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ヤンの章 ⑯ アゼリアの花に想いを寄せて

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「悪かったな、ヤン。夜分に呼び出したりして」

通りに出て自転車にまたがったオリバーさんが言った。

「いえ。あの…メロディに謝っておいて下さい」

「…ベンジャミンから養子縁組の提案を受けた話の事か?」

「…はい。メロディに何か変わったことが無かったかと聞かれたのに、僕は嘘をついてしまいました。」

「分かった。伝えておくよ。だけど、ベンジャミンの養子になる事…前向きに考えておいてくれないか?ヤンは優秀だから、このままここで埋もれさせたくないんだよ。アゼリアの月命日なら俺がお前の代わりに行くから。な?」

「…分かりました。検討しておきます」

「ああ、それでいい。じゃあな」

そしてオリバーさんは夜の町を自転車にまたがると去って行った―。



****

「ただいま…」

教会に戻ったのは21時を過ぎていた。

「お帰りなさい、ヤン」
「お帰り」
「お帰り、ヤン」


 食堂に入っていくとシスターアンジュとディータとヨナスが椅子に座って待っていた。

「あれ…皆、待っていてくれたの?」

「ええ、カレンとマリーはもう部屋に戻ったけどね」

シスターアンジュが教えてくれた。

「オリバーさんだったんだろう?来ていたのは。声が聞こえてきたから分かったよ」
「2人で何処へ行ってたんだよ?」」

ディータとヨナスが交互に尋ねてきた。

「うん。実は…」

椅子に腰掛けるとオリバーさんと交わした会話の内容を3人に説明した―。



「そう…。きっとメロディはオリバーさんにヤンがベンジャミン先生の養子に入って貰いたいくて説得して欲しかったのかもね」

シスターアンジュが紅茶を飲みながらポツリと言った。

「うん…そうみたいなんだ…でも、何でだろう?」

僕の言葉に何故か3人共驚いたようにこっちを見た。

「な、何?3人共」

「ヤン…貴方、本当に分からないの?メロディが何故ベンジャミン先生の養子に入って貰いたいと思っているのか」

シスターアンジュが尋ねてきた。

「う、うん…」

「冗談言ってるんだろう?」
「いや、ヤンの事だから本当に分からないかもしれない」

ヨナスとディータが言う。

「うん、分からないよ」

「あのなぁ…ヤン。メロディは…」

「馬鹿!黙ってろ!ヨナス!ヤンが自分で気付かなくちゃ意味がないだろう?!」

何故かディータがヨナスの口を塞いだ。するとヨナスはコクコクと首を縦に振る。だけど僕には何が何だかさっぱり分からない。

「ヤン、でも本当に早目に決めた方がいいわよ?もし養子になるなら大学進学の話にも関わって来ることだから」

「はい…」

シスターアンジュの言葉は尤もだ。

だけど、この時の僕はまだ迷っていた。アゼリア様が息を引き取っていくのに気付かなかった僕には大きな夢を持ってはいけないのだから…この先もずっと…。

僕はそう考えていた。

少なくとも、あの出来事が起きるまでは―。
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