのですから、遠慮される必要はありませんからね?」
「そうね…」
けれど、私はフィリップに妻として認められていない。その事を言われる度に、胸は締め付けられ…私の胃はキリキリと痛んだ。
「エルザ様?」
私の異変に気付いたのか、デイブが立ち止まって振り向いた。もう目の前の扉は私の自室だった。
「だ、大丈夫…何ともないから…」
「何を仰るのですか?顔色が悪いですよ?すぐに主治医を呼んで参りますので、お部屋で横になってお待ち下さい」
「あ…ありがとう」
デイブの肩を借りて私は長椅子に横たわるとブランケットを掛けてくれた。
「ふぅ…」
横になると少し胃の痛みが治まった。
「でも…主治医の方ってすぐに来て下さるの?」
「ええ。実は主治医はアンバー家のすぐ近くにお住まいなのです。今から伝えに行けば15分以内にいらして頂けると思います」
「そうなの…?何だか申し訳ないわ。私の為にわざわざ来て頂くなんて。それに貴方だって色々忙しいでしょうに」
「…お気になさらないで下さい。すぐに呼んで参りますので」
それだけ告げるとデイブは急ぎ足で部屋を出て行った。
1人きりになると、私は呟いた。
「…私…少しもこの屋敷で役立っていないわね…」
ポツリと言うと、目を閉じてデイブが主治医を連れてくるのをじっと待った。
「…」
時計が規則的に時を刻む音を聞いていると何だか眠くなってきた。
そして…ウトウト仕掛けていた時、誰かが部屋に入ってくる気配を感じた。主治医の先生だろうか?
目を開けようとしたと時…。
「エルザ?」
フィリップの声が聞こえた。
「!」
私の身体に緊張が走る。どうすればよいか分からず、目を閉じて眠ったフリをしていると、足音がこちらに近付いてくる。
ど、どうして…?
フィリップの足音はすぐ側で止まった。
「エルザ…」
ポツリと私の名を呟くフィリップ。ここで目を開けようものなら、お互い気まずくなりそうだったので、私は必死で寝たフリを続けた。
すると―。
「どうして…君は…そんなに…」
絞り出すような、苦しげな声がフィリップの口から漏れている。
え…?一体フィリップは何を言おうとしているの…?
その時、私の髪にそっとフィリップが触れる気配を感じた。思わず反射で身体を動かしそうになるのを必死でこらえる。
「…」
フィリップの小さなため息が聞こえた。そして私の髪に触れていた手が離れ、更に辺りの空気が揺れ…フィリップが私から離れた気配を感じ取った。
コツコツコツ…
やがて、足音が遠ざかっていき…。
パタン…
扉が閉じる音が部屋に響き渡った―。
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