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ケリーの章 ⑭ 待ちわびていたプロポーズ
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トマスさんと一緒に診療所を出たものの、先程のヨハン先生の言葉が頭から離れなかった。
『楽しい時を過ごして来て下さい』
ヨハン先生は…私が夜、男の人と2人きりで食事に行く事を気にもしてくれないのだろうか…?暗い気持ちで歩いていると、不意にトマスさんが話しかけて来た。
「ケリーさん…ひょっとして…迷惑でしたか…?」
その声は何処か寂し気に聞こえた。
そうだった…!いけない。私は今トマスさんお出かけしているのに…。こんな気持ちでいれば折角誘って頂いたトマスさんを傷つけてしまう。
「いいえ、迷惑とかでは無く…こんな風に男の人と2人きりでお出かけするのは初めてなので、それで…少し緊張しているだけです」
咄嗟に言った。でも、実際こんな風に男性と出かける事は初めての事なので嘘はついていない。するとトマスさんが嬉しそうに笑みを浮かべた。
「本当ですか?ヨハン先生とも出掛けた事が無いのですか?」
突然ヨハン先生の名前を口に出されてドキリとしたけれども頷いた。
「はい、ヨハン先生とも一度も有りません」
正直に言えば、この間誘われたレストランが初めてだったけれども…それがまさか私とトマスさんを引き合わす為の口実だったなんて…。
しかし、そんな複雑な私の気持ちに気付くことなくトマスさんが言った。
「僕がケリーさんの一緒にお出かけする初めての男性になれて、とても嬉しいです。てっきりヨハン先生と仲がよろしいようだったので、もうお2人で何度もお出かけされているかと思っていました」
「いいえ。そんな事はありません。それに仲が良いと言っても…私とヨハン先生は雇用主と従業員の関係の様なものですから」
自分で言って、自分の言葉に私は傷ついていた。
「そうなんですか?それじゃ僕の入る隙間はあるって事ですよね?」
トマスさんはますます嬉しそうに笑みを浮かべる。
「え?あ…まぁ、そうですね…」
何と言って良いか分らず、曖昧に返事をするとトマスさんが突然話題を変えて来た。
「ケリーさん。ここ『リンデン』は運河が流れる観光地として有名なのはご存知ですか?」
「いえ?観光地であることは知っていましたけど…運河がそんなに有名なのですか?」
「ええ。そうですよ。特に王宮近くを流れる運河は夜になると松明で王宮が照らされ、とても幻想的な光景なんです。実は運河を流れる船の上で食事が出来るレストランがあるのです。今夜はケリーさんと2人でその船に乗りたいと思ってお誘いしたのです」
「え?そんな船があるのですか?」
「ええ。楽しみにしていて下さい」
トマスさんは私に優しく微笑みかけながら言った―。
****
「本当に素敵な光景ですね。お食事も美味しいですし…」
私とトマスさんは今、運河をゆっくり流れる船に乗り、2人で向かい合わせにテーブル席に座って、外の景色を楽しみながら食事をしていた。
『リンデン』の夜の町はとても美しい。運河には街灯の明かりが映り込み、幻想的にキラキラと水面に光を映し出して輝いている。出て来る食事もどれも高級食材ばかりで、船に乗り込んでいる人たちも全員仕立ての良い上品な服を着ていた。
アゼリア様…。
私はそっとワンピースの胸元に手を当てた。アゼリア様が残して逝ったワンピースドレスはどれも貴族女性が着るドレスらしく、仕立ても良く上品なドレスだった。お陰で私も周囲のお客たちと見劣りせずにすんでいる。私は改めて心の中でお礼を述べた。
その時―。
「ケリーさん、見て下さい。王宮が見えてきましたよ」
トマスさんに言われて、顔を上げると徐々に王宮の門が見えて来た。広大な敷地の奥に広がる立派なお城。
カイザード様…。
お元気にしていらっしゃるだろうか…?
今頃は医学部で勉学に励んでいるであろうカイザード様に私はほんの少しだけ、思いを馳せた―。
『楽しい時を過ごして来て下さい』
ヨハン先生は…私が夜、男の人と2人きりで食事に行く事を気にもしてくれないのだろうか…?暗い気持ちで歩いていると、不意にトマスさんが話しかけて来た。
「ケリーさん…ひょっとして…迷惑でしたか…?」
その声は何処か寂し気に聞こえた。
そうだった…!いけない。私は今トマスさんお出かけしているのに…。こんな気持ちでいれば折角誘って頂いたトマスさんを傷つけてしまう。
「いいえ、迷惑とかでは無く…こんな風に男の人と2人きりでお出かけするのは初めてなので、それで…少し緊張しているだけです」
咄嗟に言った。でも、実際こんな風に男性と出かける事は初めての事なので嘘はついていない。するとトマスさんが嬉しそうに笑みを浮かべた。
「本当ですか?ヨハン先生とも出掛けた事が無いのですか?」
突然ヨハン先生の名前を口に出されてドキリとしたけれども頷いた。
「はい、ヨハン先生とも一度も有りません」
正直に言えば、この間誘われたレストランが初めてだったけれども…それがまさか私とトマスさんを引き合わす為の口実だったなんて…。
しかし、そんな複雑な私の気持ちに気付くことなくトマスさんが言った。
「僕がケリーさんの一緒にお出かけする初めての男性になれて、とても嬉しいです。てっきりヨハン先生と仲がよろしいようだったので、もうお2人で何度もお出かけされているかと思っていました」
「いいえ。そんな事はありません。それに仲が良いと言っても…私とヨハン先生は雇用主と従業員の関係の様なものですから」
自分で言って、自分の言葉に私は傷ついていた。
「そうなんですか?それじゃ僕の入る隙間はあるって事ですよね?」
トマスさんはますます嬉しそうに笑みを浮かべる。
「え?あ…まぁ、そうですね…」
何と言って良いか分らず、曖昧に返事をするとトマスさんが突然話題を変えて来た。
「ケリーさん。ここ『リンデン』は運河が流れる観光地として有名なのはご存知ですか?」
「いえ?観光地であることは知っていましたけど…運河がそんなに有名なのですか?」
「ええ。そうですよ。特に王宮近くを流れる運河は夜になると松明で王宮が照らされ、とても幻想的な光景なんです。実は運河を流れる船の上で食事が出来るレストランがあるのです。今夜はケリーさんと2人でその船に乗りたいと思ってお誘いしたのです」
「え?そんな船があるのですか?」
「ええ。楽しみにしていて下さい」
トマスさんは私に優しく微笑みかけながら言った―。
****
「本当に素敵な光景ですね。お食事も美味しいですし…」
私とトマスさんは今、運河をゆっくり流れる船に乗り、2人で向かい合わせにテーブル席に座って、外の景色を楽しみながら食事をしていた。
『リンデン』の夜の町はとても美しい。運河には街灯の明かりが映り込み、幻想的にキラキラと水面に光を映し出して輝いている。出て来る食事もどれも高級食材ばかりで、船に乗り込んでいる人たちも全員仕立ての良い上品な服を着ていた。
アゼリア様…。
私はそっとワンピースの胸元に手を当てた。アゼリア様が残して逝ったワンピースドレスはどれも貴族女性が着るドレスらしく、仕立ても良く上品なドレスだった。お陰で私も周囲のお客たちと見劣りせずにすんでいる。私は改めて心の中でお礼を述べた。
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カイザード様…。
お元気にしていらっしゃるだろうか…?
今頃は医学部で勉学に励んでいるであろうカイザード様に私はほんの少しだけ、思いを馳せた―。
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