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ヤンの章 ④ アゼリアの花に想いを寄せて
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「ねぇ、ヤン」
教会を出て、緑に囲まれた坂道を歩き始めるとすぐにメロディが声を掛けて来た。
「何?」
「どうせなら家まで来ない?」
メロディが僕を見上げる。
「え?そんな…悪いからいいよ。今日は土曜日だから皆家にいるんじゃないの?」
「お父さんはいないわよ。仕事が忙しいみたいだから休みの日も会社に行ってるもの。お陰でお母さんはずっと機嫌が悪いわ。目なんかこーんな釣り上げちゃってさ」
メロディは自分の両眼の端を指で釣り上げた。
「ハハハ…ローラさんらしいね。でも忙しいのは仕方ないよ。オリバーさんは副編集長だからね。それにしてもまだ30代なのに凄いよね。尊敬するよ」
するとメロディがじっと僕を見つめている。
「な、何?」
「ううん。やっと笑ったなって思って」
「え…?」
「今日はアゼリア様の月命日だったから…お墓参りしてきたんでしょう?」
「うん…」
歩きながら話している内に僕たちはいつの間にか町中に降りて来ていた。往来を人々が行き交いし、『リンデン』の町は今日も賑わいを見せている。
「…いつまで引きずっているの?」
不意にメロディが神妙な顔つきになるとぽつりと言った。
「え?」
「だから…アゼリア様が亡くなった事…いつまで引きずっているのかって尋ねているのよ。もう10年も経ったのよ?」
「だけど…僕は…」
俯く僕にメロディは言った。
「まさか、本当にアゼリア様が亡くなったのは自分のせいだと思っているの?」
「そ、それは…だけど僕が気付いていれば…」
「だっかっらっ!」
メロディは右足を大きく踏み鳴らした。その有様に通行人達が驚いたようにこちらを見る。しかし、人々の視線をものともせずにメロディは声を荒げて僕に言う。
「ヨハン先生もカイ先生、マルセル先生にケリーさんだって…みんなみんな、ヤンのせいじゃないって言ってくれてるじゃない!私だってそう思ってる!」
「メロディ…」
「誰か1人でもヤンを責めた?どうしてアゼリア様の様子に気付かなかったんだって?何故呼びに来なかったんだって?」
「そ、それは責められてはいないけど…僕がまだ子供だったから…」
「子供とか、そんなのは関係ないわよっ!ヨハン先生が言ってたじゃない!もう既にアゼリア様は息を引き取っていたって…だからヤンのせいじゃないのよ!」
「だけど…」
「あ~全く…。男のくせにいつまでもイジイジして…よし、決めた!やっぱり今日は家でお昼ご飯食べていくのよ!」
「え?な、何でそうなるのさ?」
「お腹一杯食べれば幸せな気分になれるでしょう?そんな辛気臭い顔、こっちだって見ていたくないのよ。ほら、行くわよ!」
そしてメロディは僕の前に立って歩き出す。仕方なしに僕はその後をついて行く。
メロディはああ言ってくれているけど…それでも僕は自分を責めてしまう。
アゼリア様の寝顔がとても綺麗だったから…僕は見とれていた。人を呼ぶのも忘れて。
だって…アゼリア様は僕の初恋の人だったから―。
教会を出て、緑に囲まれた坂道を歩き始めるとすぐにメロディが声を掛けて来た。
「何?」
「どうせなら家まで来ない?」
メロディが僕を見上げる。
「え?そんな…悪いからいいよ。今日は土曜日だから皆家にいるんじゃないの?」
「お父さんはいないわよ。仕事が忙しいみたいだから休みの日も会社に行ってるもの。お陰でお母さんはずっと機嫌が悪いわ。目なんかこーんな釣り上げちゃってさ」
メロディは自分の両眼の端を指で釣り上げた。
「ハハハ…ローラさんらしいね。でも忙しいのは仕方ないよ。オリバーさんは副編集長だからね。それにしてもまだ30代なのに凄いよね。尊敬するよ」
するとメロディがじっと僕を見つめている。
「な、何?」
「ううん。やっと笑ったなって思って」
「え…?」
「今日はアゼリア様の月命日だったから…お墓参りしてきたんでしょう?」
「うん…」
歩きながら話している内に僕たちはいつの間にか町中に降りて来ていた。往来を人々が行き交いし、『リンデン』の町は今日も賑わいを見せている。
「…いつまで引きずっているの?」
不意にメロディが神妙な顔つきになるとぽつりと言った。
「え?」
「だから…アゼリア様が亡くなった事…いつまで引きずっているのかって尋ねているのよ。もう10年も経ったのよ?」
「だけど…僕は…」
俯く僕にメロディは言った。
「まさか、本当にアゼリア様が亡くなったのは自分のせいだと思っているの?」
「そ、それは…だけど僕が気付いていれば…」
「だっかっらっ!」
メロディは右足を大きく踏み鳴らした。その有様に通行人達が驚いたようにこちらを見る。しかし、人々の視線をものともせずにメロディは声を荒げて僕に言う。
「ヨハン先生もカイ先生、マルセル先生にケリーさんだって…みんなみんな、ヤンのせいじゃないって言ってくれてるじゃない!私だってそう思ってる!」
「メロディ…」
「誰か1人でもヤンを責めた?どうしてアゼリア様の様子に気付かなかったんだって?何故呼びに来なかったんだって?」
「そ、それは責められてはいないけど…僕がまだ子供だったから…」
「子供とか、そんなのは関係ないわよっ!ヨハン先生が言ってたじゃない!もう既にアゼリア様は息を引き取っていたって…だからヤンのせいじゃないのよ!」
「だけど…」
「あ~全く…。男のくせにいつまでもイジイジして…よし、決めた!やっぱり今日は家でお昼ご飯食べていくのよ!」
「え?な、何でそうなるのさ?」
「お腹一杯食べれば幸せな気分になれるでしょう?そんな辛気臭い顔、こっちだって見ていたくないのよ。ほら、行くわよ!」
そしてメロディは僕の前に立って歩き出す。仕方なしに僕はその後をついて行く。
メロディはああ言ってくれているけど…それでも僕は自分を責めてしまう。
アゼリア様の寝顔がとても綺麗だったから…僕は見とれていた。人を呼ぶのも忘れて。
だって…アゼリア様は僕の初恋の人だったから―。
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