81 / 376
6-6 アリアドネの申し出
しおりを挟む
翌朝6時―
「う~ん…困ったことになった…」
アリアドネが厨房で朝食の準備の為に野菜を切っていると、隣のかまどでスープを煮込んでいたマリアがうなっていた。
「どうかしたのですか?」
「ああ…実は、セリアの事なんだよ」
「そう言えば今朝はセリアさんの姿が見えませんね。確か本日はセリアさんも私たちと一緒に食事当番でしたよね?」
アリアドネは厨房で働く女性達を見渡しながらマリアに尋ねた。
「そうなんだけど…実はセリアが風邪をひいてしまって高熱があるんだよ」
「まぁ、そうだったのですか?では私がセリアさんの食事をお部屋まで運びましょうか?糸紬の仕事もセリアさんの分まで頑張ります。何しろ昨日は仕事をお休みさせて頂いたのですから」
「ああ、それなら大丈夫だよ。イゾルネが部屋に届けると言っていたからね。大体、アリアドネは昨日は靴下を編んでくれていたじゃないか。仕事を休んだなんて思う必要は無いよ。それよりも問題なのは…実は今日セリアはエルウィン様に呼ばれているんだよ」
「エルウィン様にですか?」
アリアドネは首を傾げた。
「今日は11時からランベール様の葬儀が執り行われる話は知っているだろう?」
「はい、昨日伺いましたから」
アリアドネは切り終えた野菜をざるに入れると返事をする。
「実は喪主を務めるエルウィン様の支度の手伝いにセリアが指名されていたんだよ。彼女は10年前はエルウィン様の専属メイドを務めていからね。エルウィン様が直々にセリアを指名してきたんだ。礼服を合わせる支度を手伝って欲しいとね。けれど、セリアは高熱を出してしまっただろう?おまけにエルウィン様は城のメイドたちが気に食わなくて、自分の周囲に近づけたくないんだよ」
「そうだったのですか…」
アリアドネは玉ねぎの皮をむきながら返事をする。
「はぁ~…困ったものだ…セリア以外に礼服を合わせる事が出来る者なんてここにはいないのに…」
深いため息をつくマリア。
「…」
少しの間、アリアドネは黙って話を聞いていたが…やがて言った。
「あの…私でよろしければ…エルウィン様の礼服合わせを行いましょうか?」
「え?そんなことが出来るのかい?」
マリアは驚いたようにアリアドネを見る。
「はい、屋敷にいた頃はそのような仕事もしておりましたから」
アリアドネは少しだけ父親の事を思い出していた。
(お父様は元気にしていらっしゃるのかしら…?結局私はお父様の期待に添える事が出来ずに下働きとしてお城で働かせてもらっているけど…)
「でも‥‥いいのかい?エルウィン様の所に行かせても‥」
マリアの顔には心配そうな表情が浮かんでいる。
「はい、大丈夫です。エルウィン様は私の正体をご存じありませんし、お返ししたいものがありますので」
アリアドネのエプロンのポケットにはずっと返せないでいるクラバットがいまだに入っている。
「そうかい…?何だか悪いね。正体がもしバレそうになったら笑ってごまかしてしまいな」
「笑って…ですか?」
「ああ、そうさ」
マリアの顔は笑っている。
「分かりました。笑ってごまかしてみますね。それで何時にどこへ伺えばよいのでしょうか?」
「9時にエルウィン様の執務室だよ。あ、でも安心しな。シュミット様が仕事場に迎えに来てくれることになっているから一緒に行けばいいよ」
「はい、分かりました」
そして話がまとまった2人は朝食の準備に集中した―。
「う~ん…困ったことになった…」
アリアドネが厨房で朝食の準備の為に野菜を切っていると、隣のかまどでスープを煮込んでいたマリアがうなっていた。
「どうかしたのですか?」
「ああ…実は、セリアの事なんだよ」
「そう言えば今朝はセリアさんの姿が見えませんね。確か本日はセリアさんも私たちと一緒に食事当番でしたよね?」
アリアドネは厨房で働く女性達を見渡しながらマリアに尋ねた。
「そうなんだけど…実はセリアが風邪をひいてしまって高熱があるんだよ」
「まぁ、そうだったのですか?では私がセリアさんの食事をお部屋まで運びましょうか?糸紬の仕事もセリアさんの分まで頑張ります。何しろ昨日は仕事をお休みさせて頂いたのですから」
「ああ、それなら大丈夫だよ。イゾルネが部屋に届けると言っていたからね。大体、アリアドネは昨日は靴下を編んでくれていたじゃないか。仕事を休んだなんて思う必要は無いよ。それよりも問題なのは…実は今日セリアはエルウィン様に呼ばれているんだよ」
「エルウィン様にですか?」
アリアドネは首を傾げた。
「今日は11時からランベール様の葬儀が執り行われる話は知っているだろう?」
「はい、昨日伺いましたから」
アリアドネは切り終えた野菜をざるに入れると返事をする。
「実は喪主を務めるエルウィン様の支度の手伝いにセリアが指名されていたんだよ。彼女は10年前はエルウィン様の専属メイドを務めていからね。エルウィン様が直々にセリアを指名してきたんだ。礼服を合わせる支度を手伝って欲しいとね。けれど、セリアは高熱を出してしまっただろう?おまけにエルウィン様は城のメイドたちが気に食わなくて、自分の周囲に近づけたくないんだよ」
「そうだったのですか…」
アリアドネは玉ねぎの皮をむきながら返事をする。
「はぁ~…困ったものだ…セリア以外に礼服を合わせる事が出来る者なんてここにはいないのに…」
深いため息をつくマリア。
「…」
少しの間、アリアドネは黙って話を聞いていたが…やがて言った。
「あの…私でよろしければ…エルウィン様の礼服合わせを行いましょうか?」
「え?そんなことが出来るのかい?」
マリアは驚いたようにアリアドネを見る。
「はい、屋敷にいた頃はそのような仕事もしておりましたから」
アリアドネは少しだけ父親の事を思い出していた。
(お父様は元気にしていらっしゃるのかしら…?結局私はお父様の期待に添える事が出来ずに下働きとしてお城で働かせてもらっているけど…)
「でも‥‥いいのかい?エルウィン様の所に行かせても‥」
マリアの顔には心配そうな表情が浮かんでいる。
「はい、大丈夫です。エルウィン様は私の正体をご存じありませんし、お返ししたいものがありますので」
アリアドネのエプロンのポケットにはずっと返せないでいるクラバットがいまだに入っている。
「そうかい…?何だか悪いね。正体がもしバレそうになったら笑ってごまかしてしまいな」
「笑って…ですか?」
「ああ、そうさ」
マリアの顔は笑っている。
「分かりました。笑ってごまかしてみますね。それで何時にどこへ伺えばよいのでしょうか?」
「9時にエルウィン様の執務室だよ。あ、でも安心しな。シュミット様が仕事場に迎えに来てくれることになっているから一緒に行けばいいよ」
「はい、分かりました」
そして話がまとまった2人は朝食の準備に集中した―。
84
あなたにおすすめの小説
【完結】身勝手な旦那様と離縁したら、異国で我が子と幸せになれました
綾雅(りょうが)要らない悪役令嬢
恋愛
腹を痛めて産んだ子を蔑ろにする身勝手な旦那様、離縁してくださいませ!
完璧な人生だと思っていた。優しい夫、大切にしてくれる義父母……待望の跡取り息子を産んだ私は、彼らの仕打ちに打ちのめされた。腹を痛めて産んだ我が子を取り戻すため、バレンティナは離縁を選ぶ。復讐する気のなかった彼女だが、新しく出会った隣国貴族に一目惚れで口説かれる。身勝手な元婚家は、嘘がバレて自業自得で没落していった。
崩壊する幸せ⇒異国での出会い⇒ハッピーエンド
元婚家の自業自得ざまぁ有りです。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/10/07……アルファポリス、女性向けHOT4位
2022/10/05……カクヨム、恋愛週間13位
2022/10/04……小説家になろう、恋愛日間63位
2022/09/30……エブリスタ、トレンド恋愛19位
2022/09/28……連載開始
【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される
風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。
しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。
そんな時、隣国から王太子がやって来た。
王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。
すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。
アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。
そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。
アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。
そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。
【完結】偽物聖女は冷血騎士団長様と白い結婚をしたはずでした。
雨宮羽那
恋愛
聖女補佐官であるレティノアは、補佐官であるにも関わらず、祈りをささげる日々を送っていた。
というのも、本来聖女であるはずの妹が、役目を放棄して遊び歩いていたからだ。
そんなある日、妹が「真実の愛に気づいたの」と言って恋人と駆け落ちしてしまう。
残されたのは、聖女の役目と――王命によって決められた聖騎士団長様との婚姻!?
レティノアは、妹の代わりとして聖女の立場と聖騎士団長との結婚を押し付けられることに。
相手のクラウスは、「血も涙もない冷血な悪魔」と噂される聖騎士団長。クラウスから「俺はあなたに触れるつもりはない」と言い放たれたレティノアは、「これは白い結婚なのだ」と理解する。
しかし、クラウスの態度は噂とは異なり、レティノアを愛しているようにしか思えなくて……?
これは、今まで妹の代わりの「偽物」として扱われてきた令嬢が「本物」として幸せをつかむ物語。
◇◇◇◇
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます!
モチベになるので良ければ応援していただければ嬉しいです♪
※いつも通りざまぁ要素は中盤以降。
※完結まで執筆済み
※表紙はAIイラストです
※アルファポリス先行投稿(他投稿サイトにも掲載予定です)
虜囚の王女は言葉が通じぬ元敵国の騎士団長に嫁ぐ
あねもね
恋愛
グランテーレ国の第一王女、クリスタルは公に姿を見せないことで様々な噂が飛び交っていた。
その王女が和平のため、元敵国の騎士団長レイヴァンの元へ嫁ぐことになる。
敗戦国の宿命か、葬列かと見紛うくらいの重々しさの中、民に見守られながら到着した先は、言葉が通じない国だった。
言葉と文化、思いの違いで互いに戸惑いながらも交流を深めていく。
【電子書籍化・1月末削除予定】余命一カ月の魔法使いは我儘に生きる
大森 樹
恋愛
【本編完結、番外編追加しています】
多くの方にお読みいただき感謝申し上げます。
感想たくさんいただき感謝致します。全て大切に読ませていただいております。
残念ですが、この度電子書籍化に伴い規約に基づき2026年1月末削除予定です。
よろしくお願いいたします。
-----------------------------------------------------------
大魔法使いエルヴィは、最大の敵である魔女を倒した。
「お前は死の恐怖に怯えながら、この一カ月無様に生きるといい」
死に際に魔女から呪いをかけられたエルヴィは、自分の余命が一カ月しかないことを知る。
国王陛下から命を賭して魔女討伐をした褒美に『どんな我儘でも叶える』と言われたが……エルヴィのお願いはとんでもないことだった!?
「ユリウス・ラハティ様と恋人になりたいです!」
エルヴィは二十歳近く年上の騎士団長ユリウスにまさかの公開告白をしたが、彼は亡き妻を想い独身を貫いていた。しかし、王命により二人は強制的に一緒に暮らすことになって……
常識が通じない真っ直ぐな魔法使いエルヴィ×常識的で大人な騎士団長のユリウスの期間限定(?)のラブストーリーです。
※どんな形であれハッピーエンドになります。
【完結】妖精姫と忘れられた恋~好きな人が結婚するみたいなので解放してあげようと思います~
塩羽間つづり
恋愛
お気に入り登録やエールいつもありがとうございます!
2.23完結しました!
ファルメリア王国の姫、メルティア・P・ファルメリアは、幼いころから恋をしていた。
相手は幼馴染ジーク・フォン・ランスト。
ローズの称号を賜る名門一族の次男だった。
幼いころの約束を信じ、いつかジークと結ばれると思っていたメルティアだが、ジークが結婚すると知り、メルティアの生活は一変する。
好きになってもらえるように慣れないお化粧をしたり、着飾ったりしてみたけれど反応はいまいち。
そしてだんだんと、メルティアは恋の邪魔をしているのは自分なのではないかと思いあたる。
それに気づいてから、メルティアはジークの幸せのためにジーク離れをはじめるのだが、思っていたようにはいかなくて……?
妖精が見えるお姫様と近衛騎士のすれ違う恋のお話
切なめ恋愛ファンタジー
【完結】いくら溺愛されても、顔がいいから結婚したいと言う男は信用できません!
大森 樹
恋愛
天使の生まれ変わりと言われるほど可愛い子爵令嬢のアイラは、ある日突然騎士のオスカーに求婚される。
なぜアイラに求婚してくれたのか尋ねると「それはもちろん、君の顔がいいからだ!」と言われてしまった。
顔で女を選ぶ男が一番嫌いなアイラは、こっ酷くオスカーを振るがそれでもオスカーは諦める様子はなく毎日アイラに熱烈なラブコールを送るのだった。
それに加えて、美形で紳士な公爵令息ファビアンもアイラが好きなようで!?
しかし、アイラには結婚よりも叶えたい夢があった。
アイラはどちらと恋をする? もしくは恋は諦めて、夢を選ぶのか……最後までお楽しみください。
悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?
いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー
これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。
「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」
「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」
冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。
あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。
ショックで熱をだし寝込むこと1週間。
目覚めると夫がなぜか豹変していて…!?
「君から話し掛けてくれないのか?」
「もう君が隣にいないのは考えられない」
無口不器用夫×優しい鈍感妻
すれ違いから始まる両片思いストーリー
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる