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マルセルの章 ㊲ 君に伝えたかった言葉
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その日の夜は殆ど眠ることが出来なかった。そして完全な寝不足状態で俺は出社する事になってしまった―。
「おはようございます…」
本当は会社に来ている余裕など無かったが休むわけにもいかず、俺はいつもの様に出社した。
「おはよう、マルセル。それで昨夜はどうだったの?」
既に出社していた隣の席の同僚女性が好奇心いっぱいの目で尋ねて来た。
「ああ、最悪だ。やってしまったよ。もう…生きた心地もしない…」
思わず弱音を吐いてしまう。
「え?そうだったのっ?!あんなに張り切っていたのに?!」
「そうなんだ…」
本当に…何と言って詫びに行けばいいんだろう…。自分の席に座り、仕事の準備をしていると同僚女性が声を掛けて来た。
「まずは仕事が終わったらお詫びに行った方がいいわよ。ただし、手ぶらだけは駄目。余計に心証を悪くしてしまうから」
「成程、確かにそうだな」
「けれど何を持っていけばいいのだろう?」
すると彼女は自信ありげに言う。
「そんなの決まっているじゃない。花束を持っていけばいいのよ。両手一杯抱えきれな位にね。花が嫌いな人なんていないんだから。そうね…メッセージカードも添えればより完璧かもしれないわね」
「えっ?!メッセージカードッ?!そこまでしなくては駄目なのだろうか?」
「当然じゃないの。それに花束は自分の気持ちを綴った花言葉…意味のある花なら完璧よ。これでお相手のご機嫌をとるのよ」
「しかし…」
俺は想像してみた。果たしてオルグレイン伯爵が俺からの花束を受け取って機嫌を直してくれるのだろうか…?
すると同僚女性が言った。
「あら?何よそれ。私の言う事が信じられないの?」
「別にそう言う訳では無いが…」
「兎に角。いい?私の言う通りに今夜実践するのよ?分ったわね?!」
「あ、ああ…分ったよ…」
彼女にすごまれて、俺は了承してしまった―。
****
今日は散々な1日だった。オルグレイン家の事が頭から離れず仕事で単純ミスを連発してしまい、退社時間が19時半を過ぎてしまった。
同じ部署の人間は全員とっくに退社し、残っていたのは自分1人だった。そこで帰り際にこのビルの守衛に戸締りの確認をお願いし、会社を出た。
「花束を作って貰えと言われたが…こんな時間に花屋なんか開いているだろうか?」
街灯に照らされた町を見渡しながら花屋を探して歩いていると偶然にもまだ空いている店を見つけた。
「良かった!まだ開いていたか!」
そして俺は急いで花屋へ向かった―。
****
「…」
同僚女性が言った通り、抱えきれないほどお大きな花束を持った俺は馬車に揺られていた。御者は俺が馬車に乗り込むときに一瞬驚いた顔を見せたが、やはり男が花束を抱えるのは少々気恥ずかしかった。
「本当に…この花束でうまくいくだろうか…?」
俺は一抹の不安を抱えながらオルグレイン家を目指した―。
馬車を降りて、オルグレイン家の大きな扉に立った。
「連絡も無しに来てしまったが…大丈夫だろうか?」
そして意を決してドアノッカーを掴み、ドアをノックした。
暫くすると扉が音を立てて開かれ。ドアマンが現れた。彼は一瞬俺を見て驚いた顔を見せた。男が大量の花束を抱えている姿はやはり違和感があるのだろうか?
「アポイントも無しに、いきなり訪ねて申し訳ございません。私はマルセル・ハイムと申します。オルグレイン伯爵にお会いしたく、参りました」
そして丁寧に頭を下げる。
「少々お待ち頂けますか?」
ドアマンはその場を離れると数分でフットマンを連れて戻って来た。
「旦那様がお会いになるそうです。応接室にご案内するのでこちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
そしてフットマンに連れられ、俺は両手一杯の花束を抱えて応接室へと連れていかれた。
「旦那様と奥様が後から参られます。それまでこちらでお待ち下さい」
「ありがとうございます」
頭を下げるとソファに座り、緊張の面持ちでその時を待った―。
「おはようございます…」
本当は会社に来ている余裕など無かったが休むわけにもいかず、俺はいつもの様に出社した。
「おはよう、マルセル。それで昨夜はどうだったの?」
既に出社していた隣の席の同僚女性が好奇心いっぱいの目で尋ねて来た。
「ああ、最悪だ。やってしまったよ。もう…生きた心地もしない…」
思わず弱音を吐いてしまう。
「え?そうだったのっ?!あんなに張り切っていたのに?!」
「そうなんだ…」
本当に…何と言って詫びに行けばいいんだろう…。自分の席に座り、仕事の準備をしていると同僚女性が声を掛けて来た。
「まずは仕事が終わったらお詫びに行った方がいいわよ。ただし、手ぶらだけは駄目。余計に心証を悪くしてしまうから」
「成程、確かにそうだな」
「けれど何を持っていけばいいのだろう?」
すると彼女は自信ありげに言う。
「そんなの決まっているじゃない。花束を持っていけばいいのよ。両手一杯抱えきれな位にね。花が嫌いな人なんていないんだから。そうね…メッセージカードも添えればより完璧かもしれないわね」
「えっ?!メッセージカードッ?!そこまでしなくては駄目なのだろうか?」
「当然じゃないの。それに花束は自分の気持ちを綴った花言葉…意味のある花なら完璧よ。これでお相手のご機嫌をとるのよ」
「しかし…」
俺は想像してみた。果たしてオルグレイン伯爵が俺からの花束を受け取って機嫌を直してくれるのだろうか…?
すると同僚女性が言った。
「あら?何よそれ。私の言う事が信じられないの?」
「別にそう言う訳では無いが…」
「兎に角。いい?私の言う通りに今夜実践するのよ?分ったわね?!」
「あ、ああ…分ったよ…」
彼女にすごまれて、俺は了承してしまった―。
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今日は散々な1日だった。オルグレイン家の事が頭から離れず仕事で単純ミスを連発してしまい、退社時間が19時半を過ぎてしまった。
同じ部署の人間は全員とっくに退社し、残っていたのは自分1人だった。そこで帰り際にこのビルの守衛に戸締りの確認をお願いし、会社を出た。
「花束を作って貰えと言われたが…こんな時間に花屋なんか開いているだろうか?」
街灯に照らされた町を見渡しながら花屋を探して歩いていると偶然にもまだ空いている店を見つけた。
「良かった!まだ開いていたか!」
そして俺は急いで花屋へ向かった―。
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「…」
同僚女性が言った通り、抱えきれないほどお大きな花束を持った俺は馬車に揺られていた。御者は俺が馬車に乗り込むときに一瞬驚いた顔を見せたが、やはり男が花束を抱えるのは少々気恥ずかしかった。
「本当に…この花束でうまくいくだろうか…?」
俺は一抹の不安を抱えながらオルグレイン家を目指した―。
馬車を降りて、オルグレイン家の大きな扉に立った。
「連絡も無しに来てしまったが…大丈夫だろうか?」
そして意を決してドアノッカーを掴み、ドアをノックした。
暫くすると扉が音を立てて開かれ。ドアマンが現れた。彼は一瞬俺を見て驚いた顔を見せた。男が大量の花束を抱えている姿はやはり違和感があるのだろうか?
「アポイントも無しに、いきなり訪ねて申し訳ございません。私はマルセル・ハイムと申します。オルグレイン伯爵にお会いしたく、参りました」
そして丁寧に頭を下げる。
「少々お待ち頂けますか?」
ドアマンはその場を離れると数分でフットマンを連れて戻って来た。
「旦那様がお会いになるそうです。応接室にご案内するのでこちらへどうぞ」
「ありがとうございます」
そしてフットマンに連れられ、俺は両手一杯の花束を抱えて応接室へと連れていかれた。
「旦那様と奥様が後から参られます。それまでこちらでお待ち下さい」
「ありがとうございます」
頭を下げるとソファに座り、緊張の面持ちでその時を待った―。
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