28 / 204
第27話 部屋を訪れた人は
しおりを挟む
「エルザ様、お顔の色が優れないようなのでお部屋に戻りましょう」
デイブに声を掛けられて、我に返った。
「え、ええ。そうね…」
「実は今夜はエルザ様の為に特別料理を作ったのですよ」
私の前に立って歩くデイブが声を掛けてきた。
「私の好きな料理…?」
「はい、エルザ様はスフレオムレツにエンドウ豆のスープがお好きなのですよね?」
その言葉に思わず頬が赤くなる。
「え、ええ。庶民的な料理が好きで…恥ずかしいわ。でもまさか…それを用意してくれたの?」
「はい。デザートにはチェリータルトをご用意させて頂きました。お好きな料理でしたら、たとえ食欲が無くともお召し上がりになれますよね?」
デイブが笑顔を向けてきた。
「そうね…それなら食べられそうだわ。でも悪いわ。腕の良い料理人の人達にそんな庶民派の料理を用意してもらうなんて。けど…私、その料理が好きだと話したことあるかしら?」
「い、いえ…あ、あのですね…そう。実はエルザ様のお好きな料理は嫁がれる前に頂いていた釣書きに書かれておりましたので、それを元にお料理を作らせて頂いたのです」
「そうだったの?釣書きに…」
知らなかった…と言うか、私とフィリップの間に釣書きが交わされていただろうか?何しろ私は姉が駆け落ちした、後始末的な要員?でフィリップと結婚することになったのに?
「ええ、ですからこちらでエルザ様のお好きな料理を用意することが出来たのです。なので今後も食べたいメニューがありましたら、いつでも我々に教えて頂けますか?」
「ええ…でも本当にいいのかしら…?アンバー家に相応しい料理ではないかもしれないのに…」
「何をおっしゃられているのですか?エルザ様はフィリップ様の奥様なのですから、遠慮される必要はありませんからね?」
「そうね…」
けれど、私はフィリップに妻として認められていない。その事を言われる度に、胸は締め付けられ…私の胃はキリキリと痛んだ。
「エルザ様?」
私の異変に気付いたのか、デイブが立ち止まって振り向いた。もう目の前の扉は私の自室だった。
「だ、大丈夫…何ともないから…」
「何を仰るのですか?顔色が悪いですよ?すぐに主治医を呼んで参りますので、お部屋で横になってお待ち下さい」
「あ…ありがとう」
デイブの肩を借りて私は長椅子に横たわるとブランケットを掛けてくれた。
「ふぅ…」
横になると少し胃の痛みが治まった。
「でも…主治医の方ってすぐに来て下さるの?」
「ええ。実は主治医はアンバー家のすぐ近くにお住まいなのです。今から伝えに行けば15分以内にいらして頂けると思います」
「そうなの…?何だか申し訳ないわ。私の為にわざわざ来て頂くなんて。それに貴方だって色々忙しいでしょうに」
「…お気になさらないで下さい。すぐに呼んで参りますので」
それだけ告げるとデイブは急ぎ足で部屋を出て行った。
1人きりになると、私は呟いた。
「…私…少しもこの屋敷で役立っていないわね…」
ポツリと言うと、目を閉じてデイブが主治医を連れてくるのをじっと待った。
「…」
時計が規則的に時を刻む音を聞いていると何だか眠くなってきた。
そして…ウトウト仕掛けていた時、誰かが部屋に入ってくる気配を感じた。主治医の先生だろうか?
目を開けようとしたと時…。
「エルザ?」
フィリップの声が聞こえた。
「!」
私の身体に緊張が走る。どうすればよいか分からず、目を閉じて眠ったフリをしていると、足音がこちらに近付いてくる。
ど、どうして…?
フィリップの足音はすぐ側で止まった。
「エルザ…」
ポツリと私の名を呟くフィリップ。ここで目を開けようものなら、お互い気まずくなりそうだったので、私は必死で寝たフリを続けた。
すると―。
「どうして…君は…そんなに…」
絞り出すような、苦しげな声がフィリップの口から漏れている。
え…?一体フィリップは何を言おうとしているの…?
その時、私の髪にそっとフィリップが触れる気配を感じた。思わず反射で身体を動かしそうになるのを必死でこらえる。
「…」
フィリップの小さなため息が聞こえた。そして私の髪に触れていた手が離れ、更に辺りの空気が揺れ…フィリップが私から離れた気配を感じ取った。
コツコツコツ…
やがて、足音が遠ざかっていき…。
パタン…
扉が閉じる音が部屋に響き渡った―。
デイブに声を掛けられて、我に返った。
「え、ええ。そうね…」
「実は今夜はエルザ様の為に特別料理を作ったのですよ」
私の前に立って歩くデイブが声を掛けてきた。
「私の好きな料理…?」
「はい、エルザ様はスフレオムレツにエンドウ豆のスープがお好きなのですよね?」
その言葉に思わず頬が赤くなる。
「え、ええ。庶民的な料理が好きで…恥ずかしいわ。でもまさか…それを用意してくれたの?」
「はい。デザートにはチェリータルトをご用意させて頂きました。お好きな料理でしたら、たとえ食欲が無くともお召し上がりになれますよね?」
デイブが笑顔を向けてきた。
「そうね…それなら食べられそうだわ。でも悪いわ。腕の良い料理人の人達にそんな庶民派の料理を用意してもらうなんて。けど…私、その料理が好きだと話したことあるかしら?」
「い、いえ…あ、あのですね…そう。実はエルザ様のお好きな料理は嫁がれる前に頂いていた釣書きに書かれておりましたので、それを元にお料理を作らせて頂いたのです」
「そうだったの?釣書きに…」
知らなかった…と言うか、私とフィリップの間に釣書きが交わされていただろうか?何しろ私は姉が駆け落ちした、後始末的な要員?でフィリップと結婚することになったのに?
「ええ、ですからこちらでエルザ様のお好きな料理を用意することが出来たのです。なので今後も食べたいメニューがありましたら、いつでも我々に教えて頂けますか?」
「ええ…でも本当にいいのかしら…?アンバー家に相応しい料理ではないかもしれないのに…」
「何をおっしゃられているのですか?エルザ様はフィリップ様の奥様なのですから、遠慮される必要はありませんからね?」
「そうね…」
けれど、私はフィリップに妻として認められていない。その事を言われる度に、胸は締め付けられ…私の胃はキリキリと痛んだ。
「エルザ様?」
私の異変に気付いたのか、デイブが立ち止まって振り向いた。もう目の前の扉は私の自室だった。
「だ、大丈夫…何ともないから…」
「何を仰るのですか?顔色が悪いですよ?すぐに主治医を呼んで参りますので、お部屋で横になってお待ち下さい」
「あ…ありがとう」
デイブの肩を借りて私は長椅子に横たわるとブランケットを掛けてくれた。
「ふぅ…」
横になると少し胃の痛みが治まった。
「でも…主治医の方ってすぐに来て下さるの?」
「ええ。実は主治医はアンバー家のすぐ近くにお住まいなのです。今から伝えに行けば15分以内にいらして頂けると思います」
「そうなの…?何だか申し訳ないわ。私の為にわざわざ来て頂くなんて。それに貴方だって色々忙しいでしょうに」
「…お気になさらないで下さい。すぐに呼んで参りますので」
それだけ告げるとデイブは急ぎ足で部屋を出て行った。
1人きりになると、私は呟いた。
「…私…少しもこの屋敷で役立っていないわね…」
ポツリと言うと、目を閉じてデイブが主治医を連れてくるのをじっと待った。
「…」
時計が規則的に時を刻む音を聞いていると何だか眠くなってきた。
そして…ウトウト仕掛けていた時、誰かが部屋に入ってくる気配を感じた。主治医の先生だろうか?
目を開けようとしたと時…。
「エルザ?」
フィリップの声が聞こえた。
「!」
私の身体に緊張が走る。どうすればよいか分からず、目を閉じて眠ったフリをしていると、足音がこちらに近付いてくる。
ど、どうして…?
フィリップの足音はすぐ側で止まった。
「エルザ…」
ポツリと私の名を呟くフィリップ。ここで目を開けようものなら、お互い気まずくなりそうだったので、私は必死で寝たフリを続けた。
すると―。
「どうして…君は…そんなに…」
絞り出すような、苦しげな声がフィリップの口から漏れている。
え…?一体フィリップは何を言おうとしているの…?
その時、私の髪にそっとフィリップが触れる気配を感じた。思わず反射で身体を動かしそうになるのを必死でこらえる。
「…」
フィリップの小さなため息が聞こえた。そして私の髪に触れていた手が離れ、更に辺りの空気が揺れ…フィリップが私から離れた気配を感じ取った。
コツコツコツ…
やがて、足音が遠ざかっていき…。
パタン…
扉が閉じる音が部屋に響き渡った―。
247
あなたにおすすめの小説
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください>
私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
タイムリープ〜悪女の烙印を押された私はもう二度と失敗しない
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
<もうあなた方の事は信じません>―私が二度目の人生を生きている事は誰にも内緒―
私の名前はアイリス・イリヤ。王太子の婚約者だった。2年越しにようやく迎えた婚約式の発表の日、何故か<私>は大観衆の中にいた。そして婚約者である王太子の側に立っていたのは彼に付きまとっていたクラスメイト。この国の国王陛下は告げた。
「アイリス・イリヤとの婚約を解消し、ここにいるタバサ・オルフェンを王太子の婚約者とする!」
その場で身に覚えの無い罪で悪女として捕らえられた私は島流しに遭い、寂しい晩年を迎えた・・・はずが、守護神の力で何故か婚約式発表の2年前に逆戻り。タイムリープの力ともう一つの力を手に入れた二度目の人生。目の前には私を騙した人達がいる。もう騙されない。同じ失敗は繰り返さないと私は心に誓った。
※カクヨム・小説家になろうにも掲載しています
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
拝啓、許婚様。私は貴方のことが大嫌いでした
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【ある日僕の元に許婚から恋文ではなく、婚約破棄の手紙が届けられた】
僕には子供の頃から決められている許婚がいた。けれどお互い特に相手のことが好きと言うわけでもなく、月に2度の『デート』と言う名目の顔合わせをするだけの間柄だった。そんなある日僕の元に許婚から手紙が届いた。そこに記されていた内容は婚約破棄を告げる内容だった。あまりにも理不尽な内容に不服を抱いた僕は、逆に彼女を遣り込める計画を立てて許婚の元へ向かった――。
※他サイトでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる