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『人魚姫』の王子の隣国に住む姫の場合 3
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1
その日から毎日ヴァネッサは諦める事無く海へ行き、メルジーナを呼び続けた。
「メルジーナーッ!聞こえたら返事してちょうだーいっ!」
それを1日3回、朝・昼・夕と繰り返す。終いに海辺で働く漁師達と顔見知りになり、会話を交わすほどの中になっていたが、それでもメルジーナは現れない。
「どうだい、姫さん?今日も人魚姫には会えなかったのかい?」
一番年配の男性が気さくに声を掛けて来た。
「ええ、そうなの・・・。困ったわ。メルジーナとお友達になりたいのに・・・。」
ヴァネッサは溜息をつくと、海から流れ着いた切り株に座った。
「姫さん。良かったら・・これ・・・。あげるよ。」
赤毛の若者が顔を赤らめながら真珠を差し出してきた。
「まあ、綺麗・・・。ジャック。この真珠・・どうしたの?」
「この間・・・アコヤガイを網で取ったら、その中の一つに真珠が入っていたんだ。それで・・・姫様にどうかと思って・・。」
ジャックと呼ばれた若者は顔を赤らめながら言った。
「でも・・・ジャック。私がこれを貰っていいの?、もし恋人がいるならその方にあげた方がいいんじゃないかしら?」
すると他の漁師が言った。
「ハッハッハ!姫さん。こいつには恋人なんかいやしないんですって。両親もいなくて独り身なんですよ。」
ジャックの肩に手を置くと言った。
「まあ・・・そうだったの?ジャック。それなら・・尚の事この真珠は貴方が持っていた方がいいわ。」
ヴァネッサはジャックに真珠を返すと言った。
「え・・?姫様・・・?ひょっとして俺みたいな男からのプレゼントは・・迷惑でしたか?」
ジャックは悲し気に目を伏せると言った。
「いいえ。そうじゃ無いわ。いずれ貴女は素敵な恋人が出来て、いつか結婚するかもしれないでしょう?そしたらその女性にあげて?それに真珠は高価な品だから、お金に困った時は貴族に売りつければ・・きっと高値で買ってくれると思うから。」
「姫様・・・・分かりました。姫様の言う通りにしますよ。」
ジャックは真珠を握りしめると笑顔で答えた。
「ジャックは素敵な人だから、きっと今に恋人が出来るわ。頑張ってね?」
ヴァネッサが笑顔で漁師たちと会話をしている姿を海の中からじっと聞いている影がある事に、ヴァネッサは気が付いていなかった—。
2
また別の日の昼―
今日もヴァネッサは海に来ていた。
「メルジーナーッ!今日はねーお菓子を持って来たのー!良かったら出てきて一緒に食べませんかー?!」
バスケットを海に向かって差し出しながらヴァネッサは呼びかけた。しかし、返事は一度も返ってくる事無く、波の打ち寄せる音しか聞こえてこない。
「はあ・・・今日も駄目か・・・。」
最早自分の特等席の様になってしまった切り株に座るとヴァネッサはため息をついた。日傘をさして、バスケットの中のクッキーを食べてニッコリ微笑んだ。
「うん、やっぱり城の料理長の作ったクッキーは最高ね・・・。」
そして2枚目を食べようとした時に気が付いた。
「そうだ!メルジーナ。このバスケットをここに置いて行くから良かったら食べて。とっても美味しいのよ?」
そしてバスケットを大きな岩の上に乗せると、ヴァネッサはその場を後にした。
「・・・・。」
ヴァネッサが砂浜を去り、10分程経過したころ・・・辺りをキョロキョロと見渡す人影があった。
その人影は周囲に人の姿が見えない事に気が付くと岩陰から手を伸ばしてバスケットを惹きよせ、夢中になってクッキーを食べ始めるのだった—。
夕刻―
いつもと同じ時間に海にやって来たヴァネッサは岩の上にバスケットが残されている事に気が付いた。
「やっぱり・・・メルジーナ・・・来ていないよね・・・。」
溜息をつきながらバスケットに手を伸ばすと、妙に軽い事に気が付いた。
「え?まさか!」
ヴァネッサは慌ててバスケットの蓋を開けると、大量に入っていたクッキーが全て空になっている事に気がついた。
「ま、まさか・・・鳥にでも食べられちゃったかしら・・・あら・?」
その時、ヴァネッサはバスケットの中に何か入っている事に気が付いた。取り出してみてヴァネッサは驚いた。
「まあ・・・!これは・・・べっ甲だわ!こんなに大きなべっ甲・・・生まれて初めて見る・・。え?ま、まさか・・・。」
ヴァネッサは海に向かって叫んだ。
「メルジーナッ!メルジーナなのね?ありがとう!メルジーナッ!明日も・・・明日も来るわね。私・・・貴女とお友達になりたいのっ!このべっ甲・・・宝物として・・大事にするわ!」
ヴァネッサは夕日に染まりキラキラと光るオレンジ色の空をいつまでも見ていた―。
3
翌日・・・今朝もヴァネッサはバスケットを持っていつもの浜辺へとやって来ていた。今日メルジーナの為に持って来たのはチョコレートである。
「フフフ・・・メルジーナ・・・喜んでくれるかしら・・・・。」
そしていつものように切り株にすわり、1つチョコレートを口に入れる。
ほろ苦い甘さが口の中に途端に広がる。ヴァネッサは満足げに笑みを浮かべると、い
つものようにメルジーナの名を呼んだ。
「メルジーナーッ!今日はねー!チョコレートを持って来たのよーっ!」
そして昨日と同じようにヴァネッサはバスケットを岩の上に置いた。そして切り株に座って海を眺めていると、突然背後から声を掛けられた。
「よお・・・姫さん・・。」
振り向くと、そこに立っていたのは時々顔を見た事のある若い漁師だった。
この漁師は真面目なジャックとは違い、不真面目で時折酒に酔って暴れている姿を見かけた事がある。正直に言うと・・ヴァネッサはこの男が苦手だった。
(怖い・・・。)
辺りをキョロキョロ見渡すも、今日に限って海辺には人の姿が見えない。
「わ、私・・・帰ります。」
立ち上がって逃げ出したと途端。両足を掴まれて砂浜に転ばされた。
そしてそのままグルリと男の方を向かされると、突然男はヴァネッサに唇を押し付けて来た。
「!」
あまりの突然の出来事にヴァネッサは恐怖で暴れたが、男の力が強すぎて振り払えない。
男は唇を離すと言った。
「やっぱり姫さんとのキスは最高だなあ・・・。」
下卑た笑みで舌なめずりをしながら見下ろ男の姿に恐怖で身体が震えた。
すると今度は男はヴァネッサの口を手で押さえると、空いている手で胸元のドレスを引きちぎった。
途端に露わになるヴァネッサの白い肌。
「ほーう。これはいい眺めだ・・。」
男は言うと、ヴァネッサの身体を嫌らしい手つきでまさぐって来た。
「い、いやああっ!!や、やめてっ!!」
恐怖で涙を流しながら暴れるも男はその手を緩めない。
「だ、誰かっ!誰か助けてっ!!」
泣き叫ぶも男は耳元で言った。
「ヘ・・・・ッ。暴れても誰も来やしないよ、第一波の音で姫さんの悲鳴はかき消されるからな。」
男の言葉にヴァネッサが絶望的になった時・・・・。
突然波が意識を持って、男の身体にロープの様に巻き付くと、男は空中に持ちあげられた。
「ウワアアアッ!!な、なんだっ?!一体何だって言うんだよっ!!」
男はそのまま今度は海に真っ逆さまに沈まされ・・・二度と上がって来る事は無かった。
「あ・・・。」
ヴァネッサはビリビリに破かれて開けてしまった胸を、ドレスの切れ端で隠しながら涙で濡れた顔で俯き、ブルブル震えていると、突然声を掛けられた。
「大丈夫だった?」
それはとても美しい声だった。
顔を上げると、そこには太陽を背にヴァネッサを見下ろしている人物がいた。
「メ・・・メルジーナ・・・?」
ヴァネッサは涙声で呼んだ。
「ええ、そうよ。メルジーナよ。」
人魚姫は微笑んだ。
「こ・・・怖かった・・・っ!!」
ヴァネッサはメルジーナに抱き付き、身体を震わせて泣いた。
そしてそんなヴァネッサをメルジーナは優しく抱きしめるのだった—。
その日から毎日ヴァネッサは諦める事無く海へ行き、メルジーナを呼び続けた。
「メルジーナーッ!聞こえたら返事してちょうだーいっ!」
それを1日3回、朝・昼・夕と繰り返す。終いに海辺で働く漁師達と顔見知りになり、会話を交わすほどの中になっていたが、それでもメルジーナは現れない。
「どうだい、姫さん?今日も人魚姫には会えなかったのかい?」
一番年配の男性が気さくに声を掛けて来た。
「ええ、そうなの・・・。困ったわ。メルジーナとお友達になりたいのに・・・。」
ヴァネッサは溜息をつくと、海から流れ着いた切り株に座った。
「姫さん。良かったら・・これ・・・。あげるよ。」
赤毛の若者が顔を赤らめながら真珠を差し出してきた。
「まあ、綺麗・・・。ジャック。この真珠・・どうしたの?」
「この間・・・アコヤガイを網で取ったら、その中の一つに真珠が入っていたんだ。それで・・・姫様にどうかと思って・・。」
ジャックと呼ばれた若者は顔を赤らめながら言った。
「でも・・・ジャック。私がこれを貰っていいの?、もし恋人がいるならその方にあげた方がいいんじゃないかしら?」
すると他の漁師が言った。
「ハッハッハ!姫さん。こいつには恋人なんかいやしないんですって。両親もいなくて独り身なんですよ。」
ジャックの肩に手を置くと言った。
「まあ・・・そうだったの?ジャック。それなら・・尚の事この真珠は貴方が持っていた方がいいわ。」
ヴァネッサはジャックに真珠を返すと言った。
「え・・?姫様・・・?ひょっとして俺みたいな男からのプレゼントは・・迷惑でしたか?」
ジャックは悲し気に目を伏せると言った。
「いいえ。そうじゃ無いわ。いずれ貴女は素敵な恋人が出来て、いつか結婚するかもしれないでしょう?そしたらその女性にあげて?それに真珠は高価な品だから、お金に困った時は貴族に売りつければ・・きっと高値で買ってくれると思うから。」
「姫様・・・・分かりました。姫様の言う通りにしますよ。」
ジャックは真珠を握りしめると笑顔で答えた。
「ジャックは素敵な人だから、きっと今に恋人が出来るわ。頑張ってね?」
ヴァネッサが笑顔で漁師たちと会話をしている姿を海の中からじっと聞いている影がある事に、ヴァネッサは気が付いていなかった—。
2
また別の日の昼―
今日もヴァネッサは海に来ていた。
「メルジーナーッ!今日はねーお菓子を持って来たのー!良かったら出てきて一緒に食べませんかー?!」
バスケットを海に向かって差し出しながらヴァネッサは呼びかけた。しかし、返事は一度も返ってくる事無く、波の打ち寄せる音しか聞こえてこない。
「はあ・・・今日も駄目か・・・。」
最早自分の特等席の様になってしまった切り株に座るとヴァネッサはため息をついた。日傘をさして、バスケットの中のクッキーを食べてニッコリ微笑んだ。
「うん、やっぱり城の料理長の作ったクッキーは最高ね・・・。」
そして2枚目を食べようとした時に気が付いた。
「そうだ!メルジーナ。このバスケットをここに置いて行くから良かったら食べて。とっても美味しいのよ?」
そしてバスケットを大きな岩の上に乗せると、ヴァネッサはその場を後にした。
「・・・・。」
ヴァネッサが砂浜を去り、10分程経過したころ・・・辺りをキョロキョロと見渡す人影があった。
その人影は周囲に人の姿が見えない事に気が付くと岩陰から手を伸ばしてバスケットを惹きよせ、夢中になってクッキーを食べ始めるのだった—。
夕刻―
いつもと同じ時間に海にやって来たヴァネッサは岩の上にバスケットが残されている事に気が付いた。
「やっぱり・・・メルジーナ・・・来ていないよね・・・。」
溜息をつきながらバスケットに手を伸ばすと、妙に軽い事に気が付いた。
「え?まさか!」
ヴァネッサは慌ててバスケットの蓋を開けると、大量に入っていたクッキーが全て空になっている事に気がついた。
「ま、まさか・・・鳥にでも食べられちゃったかしら・・・あら・?」
その時、ヴァネッサはバスケットの中に何か入っている事に気が付いた。取り出してみてヴァネッサは驚いた。
「まあ・・・!これは・・・べっ甲だわ!こんなに大きなべっ甲・・・生まれて初めて見る・・。え?ま、まさか・・・。」
ヴァネッサは海に向かって叫んだ。
「メルジーナッ!メルジーナなのね?ありがとう!メルジーナッ!明日も・・・明日も来るわね。私・・・貴女とお友達になりたいのっ!このべっ甲・・・宝物として・・大事にするわ!」
ヴァネッサは夕日に染まりキラキラと光るオレンジ色の空をいつまでも見ていた―。
3
翌日・・・今朝もヴァネッサはバスケットを持っていつもの浜辺へとやって来ていた。今日メルジーナの為に持って来たのはチョコレートである。
「フフフ・・・メルジーナ・・・喜んでくれるかしら・・・・。」
そしていつものように切り株にすわり、1つチョコレートを口に入れる。
ほろ苦い甘さが口の中に途端に広がる。ヴァネッサは満足げに笑みを浮かべると、い
つものようにメルジーナの名を呼んだ。
「メルジーナーッ!今日はねー!チョコレートを持って来たのよーっ!」
そして昨日と同じようにヴァネッサはバスケットを岩の上に置いた。そして切り株に座って海を眺めていると、突然背後から声を掛けられた。
「よお・・・姫さん・・。」
振り向くと、そこに立っていたのは時々顔を見た事のある若い漁師だった。
この漁師は真面目なジャックとは違い、不真面目で時折酒に酔って暴れている姿を見かけた事がある。正直に言うと・・ヴァネッサはこの男が苦手だった。
(怖い・・・。)
辺りをキョロキョロ見渡すも、今日に限って海辺には人の姿が見えない。
「わ、私・・・帰ります。」
立ち上がって逃げ出したと途端。両足を掴まれて砂浜に転ばされた。
そしてそのままグルリと男の方を向かされると、突然男はヴァネッサに唇を押し付けて来た。
「!」
あまりの突然の出来事にヴァネッサは恐怖で暴れたが、男の力が強すぎて振り払えない。
男は唇を離すと言った。
「やっぱり姫さんとのキスは最高だなあ・・・。」
下卑た笑みで舌なめずりをしながら見下ろ男の姿に恐怖で身体が震えた。
すると今度は男はヴァネッサの口を手で押さえると、空いている手で胸元のドレスを引きちぎった。
途端に露わになるヴァネッサの白い肌。
「ほーう。これはいい眺めだ・・。」
男は言うと、ヴァネッサの身体を嫌らしい手つきでまさぐって来た。
「い、いやああっ!!や、やめてっ!!」
恐怖で涙を流しながら暴れるも男はその手を緩めない。
「だ、誰かっ!誰か助けてっ!!」
泣き叫ぶも男は耳元で言った。
「ヘ・・・・ッ。暴れても誰も来やしないよ、第一波の音で姫さんの悲鳴はかき消されるからな。」
男の言葉にヴァネッサが絶望的になった時・・・・。
突然波が意識を持って、男の身体にロープの様に巻き付くと、男は空中に持ちあげられた。
「ウワアアアッ!!な、なんだっ?!一体何だって言うんだよっ!!」
男はそのまま今度は海に真っ逆さまに沈まされ・・・二度と上がって来る事は無かった。
「あ・・・。」
ヴァネッサはビリビリに破かれて開けてしまった胸を、ドレスの切れ端で隠しながら涙で濡れた顔で俯き、ブルブル震えていると、突然声を掛けられた。
「大丈夫だった?」
それはとても美しい声だった。
顔を上げると、そこには太陽を背にヴァネッサを見下ろしている人物がいた。
「メ・・・メルジーナ・・・?」
ヴァネッサは涙声で呼んだ。
「ええ、そうよ。メルジーナよ。」
人魚姫は微笑んだ。
「こ・・・怖かった・・・っ!!」
ヴァネッサはメルジーナに抱き付き、身体を震わせて泣いた。
そしてそんなヴァネッサをメルジーナは優しく抱きしめるのだった—。
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