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第34日目 迷宮『マターファ』(モンスター討伐)その④

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 最後の晩餐?的なサボテンパーティーを終えた私達は迷宮『マターファ』の入口に立った。
そして4人で互いに顔を見渡すと輪になって話し合いを始めた。

「で、どうするんですか?誰が一番に入るんですか?」

ノッポが言う。

「それはやっぱりノッポかベソが適任なんじゃないの?何と言っても2人は機関銃をそれぞれ2丁ずつ装備しているし、手榴弾だって持っているんだから。手榴弾を持ってる人はやっぱり前を歩かないとね。」

私は言った。

「じょ、冗談じゃありませんよっ!せ、先頭なんて怖くて歩けるはず無いじゃないですかっ!そ、そうだ!タリク王子が一番先頭を歩けばいいんですよっ!だってさっき言ってましたよね?レベル1程度のモンスターごときあっという間に倒してやる。所詮自分の敵ではないってッ!何なら手榴弾だって全て渡しますよっ!」

ベソがタリク王子の台詞を少し脚色しながら言った。

「手榴弾は使い方を間違えなければ危険は無いっ!大体冗談を言うなっ!何処の世界にリヤカーを引いてモンスターの巣窟を進むメンバーがいるんだ?!リヤカーを引いて敵に襲われた場合、咄嗟に動けるはずが無いだろうっ?!俺が一番後ろを歩く事はもう決定済みだ!第一王子の俺が手榴弾のような危険な物を持って万一爆発してこの俺に何かあったらどうするつもりだっ!」

「ああっ!やっぱり手榴弾を危険な物と言ったっ!俺達だけに持たせるなんてあんまりだっ!差別だっ!不公平だっ!全員で1人1つずつ持つべきなんだあっ!!」

ノッポが喚く・・・等々話し合いは紛糾し、結局この迷宮は広く、一列になって歩く必要も無いだろうと言う事で、最終的に全員で横一列に並んで『マターファ』の迷宮に挑む事が決定したのであった。勿論手榴弾を持つのは私もタリク王子も当然断固拒否したのは言うまでもない。


「うわああああっ!く、来るなああああッ!!」

「ギャアアアッ!!ク・・・くたばれええッ!!」

洞窟を進み始めて約20分経過した頃・・・・。


ダダダダダダ・・・・ッ!!

洞窟内には機関銃をぶっ放すベソとノッポの姿があった。
ベソとノッポは洞窟の中を飛び回る蝙蝠に向って機関銃を連射している。

こ・怖い・・・。
血走った目で機関銃を打ちまくる2人の姿は正に狂気じみていた。

チュインチュインッ!!時々機関銃の玉が跳ね返って来ては私やタリク王子の眼前すれすれに跳ね返ってくる。
私とタリク王子はなるべく安全な岩場に隠れ、すっかりパニックに陥っているベソとノッポに声を掛けた。

「ちょっとっ!洞窟内で機関銃をぶっ放さないでよっ!さっきから流れ弾があちこちから飛んできて危なくてしょうがないでしょうっ?!」

「ああ!そうだ!お前達っ!弾に当たったらどうなると思っているんだっ!」

しかし、洞窟内に響き渡る機関銃と弾の跳ね返る音、そして洞窟が時折崩れ落ちる音・・等々それらが全て相まって私とタリク王子の呼びかける声がかき消されてしまう。

「おい!どうするんだエリスッ!あいつ等まともじゃないぞ?!」

タリク王子が何処から持って来たのか座布団を頭に被りながら訴えて来る。

「ええ。そうですね。あの2人の今の状態は、まさにバーサーカー<狂戦士>。完全に理性を失われています。このままでは機関銃の弾が今に無くなってしまいますよ。」

「何だ?そのバーサーカーと言うのは?ところでエリス、あの2人とは違ってお前は随分冷静なんだな?」

タリク王子が尋ねて来る。うん、確かに自分でもそう思う。前回の時計台でもそうだったのだが、あの2人がパニックになればなるほど不思議と自分の心がどんどん冷静になっていくのだから。恐らくは『人の振り見て我が振り直せ』という事なのかもしれない。

「おい、それよりも本当にそろそろあいつ等を止めないとまずいぞ?このままでは弾切れを起こしそうだし、洞窟だって崩れるかもしれない。それにこの『マターファ』に巣くうモンスターだって現れる・・・かも・・・?」

何故か突然タリク王子が真っ青な顔で震え始めた。

「タリク王子?どうしたのですか?」

「エ・エ・エリス・・・・う、後ろ・・・・。」

タリク王子は私の背後を指さした。

「後ろ?」

言われた私は背後を振り向き、仰天した。何とそこには私達の背丈の3倍はあるのではないかと思われる巨大蟹が鋏を振り上げてこちらを見下ろしているではないか!

「イヤアアアアアンッ!!きょ、巨大蟹があああっ!!」

またしても妙に色気のある叫び声をあげつつ、私はタリク王子にしがみ付いた。

「エ、エリスッ!!そ、そんな叫び声をあげながらしがみ付くなッ!!」

タリク王子は顔を真っ赤にしながら叫んだ。

「ベソッ!!ノッポッ!!こっちに旨そうな蟹がいるぞっ!!焼きガニにしてやれっ!!きっとうまいぞっ!!」

すると狂戦士<バーサーカー>と化したベソとノッポがこちらを振り向き・・・2人はニヤリと笑うと、背負っていた火炎放射器を巨大蟹に向けると炎を吹き付けた!

ゴオオオオ・・・・・!!

激しく噴き出す炎を左右から吹き付けるベソとノッポ。息ピッタリだ。

「フハハハ・・・ッ!!燃えろおっ!燃えてしまえっ!!」

ノッポが高笑いしながら巨大ガニを焼いている!

「焼き蟹になって俺達に食われてしまえっ!!」

何とも恐ろし気な事を言うのはベソである。う~ん・・・やはりこの2人、今や完全に理性が崩壊している。果たして元の2人に戻れるのだろうか・・?いささか私は不安になって来た。
そして辺りに漂う、美味しそうな蟹の匂い・・・。

やがて、蟹の甲羅が黒焦げになる頃・・ようやく理性を取り戻したのかベソとノッポがハーハー言いながら立っていた。
おおっ?!ついに巨大蟹を倒したのかっ?!

「ベソッ!ノッポ!」

私とタリク王子は隠れていた岩の裏から出て来ると声を掛けた。

「やったじゃない!2人供。」

私は手近にいたベソの肩をポンポン叩くと言った。

「あ・・れ・・・?エリスさん・・?お、おれは一体今迄何を・・・?」

虚ろな目で私を見るベソ。

「ギャアッ!な・な・何だ・・・・この黒焦げの巨大蟹は・・・。」

ノッポはこんがり焼けた巨大蟹を見て悲鳴を上げた。

「お・・・おい、嘘だろ・・・?お前達、まさか本当に自分達が何をしたのか覚えていないのか・・・?」

タリク王子は震える指先で2人を指さしながら尋ねた。

「はあ・・・。」

「実は洞窟へ入ってから記憶が・・・。」

ベソとノッポの言葉に思わず絶句する私。
その時、目の前の蟹をじ~っと見つめていたタリク王子がポツリと言った。

「うまそうだな・・・。食してみるか・・・。」


「「「ええええっ?!」」」

私達は3人声を揃えて驚き・・・その後、全員で巨大焼き蟹を食べ始めた。


「うまいっ!こんなに美味い蟹は初めて食べるっ!」

「何てジューシーな味なんだっ!」

ベソとノッポは感動しながら食べているし、タリク王子に至っては蟹の足を両手で抱えながらかぶりついている。

そして私は・・・フフフ・・一番のご馳走、蟹味噌を頂いている。

「良かった~・・・サボテンしか食べていないんで物足りなかったんですよ・・・・。」

まだベソはサボテンの件を引きずっているのか、タリク王子をチラリと見る。

「何だとっ?!まだそう言ってサボテンを馬鹿にするのか?あんなに美味くて栄養価も高いのに・・。」

するとノッポも言う。

「ならタリク王子は蟹なんか食べるのはやめてサボテンを食べてくださいよ。まだたくさん残っているんですから。」

「そうですね、それがいいです。タリク王子、残りは私達が食べるので、どうぞ王子はサボテンを食べて下さい。」

「エ、エリスッ!お前迄俺にそんな事を言うのかッ?!」

タリク王子は何とも情けない声で訴える。

こうして私達は『マターファ』に巣くうモンスターを倒し、さらに思いがけないご馳走にありつく事が出来たのだった—。


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