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第2章 116 罠

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 その翌朝の事だった。

今日は卓也が新しい小学校に行く日だった。
窓から外の様子を伺っていると、やがて着慣れないスーツ姿の親父がまだ子供だった頃の俺を連れて道路に出てきた。

「親父……」

あいつを見る俺の心に再び憎悪の炎が燃える。
邪魔な椎名は今はもう廃人同然になっている。
SNSを駆使して奴を社会から葬り去ったのは俺自身だから、奴の状況は掌握済みだ。
だから今の俺の敵は親父ただ1人ということになる。

きっと、今日……何か事件が起こる。
毎回俺を連れて学校へ行く度に親父は注意され、その怒りの矛先を俺にぶつけてきたのだから。

「今日は……絶対に奴を証拠を残さないように叩き潰してやる……」

そして拳を握りしめた――。



****


 午後5時過ぎ――


異変は起こった。
アパートに仕掛けていた隠しカメラに帰宅した親父が写り、卓也に暴行を加え始めたのだ。
殴る蹴るの暴力を受け、卓也が泣き叫んでいる。

くそっ!親父の奴……っ!

すぐにでも止めに入りたかったけれど、あの部屋では無理だ。
奴の後をつけて……襲撃してやる。

親父はさらに卓也にタバコの火を押し付けると、アパートの部屋を出て行った。

「……すまない、卓也…今は…奴を追わせてくれ!」

PCの画面に映る卓也に謝ると、上着を羽織ると親父の後を追った。

大丈夫だ……きっと彩花が助けてくれるはずだ。
いつもいつもそうだったから。

彩花……迷惑かけてごめん……!

心の中で2人に詫ながら、親父の背中を睨みつけた――。




****


 駅前の繁華街を親父はフラフラと歩いていく。

きっと、今から怪しげなヤミ金業者から金を借りに行くはずだ。
だが……そんなことさせるものか……っ!

やがて人気の無い裏路地へと親父は入っていく。ここは知る人ぞ知る、悪徳ヤミ金業者がある路地だ。

「……」

そこでフードを目深に被り、マスクをつけると俺は親父に近付いた。

「……こんなところをうろついているってことは…さては金がいるのか?」

なるべくドスのきいた低い声で親父に声を掛けた。

「え?な、何だって?」

間の抜けた声で振り向く親父。

「この辺はヤバイヤミ金業者ばかりある路地だからな。だが、俺なら格安で金を貸してやるぞ?」

「それ……本当の話なのか?」

馬鹿な親父はあっさりと俺の話を真に受ける。

「ああ、そうだ。だが、ここでは無理だな。向こうに俺の店があるんだ。借りる気があるならついてこいよ」

「あ、ああ。なら話だけ聞くのもいいな」

親父は下卑た笑いをすると、俺の後をついてきた。

本当に馬鹿な親父だ。

俺は親父を連れて、どんどん人の気配がない路地に連れていき……ついに行き止まりに辿り着いた。


「よし、このあたりで良いだろう」

「あん?何がいいんだ?」

親父が尋ねてきたところを俺は問答無用で殴りつけた――。
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