ヒロインに騙されて婚約者を手放しました<番外編:リアムの場合>

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売

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第3話 僕と彼女達の事情 

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 その日の放課後から、僕の生活は一転してしまった。ナディアの話では今日から演劇部の本格的な練習が始まるから放課後、部室へ集合と言われたけど・・。


「まあ、何してるの?リアム。私達、今日から学園祭の練習が始まるのは知ってるでしょう?早く部室へ行きましょうよ。」

ナディアは僕がまだ教室の椅子に座っている事を非難し、僕の右腕を掴むと無理矢理立たせてきた。

「あ・・ね、ねえ。待ってくれる?ナディア・・・。僕はクリスを待っていたいんだけど・・。」

腕を引っ張られながら僕はナディアに言った。

「何?リアム・・・まさか、練習にも出ないで帰るつもりだったの?」

ナディアが僕をジロリと睨み付ける。

「違うよ、そうじゃないよ。クリスに今日から舞台の練習があるから一緒に帰る事が出来なくなった事を伝えたくて・・・。」

するとそこへ何故かヒューゴがやって来た。

「何だ、そんな事ならお安い御用。俺がクリスティーナに伝えておいてやるよ。」

「えっ?!」

「まあ、本当っ?!」

僕とナディアが同時に声を上げた。

「ああ、任せておけって。ほら、だからお前達はさっさと部室へ行って来いよ。」

「有難う、ヒューゴ。恩に着るわっ!」

ナディアは嬉しそうに言うと僕の背中をグイグイ押して教室から連れ出していく。


「ヒュ、ヒューゴッ!クリスには手を出すなよっ!」

僕は慌てて教室にいるヒューゴに言うも・・・ナディアに教室のドアをピシャリと閉められてしまった。
ああ・・・ヒューゴの耳には僕の訴えが届いたのだろうか・・・。


 そして僕はこの日から演劇部の舞台の練習に追われるようになった―。
さらに、何故かクリスとは朝も昼も、放課後も顔を会わせる事が無くなってしまった。幾らクラスが違うからって、あれ程毎日顔を合わせていたのに、突然僕の前に姿を現さなくなったなんて・・・。ひょとしたら僕はクリスに嫌われてしまった・・?そんな不吉な考えが僕の頭をよぎって、臆病な僕は怖くて自分からクリスに会いに行く事が出来ずにいた・・・。



「まさか、意図的に避けられてる?僕は・・クリスに・・?」

クリスと会えなくなって、2週間・・・。
昼休み、僕は校舎の屋上で何故かナディアとシートを広げて昼食を食べていた。するとナディアが言った。

「あら、リアム・・・何をいまさら言ってるの?もうクラスじゃ噂になってるわよ?クリスティーナさんはヒューゴと付き合っているって。」

「え・・ええっ?!そ、そんな話・・・僕は初耳だよっ?!」

するとナディアは自分が作って来たというスコーンを呆然としてぽかんと口を開けている僕の口の中にちぎって、いきなり放り込んできた。

「ん、んぐっ!」

思わず勢いでゴクリと飲み干してしまう。

「どう?リアム。私の作ったスコーンは・・・美味しいかしら?」

そんな事言われても、いきなり噛まずに飲み込んでしまったから味なんか美味しいかどうかなんて分からなかった。だけど僕はナディアが怖かったので、無言でコクコクと頷いたけど・・・今はスコーンよりもクリスの事しか頭に無かった。
よし、決めた!明日・・・勇気を振り絞って、クリスに会いに行って来よう・・・!



 翌朝―

学園の校門が見えてきた。今、僕の心臓はドキドキと早鐘を打っている。

「よし、今朝はいつもよりも15分も早く家を出た。あの校門の前でクリスを待って・・・偶然を装ってクリスに『お早う』って声を掛けるんだ・・・。」

頭の中でクリスとのシナリオを考えながら歩いてると、いきなり校門からクリスが飛び出してきた。

「リアム様っ!」

「うわあっ!ク、クリス!」

思わず驚いて、数歩飛びのいてしまった。そしてそんな僕をクリスは不思議そうに見つめている。ああ・・・2週間ぶりのクリスが今目の前に立ってくれている・・。
先程の驚きも含めて、心臓をドキドキ高鳴らせながら僕は言った。

「ああ・・驚いた。おはよう、クリス。会うのは2週間ぶりだね?どうして今まで姿を見せなかったの?」

声を掛けた後で気が付いた。ああっ!どうして僕はもっと気の利いたセリフを言えないんだろう!これではまるでクリスを非難しているように取れるじゃないかっ!
本当はこう言いたかったのに・・。
<クリス、僕はすごく君に開いたかったよ。>って・・・。

しかし、そんな僕の問いかけにもクリスは笑顔で答えてくれた。

「ええ、リアム様が学園祭で忙しそうだったのでお邪魔しないように離れていたんです。そしてこれからはリアム様の人生を邪魔しません。本日はその事を告げに来たのです。」

「え・・・?僕の人生を邪魔しない・・?何の事?」

何だろう・・・何だか凄く・・・嫌な予感しか感じない。

「ええ、リアム様から私と言う足枷を外してあげますという意味です。リアム様はもう鎖に繋がれた鳥ではありません。大空に自由にはばたけるようにして差し上げるのです。」

え?え?クリスはいったい、今何を言おうとしているのだろう?分からない・・・・クリスのように想像力が豊かではない、凡人の僕には彼女が何を言おうとしているのかが、さっぱり理解する事が出来ない。
よ、よし・・こうなったらクリスに何が言いたいのか確認してみよう・・・。

「う~ん・・どうもクリスの話している言葉は抽象的で意味が分からないからもう少し分かり易く説明してもらえないかな?」

するとその時・・・。 

「リアムッ!」

うっ!な、なんてタイミングが悪いんだ・・?
よりにもよってナディアがこの場に現れるなんて・・・っ!挙句の果てはナディアは僕の大事なクリスを睨み付けている。
ここは男の僕がナディアの注意をクリスから逸らしてやらないと・・。

「やあ、おはよう。ナディア。」

僕は笑顔でナディアに挨拶をする。

そしてチラリとクリスを見た。

え・・・?

僕はクリスを見て驚いた。だって彼女の顔色は何故か真っ青で小刻みに震えているんだもの。
そして・・・

グラリ

いきなりクリスの身体が前のめりに揺れた。

「危ないっ!」

僕よりも先に手を伸ばし、クリスを支えたのは他でもない、ナディアだった。
駄目な僕はナディアよりも先に動く事が出来なかった。

「あ、ありがとうございます・・・。」

クリスはナディアから離れると頭を下げた。

「いいえ、大丈夫です。それより顔色が悪いようですけど大丈夫ですか?今すぐ医務室に行かれた方がよろしいのでは?」

僕は女子2人の間に立ち、女の子同士の会話を黙って聞いてる。・・・何だろう、なんだか変な感じだ。僕はこんな所で一体何をしているのだろう?
すると、突然クリスが僕の方を振り向いた。

「あの・・リアム様。このお手紙・・・読んで下さい。」

クリスはカバンからパンパンに膨れて今にも破けそうになっているほどにずっしりとした封筒を取り出すと僕に手渡してきた。

「ええっ?!こ、これ・・手紙なの?」

うっ!な、何て・・・重たい手紙なのだろう・・・。本当にこれが手紙なんて・・信じられないっ!僕はA5サイズの茶封筒を受け取ると目を見開いた。

「まあっ!これが・・・お手紙ですか?!」

一緒にいたナディアも驚きの声をあげる。・・・ハッ!そうだった。ナディアが今側にいる事を僕はすっかり忘れていた。

「申し訳ありません。少し量が多くなってしまいましたが・・・そこには私の思いがエッセイとして書かれています。どうか目を通していただけませんか?ちなみに70枚目が一番肝心な部分ですから。」

そう言えば・・・僕と違って文才のあるクリスは常日頃から将来は作家になりたいと言っていたっけ・・。
ひょっとして僕の前に姿を現さなかったのは執筆活動で忙しかったからかな?
な~んだ・・・。てっきり嫌われてしまったとばかり思っていたけど、僕の考えすぎだったんだな。
だから笑顔でクリスに答えた。

「ああ、そうなんだね?僕に内容を読んでもらって確認してもらいたいんだね?」

「はい、そうです。全て目を通して頂いて確認してください。よろしくお願い致します。」

ペコリと頭を下げて来るクリス。ああ、やっぱりクリスは可愛い!そのつむじさえも愛おしく感じてしまう。

「うん、分ったよ。毎日少しずつ目を通すね。」

胸をドキドキさせながら僕は言った。

「ええ。なるべくゆっくり時間をかけて呼んで頂けますか?出来れば2カ月程時間をかけて・・・。」

「えっ?!」

僕は思わず耳を疑ってしまった。2ヵ月・・・2ヵ月だってっ?
色々突っ込みたいところがあるが、そこへナディアが口を挟んできた。

「まあっ!2カ月もかけて読ませるのですか?!」

「はい。お願いします。」

クリスは大まじめで応える。えっ?!本気だったのっ?!てっきり僕は冗談だとばかり思っていたのに・・!
だけど、クリスのお願いなら何だって聞いてあげるよ。

「分かったよ、2ヵ月掛けて読めばいいんだね?」

「そ、それでは私はこの辺で失礼しますっ!」

え?もう行ってしまうのっ?!嘘だよね?それなのにクリスは僕が口を開く前に物凄い勢いで駆けだしてしまった。

「え?!クリスッ?!」

慌てて追いかけようとした所を突然ナディアに腕を掴まれ、引き留められた。

「行かないで!リアムッ!」

ナディの目を見ながら僕は言った。

「ナディア・・・お願いだよ、腕を離して・・・。僕・・クリスを追わないと・・・。」

するとナディアが突然目を潤ませると叫んだ。

「リアム・・・私・・貴方の事が好きなのよっ!」

え・・・?

思わずナディアをじっと見降ろした。ナディアは顔を真っ赤にして僕を見上げている。

そして・・そんな僕らの真横を多くの学生達が興味深げにジロジロ見ながら通り過ぎて行った―。
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