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マルセルの章 ㊳ 君に伝えたかった言葉
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案内された応接室で落ち着かない気持ちでオルグレイン伯爵を待っていた。
5分程待っているとやがてドアがカチャリと開かれ、伯爵が室内へと入って来た。
「オルグレイン伯爵、突然来訪してしまい大変申し訳ございません」
傍らに大きな花束を置くと立ち上がり、挨拶をした。
「…」
オルグレイン伯爵は気難しそうな顔で俺を見ていたが、ため息をつくと言った。
「仮にも君はイングリットの恋人だったのだ。むやみに追い返す事など出来るはずはあるまい」
「…はい…」
まただ。またしても伯爵に勘違いされている。しかし話を進める為にはここは素直に返事をしておいた方が良いだろう。
「この度は大変申し訳ございませんでした。この花束は私からのお詫びの気持ちです。どうぞ受け取って下さい」
俺は抱えきれないほどの大きな花束をオルグレイン伯爵に差し出した。
「…」
しかし、伯爵は奇妙な眼つきで俺を見ているだけで花束を受け取ろうとしない。
「伯爵?…やはり受け取って頂けないのでしょうか…?花言葉のメッセージカードも添えてあるのですが…」
「き、君…君はこの花束を誰に渡すつもりで持ってきたのだね?」
オルグレイン伯爵は妙な事を尋ねてくる。
「え?当選オルグレイン伯爵にですが?」
「何とっ!この私にかっ?!」
伯爵は目を見開いて俺を見る。
「ええ。当然です」
何しろ同僚の女性に謝罪したい相手に花束をプレゼントするように言われているのだから。
「き、君は一体何を考えているのだね?この花束を渡すべき相手は私では無くイングリットでは無いのかね?」
伯爵は俺を指さしながら言う。成程、確かにそれは一理あるが…。
「ですが…。イングリット嬢を俺は傷つけてしまいました。肝心な事をまだ彼女に伝えていないのに…受け取ってくれるかも…」
そう、俺達は別に恋人同士では無いので誤解を解こうと言う話を…。
「何?君は…まだ娘に肝心な事を告げぬまま、医者になる事を決めてしまったのかね?!」
オルグレイン伯爵の目が吊り上がる。
「え?は、はい…」
「全く…!君と言う人間は何と無責任な男なのだっ!肝心な事を話し合いもせずに勝手に自分の将来を決めてしまうとは…なんて身勝手なんだっ!」
オルグレイン伯爵は激怒し始めた。
「そ、そんなに自分の将来を決めてしまうのは良くない事なのでしょうか?」
と言うか、イングリット嬢に相談するべき話だったのだろうか?
「とにかく、君の様な身勝手な男はこちらが認めんっ!もう二度と娘には関わらないでくれっ!」
「そうですか…ですが、せめてこの花束だけでもイングリット嬢に渡して頂けないでしょうか?俺からの気持ちなんです!どうかお願い致します!」
俺はブライアン伯爵に頭を下げた。
そうだ、この花束には謝罪の気持ちがメッセージとしてこめられているんだ。それに…こんな大きな花束を抱えて帰宅すれば、母に何と言われるか分った物では無い。
「むぅ…そこまで言うなら…渡しても構わんが…もうイングリットとの事は無かったことにしてもらうからな」
「…分りました」
元々俺と彼女の間には何も無かったのだから、素直に返事をする。
「もう君に用は無い。帰りたまえ」
「分りました…失礼致します」
俺は頭を下げると応接室を後にした―。
****
ガラガラと走る辻馬車の中で俺は遠ざかっていくオルグレイン家を眺めていた。
多分…これでもうイングリット嬢と関わることは無いのだろう。
だが…彼女との会話は楽しかった。同じ社会で働く者同士、共感しあえるものがあった。
ひょっとするとイングリット嬢とは良い友人になれたかもしれないのに…。
俺は心の中で溜息をついた。
そして二日後、カイと共に『キーナ』へ向かった俺は面接に無事合格し、医学部に入学する事が決定した―。
5分程待っているとやがてドアがカチャリと開かれ、伯爵が室内へと入って来た。
「オルグレイン伯爵、突然来訪してしまい大変申し訳ございません」
傍らに大きな花束を置くと立ち上がり、挨拶をした。
「…」
オルグレイン伯爵は気難しそうな顔で俺を見ていたが、ため息をつくと言った。
「仮にも君はイングリットの恋人だったのだ。むやみに追い返す事など出来るはずはあるまい」
「…はい…」
まただ。またしても伯爵に勘違いされている。しかし話を進める為にはここは素直に返事をしておいた方が良いだろう。
「この度は大変申し訳ございませんでした。この花束は私からのお詫びの気持ちです。どうぞ受け取って下さい」
俺は抱えきれないほどの大きな花束をオルグレイン伯爵に差し出した。
「…」
しかし、伯爵は奇妙な眼つきで俺を見ているだけで花束を受け取ろうとしない。
「伯爵?…やはり受け取って頂けないのでしょうか…?花言葉のメッセージカードも添えてあるのですが…」
「き、君…君はこの花束を誰に渡すつもりで持ってきたのだね?」
オルグレイン伯爵は妙な事を尋ねてくる。
「え?当選オルグレイン伯爵にですが?」
「何とっ!この私にかっ?!」
伯爵は目を見開いて俺を見る。
「ええ。当然です」
何しろ同僚の女性に謝罪したい相手に花束をプレゼントするように言われているのだから。
「き、君は一体何を考えているのだね?この花束を渡すべき相手は私では無くイングリットでは無いのかね?」
伯爵は俺を指さしながら言う。成程、確かにそれは一理あるが…。
「ですが…。イングリット嬢を俺は傷つけてしまいました。肝心な事をまだ彼女に伝えていないのに…受け取ってくれるかも…」
そう、俺達は別に恋人同士では無いので誤解を解こうと言う話を…。
「何?君は…まだ娘に肝心な事を告げぬまま、医者になる事を決めてしまったのかね?!」
オルグレイン伯爵の目が吊り上がる。
「え?は、はい…」
「全く…!君と言う人間は何と無責任な男なのだっ!肝心な事を話し合いもせずに勝手に自分の将来を決めてしまうとは…なんて身勝手なんだっ!」
オルグレイン伯爵は激怒し始めた。
「そ、そんなに自分の将来を決めてしまうのは良くない事なのでしょうか?」
と言うか、イングリット嬢に相談するべき話だったのだろうか?
「とにかく、君の様な身勝手な男はこちらが認めんっ!もう二度と娘には関わらないでくれっ!」
「そうですか…ですが、せめてこの花束だけでもイングリット嬢に渡して頂けないでしょうか?俺からの気持ちなんです!どうかお願い致します!」
俺はブライアン伯爵に頭を下げた。
そうだ、この花束には謝罪の気持ちがメッセージとしてこめられているんだ。それに…こんな大きな花束を抱えて帰宅すれば、母に何と言われるか分った物では無い。
「むぅ…そこまで言うなら…渡しても構わんが…もうイングリットとの事は無かったことにしてもらうからな」
「…分りました」
元々俺と彼女の間には何も無かったのだから、素直に返事をする。
「もう君に用は無い。帰りたまえ」
「分りました…失礼致します」
俺は頭を下げると応接室を後にした―。
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ガラガラと走る辻馬車の中で俺は遠ざかっていくオルグレイン家を眺めていた。
多分…これでもうイングリット嬢と関わることは無いのだろう。
だが…彼女との会話は楽しかった。同じ社会で働く者同士、共感しあえるものがあった。
ひょっとするとイングリット嬢とは良い友人になれたかもしれないのに…。
俺は心の中で溜息をついた。
そして二日後、カイと共に『キーナ』へ向かった俺は面接に無事合格し、医学部に入学する事が決定した―。
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