挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

文字の大きさ
102 / 204

第100話 フィリップの決意

しおりを挟む
「フィリップ。いいか?いくらなんでもこの世にはついてはいけない嘘というものがあるのだぞ?」

「ええ、そうよ。まさに今のような嘘よ。親を心配させるような嘘を付くのはおよしなさい」

「え…?」

義父母の話に私は驚いた。
まさか2人はフィリップが病気だという話を嘘だと思っているなんて。
彼の顔色の悪さや、痩せてしまった身体を目にしているのにどうしてそんな事が言えるのだろう。

「フィリップ…」

私は隣に座るフィリップを見た。

「…」

フィリップは唇を噛んで少しの間、黙っていたけれどもやがてため息を付いた。

「やはり…あなた方ならそう言うと思っていました。恐らく僕の口から説明しても信じてはもらえないだろうと思っておりましたけど…」

そして次にフィリップは胸元のポケットから1通の封筒を取り出し、テーブルの上に置いた。

「…何だ?これは?」

お義父様が封筒を見て尋ねてきた。

「…病院からの診断書です。目を通して下さい」

「…」

未だに訝しげな視線をフィリップに送りながらお義父様は封筒から手紙を取り出し、広げた。

「私にも見せてくださいな」

お義母様が手紙を覗き込んでくる。

「ああ、そうだな。2人で読もう」

そして2人は食い入るように手紙を読み始めた。

まさか…診断書まで用意していたなんて…。
フィリップを見ると、彼は私の視線に気付いたのかニコリと微笑んできた。

フィリップ…。

その時―。

「な、何だってっ?!ほ…本当にお前は胃癌だったのかっ?!」

「そ、そんな…せいぜい持っても…後半年?日付は…先月じゃないのっ!」

お義母様は悲鳴じみた声を上げた。

私は2人の様子を絶望的な気持ちで見つめていた。

お医者様がフィリップに下した余命は後せいぜい半年…。そして日付は先月のもの。
だとすると、フィリップの余命は後5ヶ月ということだ。

私の出産迄…彼の命は本当に持つのだろうか…。
思わず俯くと、フィリップが私にだけ聞こえる声で囁いてきた。

「大丈夫、産まれてくる子供の顔を見るまでは…僕は絶対に死なないからね」

「フィリップ…」


すると向かい側に座っていたお義父様が声を荒らげた。

「フィリップッ!何故、こんな大事なことを今まで黙っていたのだっ?!お前にはまだまだ任せたい仕事が沢山あるのに…!」

驚いたことに、この場になってもお義父様はフィリップの身体の心配どころか、家の事を心配している。

「あなたっ!それよりも今はフィリップのことでしょう?!あの子は…胃癌で…もう半年も生きられないのよっ?!」

流石にお義母様はフィリップのことが心配なのか、涙混じりに訴えた。

するとフィリップは静かな声で言った。

「仕事のことなら心配いりません。もう僕の仕事の全てはセシルに引き継ぎしましたから」

「何?セシルだと?だがセシルはこの家の仕事は継ぐ気はないと言っていたが…?」


「いいえ、俺はこの家の仕事をやることに決めました。もう兄さんから全て仕事は引き継ぎましたから。そして兄さんは今日で仕事を引退しました」

すると驚いたことに部屋の中にいきなりセシルが入ってきた。

「何だってっ?!」
「何ですってっ?!」

義父母が同時に声をあげた。

「ええ、そうです。僕は全ての仕事から身を引きます。そして残り僅かな人生を…妻であるエルザとこれから産まれてくる子供の為に捧げるつもりです」

フィリップはきっぱり言い放った―。

しおりを挟む
感想 171

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi(がっち)
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います <子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。> 両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。 ※ 本編完結済。他視点での話、継続中。 ※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています ※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

はずれのわたしで、ごめんなさい。

ふまさ
恋愛
 姉のベティは、学園でも有名になるほど綺麗で聡明な当たりのマイヤー伯爵令嬢。妹のアリシアは、ガリで陰気なはずれのマイヤー伯爵令嬢。そう学園のみなが陰であだ名していることは、アリシアも承知していた。傷付きはするが、もう慣れた。いちいち泣いてもいられない。  婚約者のマイクも、アリシアのことを幽霊のようだの暗いだのと陰口をたたいている。マイクは伯爵家の令息だが、家は没落の危機だと聞く。嫁の貰い手がないと家の名に傷がつくという理由で、アリシアの父親は持参金を多めに出すという条件でマイクとの婚約を成立させた。いわば政略結婚だ。  こんなわたしと結婚なんて、気の毒に。と、逆にマイクに同情するアリシア。  そんな諦めにも似たアリシアの日常を壊し、救ってくれたのは──。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

処理中です...