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4-6 男2人の会話
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「え?何だって…?アリアドネ様が…?」
シュミットは書類から目を離すと、スティーブを見た。
「ああ、そうだ。アリアドネはアイゼンシュタットの冬の仕事に慣れていないんだよ。だから手荒れがとても酷くて見るに耐えない。お前の方から下働きの仕事は辞めるように伝えるんだよ」
スティーブはあの後、真っ直ぐにシュミットの執務室へ足を運び、アリアドネの状況を説明していた。この時間はエルウィンは騎士達と剣術の訓練をしていることを予めスティーブは理解していたので、シュミットの執務室を訪れていたのである。
シュミットはスティーブの言葉にため息を付いた。
「しかし、下働きの仕事はアリアドネ様が望んだ事で…働くことで自分の居場所を得ることが出来ていると感じられているのに…か?」
シュミットはうつむき加減に説明した。アリアドネはエルウィンに城を追い出された身でありながらアイゼンシュタット城に留まる事に負い目を感じていた。そこで労働することを条件に自分から望んで下働きの仕事に就いている。その事を理解していたシュミットにはアリアドネに下働きの仕事を辞めるようにとは言い出しにくかったのだ。
「シュミット。お前がアリアドネの気持ちを汲んだのは理解出来る。が…仮にも彼女は大将の妻となるべくしてこの城に来たんだぜ?それがあんな粗末な部屋に住んで、下働きとして手にあかぎれを作って働いている。気の毒だとは思わないのか?」
「う…そ、それは分かっているが…」
「大体、お前は冷たい奴だ。アリアドネがこの城に来て、10日程経過したが…その間、何回アリアドネの様子を見に行ったんだ?まだ2~3回程しか訪ねていないだろう?」
スティーブの追求は続く。
「分かってる。俺だって…本当はもっとアリアドネ様の様子を見に行きたいのだが…今は越冬期間中で、常にエルウィン様と始終一緒に仕事をしている状況だ。お前なら良く理解出来るだろう?この城に篭っている期間しか、エルウィン様に執務の時間が無いって事位…。何しろ、それ以外の時間は辺境伯として、この国を守るために日々、戦いに身を費やしているお方なのだから」
「…」
スティーブは腕組みしながら難しい顔つきでシュミットに言った。
「実は…越冬期間をこの城で過ごす為にやってきた領民達の中に、去年まではいなかった若い男が混ざっていた」
「え?お前…突然何を言い出すのだ?」
シュミットは突然領民達の話を持ち出してきたスティーブを訝しげに見た。
「その男が…どうやらアリアドネを偉く気に入ってしまったようなんだ」
「何?」
シュミットがその言葉に素早く反応する。
「その男はアリアドネから『ダリウス』と呼ばれていて…2人はとても親しそうにしていた。そして、男は手荒れが酷いアリアドネの為にハンドクリームを俺の見ている前で手渡したんだ。それだけじゃない、彼女の頭を撫でていた」
「何だってっ?!」
気付けばシュミットは立ち上がっていた。
「そ、それは…本当なのか?」
「あ、ああ…そうだが…それにしてもお前、随分狼狽えている時じゃないか」
スティーブはニヤニヤしながらシュミットを見た。
「う…」
途端にシュミットはアリアドネの事で冷静さを欠いてしまった自分が恥ずかしくなってしまった。
無言で椅子に座ると、スティーブは腕組みしながら面白そうに言った。
「やはりな…お前もアリアドネのことが気になって仕方ないんだろう?何と言っても彼女は気立てが良くて美人だしな~」
「…それだけじゃない」
シュミットはポツリと言った。
「…ん?」
首を傾げるスティーブにシュミットは言った。
「アリアドネ様は…他の領地の方々とは違う。彼等は皆、この国を守るのはアイゼンシュタット城に住む我らの仕事だと決めつけている。それだけじゃない、戦争を好む野蛮人だと思っている。けれどアリアドネ様は…」
するとその後にスティーブが続けた。
「命を懸けてこの国を守って貰っているから、感謝の言葉しか無いって言ってたな」
「そうか…。お前にも言っていたのか」
「ああ。本当に…いい人だよ。アリアドネは」
「…そうだな」
「なら、俺の言いたい事が分かるだろう?アリアドネを早くあの下働きから開放してやらなくちゃならないって」
「だが、何処に住んで頂くんだ?…城の中で暮らしてもらうのは…色々まずいぞ?まして今はこんな時期だし…」
シュミットは窓の外を眺めながらため息をついた。
外は…いつの間にか、吹雪になっていた―。
シュミットは書類から目を離すと、スティーブを見た。
「ああ、そうだ。アリアドネはアイゼンシュタットの冬の仕事に慣れていないんだよ。だから手荒れがとても酷くて見るに耐えない。お前の方から下働きの仕事は辞めるように伝えるんだよ」
スティーブはあの後、真っ直ぐにシュミットの執務室へ足を運び、アリアドネの状況を説明していた。この時間はエルウィンは騎士達と剣術の訓練をしていることを予めスティーブは理解していたので、シュミットの執務室を訪れていたのである。
シュミットはスティーブの言葉にため息を付いた。
「しかし、下働きの仕事はアリアドネ様が望んだ事で…働くことで自分の居場所を得ることが出来ていると感じられているのに…か?」
シュミットはうつむき加減に説明した。アリアドネはエルウィンに城を追い出された身でありながらアイゼンシュタット城に留まる事に負い目を感じていた。そこで労働することを条件に自分から望んで下働きの仕事に就いている。その事を理解していたシュミットにはアリアドネに下働きの仕事を辞めるようにとは言い出しにくかったのだ。
「シュミット。お前がアリアドネの気持ちを汲んだのは理解出来る。が…仮にも彼女は大将の妻となるべくしてこの城に来たんだぜ?それがあんな粗末な部屋に住んで、下働きとして手にあかぎれを作って働いている。気の毒だとは思わないのか?」
「う…そ、それは分かっているが…」
「大体、お前は冷たい奴だ。アリアドネがこの城に来て、10日程経過したが…その間、何回アリアドネの様子を見に行ったんだ?まだ2~3回程しか訪ねていないだろう?」
スティーブの追求は続く。
「分かってる。俺だって…本当はもっとアリアドネ様の様子を見に行きたいのだが…今は越冬期間中で、常にエルウィン様と始終一緒に仕事をしている状況だ。お前なら良く理解出来るだろう?この城に篭っている期間しか、エルウィン様に執務の時間が無いって事位…。何しろ、それ以外の時間は辺境伯として、この国を守るために日々、戦いに身を費やしているお方なのだから」
「…」
スティーブは腕組みしながら難しい顔つきでシュミットに言った。
「実は…越冬期間をこの城で過ごす為にやってきた領民達の中に、去年まではいなかった若い男が混ざっていた」
「え?お前…突然何を言い出すのだ?」
シュミットは突然領民達の話を持ち出してきたスティーブを訝しげに見た。
「その男が…どうやらアリアドネを偉く気に入ってしまったようなんだ」
「何?」
シュミットがその言葉に素早く反応する。
「その男はアリアドネから『ダリウス』と呼ばれていて…2人はとても親しそうにしていた。そして、男は手荒れが酷いアリアドネの為にハンドクリームを俺の見ている前で手渡したんだ。それだけじゃない、彼女の頭を撫でていた」
「何だってっ?!」
気付けばシュミットは立ち上がっていた。
「そ、それは…本当なのか?」
「あ、ああ…そうだが…それにしてもお前、随分狼狽えている時じゃないか」
スティーブはニヤニヤしながらシュミットを見た。
「う…」
途端にシュミットはアリアドネの事で冷静さを欠いてしまった自分が恥ずかしくなってしまった。
無言で椅子に座ると、スティーブは腕組みしながら面白そうに言った。
「やはりな…お前もアリアドネのことが気になって仕方ないんだろう?何と言っても彼女は気立てが良くて美人だしな~」
「…それだけじゃない」
シュミットはポツリと言った。
「…ん?」
首を傾げるスティーブにシュミットは言った。
「アリアドネ様は…他の領地の方々とは違う。彼等は皆、この国を守るのはアイゼンシュタット城に住む我らの仕事だと決めつけている。それだけじゃない、戦争を好む野蛮人だと思っている。けれどアリアドネ様は…」
するとその後にスティーブが続けた。
「命を懸けてこの国を守って貰っているから、感謝の言葉しか無いって言ってたな」
「そうか…。お前にも言っていたのか」
「ああ。本当に…いい人だよ。アリアドネは」
「…そうだな」
「なら、俺の言いたい事が分かるだろう?アリアドネを早くあの下働きから開放してやらなくちゃならないって」
「だが、何処に住んで頂くんだ?…城の中で暮らしてもらうのは…色々まずいぞ?まして今はこんな時期だし…」
シュミットは窓の外を眺めながらため息をついた。
外は…いつの間にか、吹雪になっていた―。
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