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マルセルの章 ⑬ 君に伝えたかった言葉
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「イングリットと…どんな話をしてきたのか、良かったら聞かせてもらえないか?」
ブライアンが遠慮がちに尋ねてきた。
「ええ、当然です。その為に尋ねたのですから」
「そうか、ありがとう」
ブライアンがほっとした様子で頷く。その態度が少しだけ気になったが、俺は話を始めた。
「イングリット嬢を葬儀で見かけたので、話したいことがあったので終了後、声をかけようと思っていたのですが、イングリット嬢は式の後にシスターと話をしていたのです。そこで話が終わるのを待っていました。その時にカイザード王太子に声を掛けられて2人で少しだけ話をしたのです」
「そうか…そう言えばマルセルの元婚約者はカイザード王太子と結婚したんだったな」
「ええ…そうです」
アゼリアの事を思い出すと今も胸が痛くなる。するとブライアンが慌てたように言った。
「あ…す、すまなかった。そんなつもりで言ったわけでは無かったんだ。許してくれ」
ブライアンは申し訳無さげに頭を下げてきた。
「いえ、いいんです。もう過ぎたことですし、第一俺は最低な婚約者でした。だからアゼリアに婚約破棄をしてもらいたいと頼まれた時、応じたのです。俺では彼女を幸せに出来ないのは分かりきっていたから…」
「そうか…。それで?話の続きを聞かせてくれないか?」
「ええ、カイザード王太子との話の後にイングリット嬢が話しかけてきたのです。そこで少し話したいことがあると言った所、イングリット嬢の方から町のカフェに誘われて、2人で馬車に乗って向かいました」
「…なるほど…」
ブライアンの顔色が何故か悪い。もしかして具合でも悪いのだろうか?
「あ、あの…ひょっとして体調が悪いのですか?だったらもう帰りますが…」
慌てて言うと、ブライアンは首を振った。
「いや、大丈夫だよ。別に体調が悪いわけではないから。続けてくれないか?」
「は、はい…」
本当に大丈夫なのだろうか…?訝しみながら、話を続けることにした。
「どうやら俺だけでは無く、イングリット嬢も俺に話があったようなのです。馬車の中で助力を仰ぎたいと言われました」
「助力…一体何の?」
「どうしても…ブライアン。貴方と婚約破棄をしたいので、説得して貰いたいと頼まれたのですよ」
「!」
俺の言葉にブライアンの顔が真っ青になった。そして肩を震わせ、口元を覆い隠すと呟くように彼の口から言葉が漏れた。
「そ、そんな事をイングリットが君に…?」
「あ!誤解しないで下さいっ!俺が本日ブライアンを尋ねたのは説得をする為ではありません。むしろその逆です。貴方とイングリット嬢の橋渡しが出来ればと考えているのです。俺とアゼリアは…結局婚約破棄をした挙げ句…こんな形で別れることになってしまいましたが、ブライアンとイングリット嬢は違います。2人でよく話し合って、共通の話題を見つけて、距離が徐々に近付いていけば…きっとうまくいきますよ。是非、協力させて下さい」
きっとブライアンも俺の提案に喜んでくれるはずだ。しかし…。
「どうかな…?」
ブライアンはため息を付いた。
「え…?」
「マルセル、君は知らないかもしれないが…イングリットは一度たりとも彼女の方から俺に声を掛けてきたり、何処かに誘って来たことも無いんだよ。話をすることも拒んでくるし…」
「っ!」
その言葉に驚いた。
「だから…正直君の話に驚いているんだ。まさかイングリットの方から君をカフェに誘うなんて…。一時、イングリットは若い弁護士と交際していると言う噂が出たけれども、その時俺はきっと男の方から彼女に近付いたに違いないと思っていたけれど…本当はイングリットが近付いたのだろうね。彼女は自分から異性に近づくような女性では無いと…そう信じたかっただけかもしれない」
「ブライアン…」
「マルセル、君の気持ちは嬉しいが…多分もう無理だ。俺は完全にイングリットから毛嫌いされていたようだからね…」
「い、いえ!ですが…」
「婚約破棄の件…前向きに考えてみるよ」
「ブライアンッ!」
まずい!このままでは…2人は本当に…!
「ありがとう、マルセル」
「え…?な、何故お礼を…?」
「お陰で決心がついたよ。さて…これから出かけるから、悪いけどマルセル。帰ってもらってもいいかい?」
ブライアンは笑顔で言う。
「え…?」
何処へ…とは聞けなかった。
ブライアンの笑顔はまるで…泣いているように見えたから―。
ブライアンが遠慮がちに尋ねてきた。
「ええ、当然です。その為に尋ねたのですから」
「そうか、ありがとう」
ブライアンがほっとした様子で頷く。その態度が少しだけ気になったが、俺は話を始めた。
「イングリット嬢を葬儀で見かけたので、話したいことがあったので終了後、声をかけようと思っていたのですが、イングリット嬢は式の後にシスターと話をしていたのです。そこで話が終わるのを待っていました。その時にカイザード王太子に声を掛けられて2人で少しだけ話をしたのです」
「そうか…そう言えばマルセルの元婚約者はカイザード王太子と結婚したんだったな」
「ええ…そうです」
アゼリアの事を思い出すと今も胸が痛くなる。するとブライアンが慌てたように言った。
「あ…す、すまなかった。そんなつもりで言ったわけでは無かったんだ。許してくれ」
ブライアンは申し訳無さげに頭を下げてきた。
「いえ、いいんです。もう過ぎたことですし、第一俺は最低な婚約者でした。だからアゼリアに婚約破棄をしてもらいたいと頼まれた時、応じたのです。俺では彼女を幸せに出来ないのは分かりきっていたから…」
「そうか…。それで?話の続きを聞かせてくれないか?」
「ええ、カイザード王太子との話の後にイングリット嬢が話しかけてきたのです。そこで少し話したいことがあると言った所、イングリット嬢の方から町のカフェに誘われて、2人で馬車に乗って向かいました」
「…なるほど…」
ブライアンの顔色が何故か悪い。もしかして具合でも悪いのだろうか?
「あ、あの…ひょっとして体調が悪いのですか?だったらもう帰りますが…」
慌てて言うと、ブライアンは首を振った。
「いや、大丈夫だよ。別に体調が悪いわけではないから。続けてくれないか?」
「は、はい…」
本当に大丈夫なのだろうか…?訝しみながら、話を続けることにした。
「どうやら俺だけでは無く、イングリット嬢も俺に話があったようなのです。馬車の中で助力を仰ぎたいと言われました」
「助力…一体何の?」
「どうしても…ブライアン。貴方と婚約破棄をしたいので、説得して貰いたいと頼まれたのですよ」
「!」
俺の言葉にブライアンの顔が真っ青になった。そして肩を震わせ、口元を覆い隠すと呟くように彼の口から言葉が漏れた。
「そ、そんな事をイングリットが君に…?」
「あ!誤解しないで下さいっ!俺が本日ブライアンを尋ねたのは説得をする為ではありません。むしろその逆です。貴方とイングリット嬢の橋渡しが出来ればと考えているのです。俺とアゼリアは…結局婚約破棄をした挙げ句…こんな形で別れることになってしまいましたが、ブライアンとイングリット嬢は違います。2人でよく話し合って、共通の話題を見つけて、距離が徐々に近付いていけば…きっとうまくいきますよ。是非、協力させて下さい」
きっとブライアンも俺の提案に喜んでくれるはずだ。しかし…。
「どうかな…?」
ブライアンはため息を付いた。
「え…?」
「マルセル、君は知らないかもしれないが…イングリットは一度たりとも彼女の方から俺に声を掛けてきたり、何処かに誘って来たことも無いんだよ。話をすることも拒んでくるし…」
「っ!」
その言葉に驚いた。
「だから…正直君の話に驚いているんだ。まさかイングリットの方から君をカフェに誘うなんて…。一時、イングリットは若い弁護士と交際していると言う噂が出たけれども、その時俺はきっと男の方から彼女に近付いたに違いないと思っていたけれど…本当はイングリットが近付いたのだろうね。彼女は自分から異性に近づくような女性では無いと…そう信じたかっただけかもしれない」
「ブライアン…」
「マルセル、君の気持ちは嬉しいが…多分もう無理だ。俺は完全にイングリットから毛嫌いされていたようだからね…」
「い、いえ!ですが…」
「婚約破棄の件…前向きに考えてみるよ」
「ブライアンッ!」
まずい!このままでは…2人は本当に…!
「ありがとう、マルセル」
「え…?な、何故お礼を…?」
「お陰で決心がついたよ。さて…これから出かけるから、悪いけどマルセル。帰ってもらってもいいかい?」
ブライアンは笑顔で言う。
「え…?」
何処へ…とは聞けなかった。
ブライアンの笑顔はまるで…泣いているように見えたから―。
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