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第2章 117 誤算

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「き、貴様っ!いきなり何するんだっ!」

俺に激しく殴りつけられて地面に倒れこんだ親父は怒鳴りつけて来た。

「うるさい、貴様には心あたりが無くても俺はお前を痛めつけなきゃならないんだよ!」

ボキボキと両手を組んで鳴らしながら、親父に近付いていく。

「く、くそっ!」

親父は起き上がると、近くに落ちていたコンクリート片を投げつけて来た。

シュッ!

空を切って飛んでくるコンクリート片を難なく避ける。

「なっ?!」

驚愕して目を見張る親父。
馬鹿な奴だ。俺はお前をぶちのめす為にボクシングを習っていたのだからな。

「覚悟しろ……!」

再び俺は親父に殴りかかっていった――。



****


「う……」

地面に無様に這いつくばる親父。
死なない程度に痛めつけてやったから、当分悪さは出来ないだろう。
ざまぁみろ、いい気味だ。

誰にも見られていない路地裏だし、奴を痛めつけている間俺はずっとフードを目深に被っていたから顔も見られていないはずだ。

「…‥‥」

ボロ雑巾のように転がっている親父を一瞥すると、足早に駅へと足を向けた。

だが、このことが悲劇の引き金になるとはこの時の俺は思ってもいなかった――。


****


 俺はこの日、念のためにマンションに戻るのはやめてビジネスホテルに泊まることにした。

万一、警察に奴が通報して付近一帯に聞き込みに来られては厄介だからだ。

「全く……親父のせいで余計な体力を使ってしまった」

ホテルの部屋でコンビニ弁当を食べながらついぼやいてしまう。
窓の外を見ると、そこは駅前の賑やかな様子が良く見えた。

そして何故かふと思った。

彩花の顔が見たい…。

「よし、明日は彩花に会いに行こう。俺自身の様子も気になるしな」

そして再びコンビニ弁当を食べ始めた――。



****


 翌日21時過ぎ――


「この時間なら彩花も食事が済んでいる頃だろうな…」

ぶらぶらと夜の道を歩いていると、パトカーがサイレンを鳴らしてこちらへ向かって近付いていることに気付いた。

「パトカー?こんな夜の住宅街に……」

言いかけて、すぐに嫌な予感を覚えた。

まさか……!親父が何かやらかしたのか?!

すぐ背後からパトカーが迫っている。
たまたま細い路地裏を見つけたので、そこに入って身を隠していると2台のパトカーが走り去っていった。

「パトカーが2台も…!」

これはもう絶対にあのアパートで何かあったに違いない。


「‥‥‥くそっ!」

拳を握りしめると、俺は急いでアパートへ向かった。


そして、アパートの敷地内でパトランプを回して停車している2台のパトカーに野次馬たちが集まっている姿が目に映った。
その様子を離れたところから見守っていた次の瞬間……。


「そ、そんな‥‥…あれだけ痛めつけたって言うのに……?」


親父が項垂れた様子で警察官に連行されて現れた――。
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