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第3章 8 別人の彼

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 私とオスカーは向かい合わせに座って食事をしていたが、こんな風に2人きりで食事を取った事等は無かったので、何を話せばよいのか分からなかった。おまけに昨夜のオスカーと今のオスカーは外見はそっくりだが中身はまるで違う、別人だ。
更に昨夜毎日一緒にアカデミーへ通うために馬車を寄こすと言った会話すら記憶していなかった。という事は・・・
私はチラリと目の前に座るオスカーを見ながら思った。やはり今、私の目の前にいるオスカーは影武者・・・?
その時、私はオスカーと目が合ってしまった。

しまったっ!

咄嗟に私は視線を逸らせ、その後はステーキをカットする事に集中していたのだが、オスカーの刺すような視線を感じてしまい、居心地が悪くて堪らなかった。
いや・・・最初から居心地は悪かったのだが、今は2割増し位になっている。

「おい、アイリス・イリヤ。」

不意に名前を呼ばれて私は慌てて顔を上げた。

「は、はい。」

するとオスカーが言った。

「ただこうして先程から無言で食事をしているのも味気ない。何か話せ。」

オスカーは肉料理を口に運びながら言う。

「え・・・?」

そ、そんな・・・急に何か話せと言われても・・困る。私は前世も今世もオスカーとはほとんど接点がないので、趣味も何も分からない。あ、それなら・・今のオスカーに何か質問をぶつけてみよう。

「あの・・・それではお話というよりも質問になってしまうのですが・・。」

「質問?この俺にか?」

「はい、そうです・・・。私はオスカー様の婚約者ではありますが・・オスカー様の事を殆ど何も知りませんので・・・。」

「・・・ふん、まあいい。それじゃ何か質問してみろ。」

オスカーはつまらなそうに言う。

「オスカー様はお休みの日はどのようにして過ごされているのですか?」

するとニヤリとオスカーは口元を歪めるように笑った。

「そうだな・・・。実は俺は犬を2匹飼っているんだが・・・。」

え?犬・・?
私の身体に一気に緊張が走る。前世の世界ではアカデミー入学後の2か月が過ぎた頃に突如オスカーが獰猛な犬を2匹連れてきて、私を襲わせようとして・・私を庇ったリリーが噛まれてしまい、狂犬病にかかって1カ月後に死んでしまった―。
私の記憶が呼び戻され・・・一気に気が遠くなりそうになった。
いけない・・・!
このままではまた気を失ってしまうかもしれない。しかも今私の目の前にいるのは昨日とは違う・・・危険なオスカーなのだ。何とか持ちこたえなければ・・・。

「どうした?アイリス・イリヤ。顔色が随分悪いようだが・・?」

オスカーはニヤニヤしながら私の方を見ている。

「い、いえ・・・そんな事は・・。」

眩暈がする頭を必死で耐える私。

「ああ・・そうか。アイリス・イリヤ。お前は・・・犬が苦手なのだな?だとしたら犬に慣れておく必要がありそうだな?」

「え・・?犬に慣れておく必要・・?」

ああ・・・そうか・・。私が事前にオスカーの飼い犬に慣れておけば・・・私は・・・。でも・・駄目だ・・これ以上はもう私の意識が持たない・・・。

そして目の前が真っ暗になってしまった―。


< アイリス・・アイリス・・・聞こえる・・・?どうもまだ身体が今の現状に馴染んでいないみたいだね・・・。いや・・・きっと原因はそれだけじゃないみたいだね・・。アイリス・・もっと僕の力を分けてあげるよ。そうすれば君はまた別の能力に芽生える事が出来るし、今の身体に魂がもっと馴染むはずだから・・・。 >

誰・・・?私に話しかけるのは・・・?それに・・・前もこんな風に誰かに話しかけられた記憶が残っている・・・。

< うん。そうだよ・・・前もこうやって夢の中の君に話しかけた事があるよ・・。それよりアイリス、早く目を覚まして・・。そこは安全とは言い難い場所なんだ・・。だから早く目を・・・。 >

「!」

そこで、私は突然意識が覚醒して眼を開けた―。








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