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マルセルの章 ㉖ 君に伝えたかった言葉

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 一体これはどういう状況なのだろうか…?

俺は左右に座るイングリットの両親と母を交互に見た。

「申し訳ございません。折角足を運んで頂いたのに夫のウォルターは只今『キーナ』に単身赴任中でして…」

母がオルグレン夫妻に頭を下げた。

「いいえ、どうぞ気になさらないで下さい。何しろウォルター先生と言えば、この『リンデン』の名士ではありませんか」

レイモンド氏は上機嫌で答える。

「ええ、私どもも本当に驚いているんですの。まさかイングリットがあのウォルター先生のご子息とお付きあいしていたなんて…ねぇ、あなた」

夫人がレイモンド氏に微笑みかける。

「「え?!」」

驚いたのは俺とイングリット嬢だ。慌てて隣に座るイングリット嬢を見るも、彼女は目を見開いて首を左右に振る。

「ええ…私も正直驚いております。まさかマルセルが御令嬢とお付き合いしていたなんて…何も私に報告がありませんでしたから」

母は戸惑った様子で俺を見る。いや、ちょっと待ってくれ。一番戸惑っているのはこの俺の方なのだがっ?!このままではまずい!これは誤解だと弁明しなければ。だけど…何処からが誤解なのだ?とりあえず何か言わなければ…。

「あ、あの…」

するとレイモンド氏が言った。

「きっと照れていたのでしょう…それに2人とも、もう立派な大人だ。一々交際の報告をする必要は無いと思ったのでしょう。」

「はぁ…なる程…そういうことですのね…」

言いながら母はチラリと俺を見た。

「ですので私達から動く事に致しましたの。もう適齢期ですから…そうよね?イングリット?貴女なら良く分かるわよね?その辺りの事は」

夫人はイングリット嬢を見つめながら、妙に含みをもたせた言い方をする。

「は…はい、そうです…ね…」

イングリット嬢が曖昧な返事をした。ちょっと待ってくれっ!何故、そんな誤解を招くような返事をするんだっ?!俺は驚いてイングリット嬢を見るも彼女は視線を合わせない。

「ほら、娘はよく分かっている。何しろ結婚にも適齢期があるでしょう?男性はともかく、女性ともなれば…結婚は早ければ早いほうが良いでしょう?」

「えっ?結婚ですか?」

母が驚きの声を上げる。

何っ?!け、結婚っだってっ?!

「ちょ、ちょっと待って下さいっ!そんないきなり、結婚だなんてっ!」

思わず席を立つと、レイモンド氏が言った。

「まさか…遊びで付き合っている…はずはありませんよね?」

夫人が俺を見る。

「ああ、当然だろう?ただの遊びで未婚の女性と一緒にお酒を飲みに行く事はあるまいし。それに…たまたまあの店には私の知り合いがいたのですよ。店に入った時に店内が騒がしく…彼は様子を見に行ったそうなのです。すると娘のイングリットをかばうように男性が立っていて…娘の事を恋人と言ったそうですから」

言いながらレイモンド氏が俺を見た。

「あ…」

その言葉に思わず顔が青くなる。そうだ、あの時俺は確かにイングリット嬢を酔っ払いから助ける為に「恋人」と言った。

まさか…その言葉がこんな形で自分に返ってくるなんて…。

俺は助けを求めるべく、隣に座るイングリット嬢を見つめた―。






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